エピソード16:カエルの子はカエル、ダボハゼの親はダボハゼ

「何してる?」

スーツ姿の父親が息子に冷静に聞く。

ダンディな身なり。センスのいいネクタイだな。60歳前後か。

フッ、親子だな。息子にそっくり。

腕にはIWCのポルトギーゼ。上品だこと。

息子は、私のことを、会社のホームぺージに使うモデルさんだと紹介する。

私はあえて頭を下げず、直立のままギンギンに笑顔を作り、

「初めまして」

と150キロ級のド直球の笑顔を父親めがけて投げつけた。

「やあ、息子がお世話になっております」

と父親はにこやかな挨拶をしたが、その前に、

私の150キロ級の笑顔に対して、一瞬、背筋が伸び、

顔面がひきつったのがはっきり分かった。

勝ったな。

この親父は私にれている。

ほんの一瞬だけどね。

ほんの一瞬の出来事だけどね。

でも、何百人の男を見てきたと思ってるんだ。

分かるよ、それくらい。

さっき「先が見えてる」と言ったが気が変わった。

「まだ勝負は分からない」。

そう判断して私はとりあえず一旦このデイトナを所有することにした。

父親は仕事の資料を取りに来たと言って、すぐに書庫に向かったが、

私がオフィスを後にするとき、しっかり私の後ろ姿を見送った。

私のケツを見ているのがハッキリ分かった。

勝算はあるな。

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