五年後の夏迄
五年後の夏迄
人並みに羞恥心の持ち合わせが有るかと問われれば全く疑問だが、それでも思い起こして悔い恥じ入る過去には枚挙の暇も無い。本章に至るまでの諸々の遍歴もまた、本来ならば書き残し人に見せる程の物でもないと自覚は有った。精々後々自身で読み返して晩年の無聊を慰められれば良い。その程度に割り切っておかねば、斯様な生き恥の羅列なぞとても書けた物ではない。
今此の時本題に入るのを躊躇わせる感情が羞恥かと自問してみるが、何方かと言えば説明の面倒に比重が在る様に思えてならない。何から話せば良いのやら、一度目の失踪を逝去と見誤った経緯からでも綴れば良いか。
一月の末、日曜の昼下がり。先ずは遊技場に彼を迎えに行かねばと足を向けたが姿が見当たらない。連絡手段を持ち得なかった当時、肩透かしを食らうのもそう珍しい事ではなかった。
その日は夕刻迄、翌日も放課から門限までの僅かな隙で彼の姿を探した。やはり見付からない。連日を待ち惚けに費やされた私は如何様に埋め合わせをさせるかばかりに思考を割いて、彼の不在は遂に七日を過ぎた。
流石に焦燥が割合を増してくる。先述の通り、当時は上等の家庭でもそうそう子供に通話機器など携帯させていない。声を聞く程度の事すら気儘には叶わない。そんな経緯への反発が後年に身を鬻げる銭奴に走らせた、と言うのは飛躍が過ぎるだろうか。後に私用仕事用の二台持ちをする様になって「あの頃一台でも持ってればなぁ」と毒吐いた記憶は有る。
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