レオナルド・ダ・ヴィンチの子供達
@watakasann
第一章 不思議な報酬
第1話 報酬は十年後
散歩道を歩くアンドロイドが怪しいというのは、ずっと以前から言われていたことだから、僕の、まあ僕らの発見した行動パターンでは無いという事で、きっと将来もらえる金額も減るのだろうと思った。
だからといって、みすみす逃す手はない。何故なら早いに越したことはなく、僕の事をあの偽アンドロイドが「記憶しない」と決めている間に、証拠をとらなければならない。
「仕事のための機能優先アンドロイド、外側は有機プラスチック、塗装は良いが、安物だな」
アンドロイドには簡単に分けると二タイプある。皮膚などを完全に人間そっくりにした「ヒューマノイド型」のものと、材質がプラスチックのロボット型の物。数としては圧倒的にロボット型の方が多い。そしていわゆるロボットも存在する。ロボットは足が車輪だったり、ベルトだったり、その数は数え切れない。今や生活に欠かせない存在だ。
「法令違反者は大体人間型なのが面白い」
というのが、僕たちの共通話題だ、まあ数人だけだけれど。
「さて、仕事を始めなきゃ」
僕は最近また流行し始めた「オフロードを走る自転車」で、散歩道をわざとくねくねと走り始めた。この自転車は僕らの備品として入ったばかりなので、傷をつけたらかなりみんなから怒られるだろう。ジャリジャリと砂と土をかむタイヤの大きな音がかなり新鮮で、普通の自転車ならバランスを崩しそうなくぼみも石ころも平気なのか、どんどん進んでいく。
「面白いや、これ! 」
昨日降った雨で水たまりも至る所にある。泥がはね、自転車にかかって「ああ、また口うるさいママ子に怒られる」
と楽しく想像しながら、数メートル先を歩くアンドロイドにどうやって近づこうかと考えていた。
この道の横幅は広い。元々は四車線の道路だったのだから、人と人がぶつかることなんてあり得ない。時々、緊急の車が通ったりするけれど、一般人の車がここを長く走行すると、かなりの罰金が科せられる。人間や犬を飼っている人、自転車のための道だ。
すると、男のアンドロイドの姿だから、彼、が大きな水たまりを避けて横にずれたので、最大のチャンスが訪れた。
僕は力一杯ペダルと踏んで、ぐるぐる車輪が進むと、かなり早い時間で水たまりに突っ込んだ。
「シャッツ」ときれいな感じの音と大きめの水しぶきは、思った以上にアンドロイドにかかってしまった。
「気をつけろ!! 」
「すいません! ごめんなさい!! 」僕はその場を逃げ走ったけれど、顔はニッコリと微笑んでいた。証拠をつかんだからだ。
「今までの中で、最低クラスの頭の悪い大人だな。アンドロイドは人間に対して、決して失礼な言動はしない、それを知らないのか? よくこれで永遠に生きられると思ったな。と言うか、こんな人間から金をだまし取っている訳か、悪徳商法ってヤツだ」
東京の町を走りながら、僕は思った。
「リトルトーキョー」
昔は海外にある日本人街をそう呼んだそうだけれど、今はここ、本当の東京が外国からそう呼ばれている。
今年は2150年、
三十年前の富士山噴火後の東京の姿だ。
僕はこの自転車で一般道、うすい深緑色で舗装されている道に戻り、散歩道からかなり離れたところで連絡を始めた。いかにも安物の腕時計、だけど中身は最新式で、僕以外の人間がはめようものなら、すぐに「壊れたフリ」が出来る代物だ。
昔、携帯電話は大きな物だったらしいけれど、今はほとんどの人間がこの時計で済ませている。音声記録も、写真も、全部が可能だ。文章を作りたいのなら、空中に映し出される通称「黒板」に書けばいい。読むのもそうだ。
「先生、緑(りょく)です、新宿三丁目の散歩道の男性のアンドロイド、やはり人間ですね」
「わかった、ご苦労様、先に教室に戻っておいてくれ。オフロードの自転車は役に立ったかい? 」
「ハイ、泥がかかった甲斐がありました」
「君も言うことが大人になったな、十四歳にしては、ハハハ。じゃあ後で」
「ハイ先生」
みんな彼をそう呼ぶ。五十歳くらいの、見た目は先生だけど、勿論上司だ。
これで僕の仕事は終わり。この事は誰も、両親ですら知らない。
「格安で少人数制の塾に行っている」としか思っていない。そしてこの逮捕、検挙に対する報酬は、僕が二十五歳になってから支払われることになっている。それまでに僕が万が一、の場合は仕方が無い。
何故ならこれは極秘任務なのだから。
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