4-2 8/26(ii)

「あなたたち、どうしてわざわざこんなところに?」女性が不思議そうな顔で僕達に訊いた。

「わけありなんです」と僕は答えた。

「そうですね、わけありです」と本浄が微笑んだ。

「君たち高校生でしょ? もしかして駆け落ち?」

「少し違いますけど」と僕は返答したが、「面倒だから駆け落ちという事にしておくね」とお姉さんに無理やり押し通された。

「お姉さんにひとつ聞きたいんですけど」と僕は切り出す。

「この辺りで泊まれるところってありませんか、どんな所でも構いませんから」

「あたしの家があるよ?」お姉さんはさも当然であるような顔をしてそう言った。

「良いんですか」と本浄が尋ねると、お姉さんは笑って親指を立てた。

「うん、あたしも一人じゃ退屈していたところだったんだ」

 暇つぶしの相手ができて嬉しいよ、と彼女は笑う。しかし僕は、それが純粋な善意と信じ切ることができなかった。

「こんなことを言うのは変かもしれませんが……どうして僕たちを泊めてくれる気になったんですか」

 僕たちは客観的に見て、明らかな訳ありだ。田舎だからといってこんなおおらかで良いのだろうか。

「そりゃ、あなた達のことが気に入ったからかな」

「どこがですか」と僕は尋ねる。こんな薄幸そうな少年と少女を見て、どう気に入るというのだろうか。慰めか何かだろうか。そんなことを僕も本浄も考えていた。他人を信じるには、僕等は自分以外の<世界>に嫌われすぎていたから。

「一つは、あなたたちの駆け落ちが面白そうだから。もう一つは、あたしのことをおばさんじゃなくてお姉さんって呼んでくれたから。これで百点満点中、二百点」

 だから、乗りな。そうお姉さんが言った。そう言って親指を立て、後ろを指差した。軽トラに後部座席はなかった。

 釈然とはしないが、僕らはひとまず納得した。


「荷台に乗るなんて経験をするとは思わなかったな」

「わたしもですよ、けれども少し楽しいですね」

 そう言ってお互いに笑い合う。トラックが夕陽の方向へと走っていく。タイヤが石ころを踏み越えるたび、がたんがたんと揺れる。その振動がなんだか心地よかった。

「ああ、なんか本当に"逃避行"って感じがしてきた」

「そうですね、そして"世界の終わり"って感じもします」と彼女も笑った。

 実際に終わるのは彼女だけで、世界はきっと何百年後も続いていくのだろう。けれどそんなことはどうでもよかった。彼女と僕にとっては、おおよそ世界の終わりと相違ない。仄かな終わりの匂いを感じつつ、終わりに向かっていくこの幸せな時間を楽しんだ。

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