翌日、俺は案の定、遅番で一緒になった坂井ちゃんから猛攻撃を受けた。

 坂井ちゃんこと坂井百合は同い年で、入った時期もほぼ同じだった。彼女は人見知りで、最初のうちはこちらの質問に返事をするのみだったけど、興味のある話だと人が変わったみたいに冗舌になった。それを引きだしたことですっかり打ち解け、知り合って一ヶ月後には、やおい女(現在で言う腐女子か)ということまで告白される仲になった。

「つかっちゃんだけ、ずるいっ! なんで私も当番の時じゃなかったわけ⁉」

 上映中の暇な時間に、坂井ちゃんはカウンターから悔しそうに叫ぶ。高島さんから話を聞いたらしく、例のノースキャロライナキャンディと絡めなかったのが不満なのだ。

「しょうがないじゃんか。タイミングの問題だろ」

 俺は彼女に背を向けたまま言った。

「第一その場にいたって話せなかったんじゃないのか。坂井ちゃん、自分から話しかけられるタイプじゃないし、ましてや相手は美少年だもんな」

 細かいことを言うなら美青年か。成人迎えてるんだし。

「別に仲良くなりたいなんて言ってないでしょ。身のほど知らずじゃないもの。ただ眺めていたいだけ。あれだけ目の保養になる存在なんてめずらしいじゃない」

 坂井ちゃんの方を向くと、頬杖をついて夢見る乙女になっていた。

「本当面食いだな。婚期逃すぞ」

「いらない忠告よ。理想と現実の違いもわきまえてます。それに、あの子は女の子より、つかっちゃんみたいな昔の青春スター顔の男性と一緒にいる方が絵になるのよねー」

 昔は余計だ、と心の中で突っこみつつ、不覚にもその状況を想像してしまった。

「おい。冗談でもネタにするなよ。ルカは自分がかわいいこと気にしてんだからな」

 坂井ちゃんは同人活動をしていて、小説を書いていた。いつだか雑誌に短編を投稿した際、最終選考までは残れたと言っていたからそこそこのレベルだとは思うけど、俺は読んだことはない。

「ルカなんて、もう名前で呼んでるんだあ」

 意味深な視線を向ける坂井ちゃんに、呆れた顔で応戦する。

「白石ってしっくりこないからだよ。深い意味なんてないって」

「ねえねえ、他には何か聞かなかったの。電話番号とかさ」

「は? なんでだよ」

「今後の為に決まってるでしょ。もっとお近づきになりたくないの?」

 これ以上、不毛な会話に付き合っていられない。俺は商品の補充をしようと席を立った。

「俺がお近づきになりたいのは、女子高生の可奈ちゃんです」

 悲しいくらい一方通行だけど。

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