リベンジ魔王の元に少女が現れたからと言ってパパになるなんてあり得るわけがない〜全敗魔王軍の魔王城から始まる勇者討伐。マジでほのぼのしてる場合じゃないって〜

竹広木介

第1話 魔王

 27戦 0勝 27敗 この記録は歴代の魔王、83代魔王までが勇者に負け続けたということだ。


 そして俺は第28代魔王。名前はない。


 たとえあったとしても呼ばれる事はない。


 傍にいる眼鏡をかけ、容姿端麗でありながら服装に派手さは無く白と黒の装束は体のラインの美しさを引き出している。魔族らしく黒いツノが耳の辺りから髪をかき分け出ている。


 彼女は膝跨ぎながら、

「魔王様、準備が整いました」

 と言った。


 このように魔王様と呼ばれる。


 俺の服装は真っ黒だというのにとにかく派手で無駄に黒い羽や金属がジャラジャラしている。


 これはいったいかっこいいのだろうか?


「どうされました?魔王様」

 おっとまずい。


「あぁ、分かった。……では始めるか」


 魔王のマニュアル通り行かせてもらおうか。


「解除」

 魔王城の透明化を解除する。

 座っている椅子から全開で邪気を流し込む。


『人間どもよ。私は魔王だ。第28代魔王である。これより魔王軍は進軍を開始する。怯えるがいい。フハハハっ』


 んっんっ!よし。

「どうだった?エティア」


「魔王様、怯えるがいいと言うのはやめたほうがいいかと。それと最後の笑い声ですが、もっと邪悪感を強めてください」

 

 やった事ないからしょうがないじゃん。

「そうだな。本番はもっとそうしよう」


 今はまだ魔界の上空。本番は人間界上空で行う。決行まで残り一週間ほど。


 マニュアル通り、一度魔界でテストを行い、その後人間界で行う。


 魔王が先代より与えられるもの。それは魔王城『レメゲトン』と傍にいるエティアのみだ。先代の魔王が死ぬと同時に魔王城と魔王軍の全てが消え去る。魔界と人間界の行き来は百年出来なくなる。


 勇者が敗れ魔王が勝った場合、百年間、人間界は魔王軍の統治下になる。


「エティア、次は魔王軍の作成だな」

「はい、ゲートの準備は出来ています。魔人、魔獣、ドラゴン、妖精なんでも出来ますがどうしますか?」


 どうするかなぁ。まだやった事ないからな。


「とりあえず魔人系からやってみよう」


 かしこまりましたとエティアはゲートを開く。


 俺の目の前の空間は歪み、黒い渦が現れる。

 これがゲートか。


 渦の中に入る。すぐに目の前の景色は変わり、辺りは暗く薄緑の光が照らしいている。


 ここが魔王城魔王軍製作室No.01『バアル』なのか。


 直径二百メートルほどの円形のその部屋にはいくつもの液体が入った生き物を作れるほどの機械がたくさん存在する。


 俺に続いてエティアがゲートから出てくる。

「魔王様、マニュアルを読ませて頂きます」

「分かった。頼む」


「魔人作成は二十ニページですね。えーっと、魔王様の邪気を器具に流し込むだけで出来るみたいですね。大量の改良を加えているので簡略化されてるようです」


「先代!助かるぜ!」


「そうですね。先代に感謝ですね」


 俺とエティアの関係はよく分からない。俺がこの地に生まれ始めて見た生き物はエティアだ。エティアもそうだろう。


 本能で上下関係だけ理解した。エティアは魔王軍マニュアルというものを持っていて、俺が生まれて持っていたものは魔王城とこのエティアだけだ。


 身体の使い方は生まれながらに知っていた。知識も知恵もあった。生まれたと言っても気づいた時には魔王城の椅子に座っていたわけだが。


 知識があっても一切の記憶がない。不思議な感覚がまだある。でも不快ではなかった。


「ここに邪気を流し込めばいいんだな?」


 液体の入った器具の中央の出っ張りを掴む。


「はい。ここを見てください。絵で分かりやすく説明されています」


「こんな簡略化してるのに絵まであるのかよ。こんだけなんだから絶対いらないよね!」


「まあ、やってみましょう」


 そうだな。

「では行くぞ」


「魔王様頑張ってください」


 息を吐き、集中する。邪気を手のひらに集中させ、流し込むように身体から放出する。

 

 ブクッ、ブクッっと中の液体が沸騰するように動き出し、そして出来た泡が一点に集まっていく。


 牛のような頭にムキムキの身体、馬のような足。高さは三メートルを越えていた。

 くそ!最初から俺より身長高いじゃねぇか。顔も怖いしよ。


「よし、これで一体だな」


「さすがです。魔王様」


 バキッと透明なガラスを割り液体が流れ出す。


「魔王様、我が主人。私を作っていただきありがとうございます。全ては貴方様のために」

 と出てきた魔人は言った。


「よろしければ私に名前をください」


「んっんっ、良かろう。お前はザガン。魔王軍魔王城の門の護衛をお前の任務とする。さあ行け」


「その任務、命をかけて果たさせて頂きます」

 

 ザガンは背中に力を込めているのが分かる。

 バザッと黒いコウモリのような羽が生える。

 羽を羽ばたかさせ飛び上がる。

「あっ、魔王様、魔王城の門ってどこでしたっけ?」


 おいおい、知らんのかい!

「エティア、こいつに地図を」

「かしこまりました」


 びりっとマニュアルを破る。

「ねぇ、何やってるの?」


「はい。マニュアルの中にある魔王城の地図を渡そうと思いまして」


 マジかよ。なんとなくノリで地図を渡しとけって言ったけどそんな貴重なものそうないよな。


「ザガンよ。あとで使うから返しに来い。いいな?」

「はっ、かしこまりました」


 そして俺はもう十体ほどを作り終えた。

 身体から相当な疲労を感じる。


 今まで作ってきた魔人達はムキムキでむさ苦しい奴ばかりだった。ロバの顔だったり、顔と呼べるものがなかったり何というか……はぁー。


 大きめのため息がつい出てしまった。


「最後にしようか。もう疲れた」

 こんなすぐに疲れるのかよ。十体でこれってことは、そりゃ負けるよ。


 魔王軍が負ける理由が少し分かった気がする。


 なんか癒されたいなー。こんな薄暗い世界で勇者にも勝てる気がしないし。


 最後の一体を作るために器具に手を乗せる。

 そして送り込む。


 何度も見た液体の泡が集まって行く光景。収束していく泡は形を形成していく。


 これはいったい⁉︎

「エティア、これはなんだ?」

「わ、分かりません。……人間でしょうか?」


 それは魔人と呼ぶにはあまりにも小さく、可愛らしい。丸い顔にくりくりとした目はまるで人間の子供だ。


 液体が流れ出し子供は俺に向かって落ちてくる。


「おっと、これは」

 子供を抱える。


「私のパパ?」

 高く可愛い声が俺の耳に響く。


「ぱっ、パパでちゅよー」

「魔王様その声は……」


 つい出てしまったその声に驚きを隠せずに辺りは静まり返る。

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