コドク
奈良ひかる
第1話
トントンとドアを叩く音がしたので、のぞき穴から外を確認すれば、
そこには女が一人立っていた。だから俺は仕方なくドアを開ける。
「あの~、昨日はありがとうございました。よかったらこれ、食べて下さい」
女はそう言うと俺にタッパを渡そうとしてきたので俺は当然のように断った。
「ああ、大丈夫です、そういうのは」
「はあ? 」
俺の反応が予想外だったのか女がそう言うので俺も「はあ? 」と返す。
「いやいやいやいや。これ、肉じゃがですから! 好きでしょ肉じゃが? 」
タッパの中身をわざわざ見せてくるが
「いや、好きじゃないです」
俺はちゃんと答える。好きじゃないものは好きじゃないのだ。
「そんな訳ないでしょ。貴方、男なんだから」
この女の中では男というものの概念がそうなのだとしても、俺はそれには
当てはまらないのでちゃんと答える。
「別に男だからって肉じゃが、好きじゃないですよ? 」
俺のその返答に女は眉を寄せる。
「お、何これ? 肉じゃがじゃん。箸、貸してくれよ」
そこに隣に住んでいる男がちょうど帰って来て、タッパを勝手に取ると箸を
要求されたので、俺が割り箸を渡してやると男は肉じゃがを食べだす。
モグモグモグモグ
「ああ、はいはい。あれね、ホモなのね。ごめんごめん。
そんな感じしなかったから気づかなったわ」
女が物知り顔で言って来たので俺も言い返す。
「いや違うけど、あんたがそう思うならそれでいいですよ? 」
プシュッ! ゴクゴクゴクゴク
「何よそれ! これを見てみなさいよ! こんなにバクバク食べてるじゃない!
男なんて肉じゃが好きで好きでたまらない生き物なのよ! 」
男を指さして女が言うが
「いや、別に好きじゃないけど。ゲフッ。ちょっと腹減ってたから食っただけだし」
男はそう言うとゴクゴクと缶ビールを飲み欲す。
「ごっつぉさん。ちょっと甘過ぎるかな。次からは気をつけて」
そう言って自分の部屋へと帰って行った。
「何よ、二人ともホモだったのね」
女はそう結論づけて帰って行ったが、結局何をしに来たのかよく分からないまま
俺はドアを閉めた。
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