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†
「……話を訊いて回るんじゃなかったんですか?」
明らかに乗り気ではなさそうな鵲がむっつりとした顔で言う。話の経緯は【甘納豆】から既に訊いていた。
鵲への依頼はこうだ。桜をディスった動画を撮った場所に向かい、チラ見する事で空間の記憶を読ませ、不審人物を炙り出す。そこからいつものように天峰に似顔絵を描いて貰い、夜湾のダウジングで捜しだす。最高の布陣だ。相手は得体の知れない【皿なし河童】である為、桜のボディガードとして充もいる。
「よろしくお願いします」
「まっ、まぁ……しょうがないですね
「変わり身早くね?」
「すっ、すいませんっ!と、とにかく行きましょうよ……」
俺は鵲に黒を三つ焼いた。それを小脇に抱え、鵲は撮影したと思われるスポットをチラ見する。
鵲の視点は右往左往している。時間を遡り鵲はガクンと頭を後ろに仰け反らせた。
「はぁ……はぁ……」
貪るように今川焼きに齧り付き、もふもふと喋り出す鵲。
「いましたよ。眼鏡の……」
「ほう、教えてくれ」
天峰に鵲はその情報を伝える。天峰はスケッチブックに鉛筆を走らせた。出来上がった画は冴えなそうな眼鏡の痩せた男の顔だった。
「お、任せてくれや」
男の顔を頭に焼き付けると、夜湾がダウジングロッドをだらりと下げて目を瞑った。
「ホントに見つかるんですか?」
「俺達を誰だと思ってる?まぁついてきな」
桜は半信半疑なようだ。ダウジングロッドを片手に立ち上がった夜湾について俺達は向かう。
「こっちだ」
「ここは……?」
ネットカフェだ。呆れた。犯人はまさかここから動画を投稿していたのか?俺達は犯人が出てくるのを待つことにした。
「てか、くもちちゃんはこいつの事は知ってるの?」
「いいえ、だから何でこの人がぼくを貶めようとしてるのかがさっぱり……」
「おい、見ろや、来るぞ」
ネットカフェの玄関から堂々と出て来た犯人に俺は小走りで近付く。やや挙動不審な犯人。俺は奴に声を掛けた。
「おい」
「……!」
「お前に話がある」
目を真ん丸にして、俺達に背を向けてダッシュする男。意外に逃げ足は速い。
「逃げんなや!」
「充!頼んだ!」
ダッシュして逃げた先に出て来たのは充だ。左手をポケットに突っ込み、前に立ちはだかった充。その刹那、男は何か雷にでも撃たれたように痙攣してがくりと倒れた。
「鳩尾に一発決めましたね」
「凄い、全然見えへんかったわ……」
「この人が……?」
「とりあえず、話を訊かないとな」
俺はキッチンカーに男を入れると、両手両脚に梱包用のインシュロックを嵌める。
†
「起きた?」
「……ひっ!」
「お前に訊きたいことがあるって言ったら逃げるからそうなるんだよ」
桜は男に訊いた。
「何でこんなことを?」
「……てか、何で判ったの?」
「ぼくの質問に答えて!」
男はびくりと震えた。過激な動画をあげたくせにかなりのビビりだ。
「俺は……ただ頼まれて……」
「誰にや?言わんかい」
「さっ……【皿なし河童】」
「そいつは誰なんだよ?」
「しっ、知らない!」
「知らないこたぁねぇだろ!」
「ホントだよ!」
男は目を泳がせながら言う。
「ばっ……バイト代と、ソシャゲのアカウントを上げるからって言うから……」
「そんなもんの為にか!」
「おっ、お前らに分かってたまるかよ!」
充は男の頭を平手で叩いた。いつもは柔和な顔をした充が怒りに震えている。
「おっ、俺はとにかく知らないんだ!DMでしか連絡は取らなかった!」
「そうか、でもDMでなら連絡は取ってたんだな?」
「……?」
俺は男に言った。
「お前には働いて貰う」
「そんな……」
「桜にすまないと思うなら……」
「べっ、別に俺はそんな……」
桜は思い切り男にビンタをした。目を真ん丸にして口を半開きにする男。
「調子にのんじゃないよ!」
「……」
「協力して、お願い!」
男はそっぽを向いて言った。
「……フン。わかったよ……」
「ありがとう」
俺は男に提案をした。【皿なし河童】を誘きだす為のトラップだ。
「……!」
俺のスマホが鳴動する。俺は通話を押した。
「あいよ」
【おい、お前どこだよ?】
「犯人の居場所を訊いてるとこだよ」
【まさか、捕まえたのか?】
「ホンボシじゃないがな」
【犯人が自首してきたよ】
「はぁ?」
御夕覚はそう言うが、恐らくそいつはダミーだ。真犯人はどこかで高みの見物をしているに違いない。俺は御夕覚にそれを告げる。
【嫌な予感がするな】
「……根拠は?」
【……カンだよ】
――その御夕覚の悪い予感は、残念ながら当たってしまうことになるとは思っていなかったがね。
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