第9話 棺のアリス
「なんでぇ!? どうしてぇ!?」
スマホを持つあたしの手はもどかしさで震えていた。
棺のアリスとの、気分的に不本意な取引終了後、あたしは今か今かと待ち構えていた〝ギルマ〟のショップページ修正を、ただちに実行していた。
これで一安心。
変態どもを排除できる。
商品の注文をしてくるのは、女の子だけになってくれるはず。
そう思っていたのに、予想がはずれたのだ。
注文がまったく入らなくなったのである。
評価が影響しているわけではない。棺のアリスが『無事に商品が届きました🎀 さっそく着てみます✜』というおぞましいコメントを添えてくだした評価は『良い』だった。だからあたしの販売評価はすべて『良い』で埋まっている良好な状態。……それなのに、以後、注文の通知が来なくなってしまったのである。
値下げをおこなってもダメだった。今までは、これくらいまで下げれば売れるだろう、と思っていたとおり、いや、それより前には売れていた。しかし、現在、想定値下げ価格を下回っても、ぜんぜん反応がなく、
タイミングがタイミングだ。
女子学生と想定される文を全面的に削除したことが影響している、としか、思えない。
そうすると、気がかりになってくることがあった。
「今までの買い手って……男ばっか?」
調べようと思えば、できなくはない。取引相手のショップページを確認してみればいい。その人が出品している商品を見れば、男か女か、あるていど推測できるはずだ。出品していない人であっても、購入物から同じように推測できる。
――「知ってしまって、後悔しないかい?」
昨日のタマコの台詞が脳裏によみがえってくる。
嫌な気持ちになるのは間違いない。
でも、調べてみなければどうしても気がおさまらなかった。
販売取引の評価ページを開くと、購入者が縦一列になって並ぶ。最新履歴になっている『棺のアリス』をはじめ、あとに続く人たちのアイコンやニックネームからは、若い女性といった印象を受ける。アイコンは、売りに出している品にゴスっぽいものが多いことから、暗めの配色が目立つけれど、ニックネームは、ふんわりしたものが多く、中の人は男女どちらか?、と聞かれたときに、純粋な目で見て答えれば、やはり女。
すでに男と確定しているような『棺のアリス』をはぶき、あたしは上から順々に確認していくことにした。
「しょっぱなから……男くさい」
見たのは販売ページ。売りに出されている品には、本類が多い。ビジネス本、自己啓発本、パソコン関係の資格取得本、競馬やパチンコの
「二番目は……男だ、しかもハゲかかってる」
販売はしていなかったので、購入履歴を確認した。発毛剤、育毛シャンプー、頭髪サプリメント、男性向けヘアスタイル本、頭皮マッサージ器、……。そうとうキちゃっているのだろう。履歴を眺めているだけで、一本また一本と抜け落ちていく髪の毛への
「三番目は……また男か」
売っているものはゲームが多い。カセットを差し込むような、かなり昔のゲームソフト。世代的には、もう中年の人たちが遊んでいたものだろう。子供がいるのだろうか。使わなくなったと思われる新しめのおもちゃや低年齢向けの絵本なども売られている。買っているのは、日用雑貨、DIY大工道具、車用品などといろいろあるが、ティーン向けの少女服も点在している。子供のために買っているのかとも思ったけれど、売られているおもちゃは、男の子向けのものばかり……。買っていた少女服は、ほぼ同時期に買っているのにもかかわらず、サイズがバラバラ……。子持ちのロリコン……? ひぇっ、と震えた。
「8割型……男だ」
女の子だと確信を持って言えるの2~3人だけで、性別不明が1人、それ以外は男の線が濃厚。
一応、ついでとして、はぶいていた『棺のアリス』のショップページを最後に覗いてみた。
履歴は購入のみ。いろいろ買っているようだけれど、性的な匂いのするものばかり。『変態』とか『ロリコン』というあからさまな言葉がタイトルに入っている漫画やラノベ。肌を
購入されている衣類といえば、女児から高校生くらいまでの女性が着用しそうなもの。みんな古着だ。Tシャツやスカートなどの薄着が目立った。もちろん、あたしから買った二着のTシャツも混じっている。それから、手袋やニット帽、ソックスやシューズなんかも買っている。うわっ……新体操かなにかの子供向けレオタードや陸上用ユニフォームなんてものもある。使用済みのコスメグッズにも触手を伸ばしているようだ。挙句の果てには、中古のマグカップやスプーンといった代物まで……。
「
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