花言葉を武器にして
麦野 夕陽
第1話 聞こえることが日常
あるところに一人の女の子がいた。見た目は何の変哲もない女の子。
しかし女の子は他の人とは違うところがあった。多くの人には聞こえない声が女の子には聞こえてくる。
芽吹いたばかりの新芽。
あふれんばかりに咲き誇る花。
季節が過ぎて散りゆく花。
遠い昔から生きている樹木。
植物たちが語りかけてくる。彼女にとってそれは普通のこと。日常だった。
「隼人! 何日、水あげてないの!?」
朝、教室の椅子ではなく机に腰かけている男子に向かって叫ぶ。
「は? なんのことだよ。」
いきなり怒られて不機嫌な様子。
「何週間か前に授業で植えたでしょ。ホウセンカ。植えてから一回も水あげてない。」
指摘されて隼人は目をそらす。
「なーんでそんなことがわかるんだよ。あげてますー。」
瑞希は腕をくみ、ふんぞり返る。
「嘘だね。」
「なんでわかんだよ。」
「聞いたもん。」
「誰から。」
「ホウセンカ。」
ホームルームが始まる前の朝の時間。皆のお喋りの声で騒がしい中、二人の間にだけ沈黙が流れる。隼人はあきれたように馬鹿にしたように笑う。
「はーまたその話? 嘘ついてんのはどっちだよ。花の声が聞こえるって?」
「嘘じゃない!」
隼人が腰かけていた机からピョンと降りた時、ちょうどチャイムが鳴った。皆がガタガタと席につくなか、手をひらひらさせながら言い残す。
「代わりに水やりしてくれてんでしょ? じゃーよろしくねー。」
瑞希は拳を握りしめてわなわな震えた。
瑞希は今まで”植物の声が聞こえる”ことを隠したことはなかった。声が聞こえることは瑞希の中では常識だったから。
しかし、物心ついて友だちにそのことを話すと瑞希の中での常識は”非常識”であることに気付いた。変な子、頭がおかしい子と言って友だちはどんどん離れていった。
瑞希は植物が大好きだ。瑞希以外の人には植物の声は聞こえない。必然的に仲介役を頼まれることも多かった。だから、植物の声が聞こえること隠したことはない。
植物の想いを他の人に伝えるためだった。
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