ファスター・アンダーグラウンド
藤原埼玉
1
テーブルの上の小さなビニールに包まれた錠剤を二つをアルコールで流し込んで2-30分待つ。たったそれだけで世界は変わる。
幸福と共に隣人への思いやりと愛が心を満たし、あらゆる悩み事が些少になる。最高にご機嫌ってやつになれるんだ。
俺は押し寄せてくる多幸感の波を乗りこなし現実を超越していく。この新宿という小さなアスファルトの箱庭なんて丸ごと無条件で愛せる気がする。
俺は果報者だ。こんなにも俺は充足していて、十全で、完全で、統一的だ。
俺は自らを通して世界を旅する。トラヴェリング・ウィズアウト・ムーヴィング。ここで地球の細胞をつぶさに感じている。
口腔に差し込まれる柔らかい舌、涼し気でフリスクの味がするキス、荒々しくも親密に生暖かい粘液が惜しげなく交換されていく。
お前の幸福そうな笑顔が見れた気がした。お前の結った黒い長髪が夜闇の様に俺の頬をくすぐる。
蛍光灯の涅槃を背にしたお前は、俺の幸福な笑顔の理由を知ろうとはしない。だが、それでいい。俺の中の天使がそう言っている。そんな気がする。だから、いい。
胸元に甘やかな刺激が貫く。見るとそいつは俺の胸元の辺りに顔を埋め甘噛みしていた。血液が快楽と共に駆け上がる、駆け巡る。俺は嬌声を上げる。赤んぼうみたいな声を。
お前の親密で共犯的な眼差しが俺の眼窩を貫く。俺は涙ぐむ。余りにも幸福だから。
俺はお前の腿に力なく、縋るように手を触れる。
早く貫いてくれ。
お前のその光で、俺の身体ごと灼き尽くせよ。
俺の感覚は俺の身体を置き去りにして夜闇の中を疾走していく。
だから、一緒に行こうぜ。なあ。
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