第2話

座席の前にミニテーブルがあり、そこにブランディ―の水割りがあった。

「お口汚しにどうぞ」

黒服の運転手が言うので口にした。

――うまい!

俺はもともとブランディ―が好きなのだが、これほどまでにうまいブランディ―を飲んだことはなかった。

再び車が停まるまでの数分の間に、一杯飲みほしてしまった。

車が停まった先は海で、船が浮かんでいた。

電車一両分くらいはゆうにある大型のクルーザーだ。

カウという団体はやはりお金を持っているようだ。

運転手に促されて船の中に入る。

中には別の品のいい黒服がいた。

「どうぞ」と案内された先には、ドアがいくつも並んでいた。

告げられた番号の中に入る。

そこは四畳ほどの個室だった。

「朝には着きますので、それまでゆっくりおやすみなさい」

ベッドとテーブル。そしてテーブルの上にはさっきのブランディ―が。

黒服がドアを閉めると同時に飲み始めた。

やはりうまい。

――なんという銘柄のブランディ―なのだろうか?

考えたがガラスのコップには銘柄など書いていないし、今まで一度も飲んだことがないので考えてもなにも思い浮かばない。

少し酔ってきた。

しばらくすると外の廊下を誰かが歩いてくるかすかな音が聞こえてくる。

聞き取れないほどの話し声と、ドアを開け閉めする音。

それらの音は全て小さい。

船内で壁もそれほど厚くはないようだが、それなりの防音ができている。

とにかく俺以外の誰かが案内されたようだ。

廊下を挟んで斜め向かいの部屋らしい。

参加者は確か八人だと聞いた。

そのうちの一人なのだろう。

そんなことを考えっていると、隣の部屋で人の気配がした。

隣の部屋は俺がここに来てからは誰も出入りしていないので、今隣にいるやつは、俺が来る前からそこにいることになる。

――ずいぶんおとなしいやつだなあ。

ある意味感心していると、また誰か案内されてきたようだ。

すこしおいてまた一人。

――今何人来ているのだろう?

考えてもわからないとあきらめたとき、船が軽く振動を始めた。

そして丸窓から見える街の夜景が動きだした。

思っていたよりは静かだが、船が出航を始めたようだ。

しばらく外を眺めていたが、やがて眠気を覚えてベッドに横になった。

そしてそのまま眠りについた。


目が覚めた。

正確には起こされたのだが。

俺を起こしたのは船にいた黒服だ。

四十歳くらいの長身で物腰の低い男だ。

「着きました」

男に導かれて船の外に出た。

そしてすぐに目に入ってきた。

大きな洋館だ。

外国映画に出てくる大金持ちが住むような見事なお屋敷だ。

「あそこでしばらくの間、暮らしていただきます」

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