③遊女街の「ありんす」エルフ
『肉盛り』の新たな力を得たクケ子と、レミファはギルドで得た情報から。
魔矢使いの狩人エルフ【ヌル・ヲワカ】が居るという遊女街に向かった。
華やかな歓楽街の中を進むクケ子とレミファ。
通りの両側に並ぶ、朱色の遊女店の店先では、きらびやかな和装姿の異世界の遊女たちが。
「お兄さん、あちきと遊んでいかない?」
と、通行人を誘う。
歩きながら、クケ子がレミファに訊く。
「ここ、なにする場所? よくわからないんだけれど? 遊ぶってゲームでもするの?」
「あたしにも、よくわからないぜら……召喚請け負い業のおっちゃんから、ここへ行けばヲワカが居ると聞いただけ……ぜら」
二人が歩いていると、ひときわ目立って通行人が店先に集まっている店があった。
木枠で区切られた店先には、豪華な髪飾りをした和装の
花魁姿のヲワカが、火がついていないキセルを手に、何やら通行人と話しをしていた。
「あきちと遊ぶなら、金銭の桁が違うでありんす……遊女街一番の売れっ子花魁をナメてもらったら困るでありんす、出直してくるでありんす」
赤いガイコツのクケ子が片手を挙げて、ヲワカの名を呼ぶ。
「ヲワカ、久しぶり元気していた? あたし、白骨化しちゃった……赤いから赤骨化かな」
自分の名前を呼ばれたヲワカは、目を細めてガイコツを凝視する。
はっ! と気づいたヲワカが悲鳴を発する。
「その声は、彩夏どの!? ひっ!」
慌てて店の奥へ逃げるヌル・ヲワカ。
「ちょっと、どうして逃げるのよ!」
ヲワカを追って店に入る二人、店の中から。
「お二人さま、ご~入店っ」の、声が響いた。
数分後──花魁姿のヲワカとクケ子とレミファの三人は、店の一番奥にある座敷にいた。
ヲワカの話しを聞き終わった、クケ子が言った。
「つまり、魔勇者が倒されてから。ヤザと一緒に頻繁にどこかのアチの世界を往復して、無銭飲食を繰り返していたと……特に〝ら~めん〟という食べ物が気に入ってハマってしまったと」
「面目ないでありんす」
ヲワカは、クケ子に向かって土下座した。
「魔勇者が作り出した、勇者玉にビビって、ヤザと二人で見捨てて逃げて悪かったでありんす……彩夏どの……そんな姿になってしまって」
「別に、怒っていないからいいよ」
レミファが、座敷の隅に置いてあった。透明なフェイスガードを頭に装着して。
気に入ったように、フェイスガードを触っている。
「これ、どこかのアチの世界で使われていた防具ぜらか? 顔面を保護するのにちょうどいいぜら気に入ったぜら……火花とか、飛んできた小石とかくらいなら防いでくれそうぜら決めた。今回の旅はこのフェイスガードをつけて行くぜら」
クケ子が言った。
「ヲワカとヤザが無銭飲食をしていた〝ら~めん〟の未払い代金は、アチの世界から取りに来る人がいたら。あたしが払ってあげるから心配しないで……大丈夫だから」
「本当でありんすか」
ここでレミファが、ポツリと横から言った。
「クケ子どの、それは無意味だぜら……仮に無銭飲食の代金を受け取ったアチの者がいたとしても、元の世界には帰れないぜら」
「どういうコト?」
「クケ子どのみたいに、召喚された者なら固定されたルートが完成するから、元のアチの世界との往復はクケ子どののみ可能になるぜら……あたしの魔法陣で通路を作れたのは、そういう理由ぜら」
レミファの話しだと、彩夏の家と繋げた魔法陣ルートから、レザリムスのコチの世界に来れるのは、科学召喚された彩夏のみだという。
「あの時、一緒に家にいた家族の誰かがコチの世界に来ようとしたら。おそらく分子分解されて消えていたぜら」
「ひぇ~っ、デンジャラス。弟の拓実を誘わなくて良かった」
さらにレミファは、 ヲワカとヤザが食べた〝ら~めん〟の未払い飲食代を取りに来るアチの世界の者は。
レザリムスとアチの世界を繋ぐ洞窟通路を使って来ると言った。
「〝ら~めん〟の未払い代金をもらうために、死んで一方通行の異世界転生をしたり。召喚される者はいないぜら……アチの世界からは、洞窟通路で来れるけれど、帰りは巨人の口洞窟に入って帰るから、ウ●コになっちゃうぜら」
「ひえぇぇ! ますますデンジャラス!」
その時、店の通路の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「拐われた鬼の子供なんて、うちの店にはいませんから!」
「確認するだけだから、ここが最後の部屋だ」
座敷の
男性の後ろには西部劇にでも出てきそうな、酒場の踊り子風の衣装を着た鍼角の褐色肌鬼女性が、カスタネットを鳴らしながら立っていた。
ドリル角の小柄な男性が、クケ子たちがいる座敷に入ってきて。隣の和室や押し入れを開けて見てから言った。
「いないなぁ……お邪魔した」
ドリル角の鬼青年が、座敷を出ていく時に
「ねぇ、この店で踊り子の需要はある?」
「ここは、そういう店ではないでありんす」
「残念」
座敷を出ていった、ドリル角鬼と鍼角鬼が、歩きながら会話をしている声が聞こえてきた。
「今の赤いガイコツの人が持っていた刀、うちのリーダーの【オニ・キッス】が持っている刀と似てなかったか?」
「さあ、よく見なかった」
鬼たちがいなくなると、レミファが呟く声が聞こえた。
「今のは、海を隔てた新大陸にいる鬼人ぜら……さすがデジーマ島ぜら、ヲワカ、あたしたちと一緒に魔勇者の娘を倒しに行くぜら」
ヲワカは「ありんす」とうなづいた。
レザリムス中央地区【第一首都レザリー】黒いゴルゴンゾーラ城──洋風の書斎に、普段着の昆虫騎士【ピクトグ・ラム】が椅子に座って、読書をしていた。
貴公子のような美形青年の膝上には、甘えるような目つきで頭を乗せた。
東方地域の厄災、今日は十八歳で勇者姿の【甲骨】がいる。
甲骨がピクトグ・ラムの太股にのの字を描きながら、ラムに質問する。
「ねぇ、あたしの妹いつごろ完成するの?」
「今、北方地域の医療科学者グループに来てもらって、培養カプセルで東方地域の召喚請け負い業の男から買い取った脂身の〝細胞くろ~ん〟とかいうのを、やってもらっているところだ」
「楽しみだなぁ、妹ができたら。思いっきり命令して妹をこき使ってやるんだ」
昆虫騎士は、読んでいた本を閉じて甲骨に言った。
「おまえ、それ違うぞ……妹や弟は姉が、自由にできるドレイじゃないぞ」
「えーっ、違うの? 妹って姉に従属する者だとばっかり思っていた」
「おまえなぁ」
タメ息をもらしたラムは、近くに置いてあったカブトムシの兜を被って顔を隠した。
甲骨が残念そうな口調で言った。
「やっぱり、プライベートタイムでも兜で顔隠すの? イケメンなのに」
「素顔を晒していると、落ち着かなくてな」
甲骨がさらに甘える口調で言った。
「どうせ妹を作るなら、姉の命令をなんでも聞いてくれる、便利な妹が欲しい……そんな妹を作ってぇ」
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