②通り名は『クケ子』

 ツインテールウィッグを被ったクケ子が言った。

「次は、鳥カゴね……あそこに鳥カゴ専門店がある」

 クケ子と、レミファは鳥カゴと水槽の専門店に入る。店の中には枯れた木のような木人店主が椅子に座って、レザリムス新聞を読んでいた。

 木のウロのような穴目の店主が、枝腕を揺らして言った。

「いらっしゃい、おやっ? 首だけ魔女っ子? 首貸し族の方ですか?」

「違うぜら……魔勇者を倒す最後の戦いで、こんな姿になったぜら」

「ぜら……もしかして、ぜら村の出身ぜらか?」

「そうぜら、店主もぜら村ぜらか?」

「下ぜら村出身ぜら」

「あたしは、上ぜら村生まれだぜら……奇遇ぜら」

 樹木人の店主の目から樹液が溢れ、虫が目に集まってきた。


「同郷の出身者なら、鳥カゴでも水槽でも安くするぜら……首が入る穴が開いている水槽は、奥のコーナー棚ぜら」

 レミファは、金のドーム型鳥カゴを買った。

 両側に翼飾りがついている、鳥カゴだった。

 さっそく、クケ子がレミファの首を鳥カゴに入れる。

 木人店主が枝の手でリボンを差し出す。

「これは、サービスのリボンだぜら……鳥カゴにつけるといいぜら」

「ありがとうぜら」


 鳥カゴ屋を出たクケ子が、レミファに訊ねる。

「さてと、次はどうする? いろいろとやるコトが多すぎて」

「魔勇者との最終決戦の時に、トラップの呪術爆発から真っ先に逃げ出した、花魁口調の魔矢使いの狩人エルフ『ヲワカ』と、武士口調のヒゲ面戦士『ヤザYAZA』を見つけるぜら……あの二人、クケ子の世界で無銭飲食を繰り返していたらしいぜら」


 レミファとクケ子がそんな会話をしていると、近づいてきた若い男女の女の方が話しかけてきた。

「あのぅ……体借りませんか? 今なら長期レンタル料もお安くなっていますよ……首だけの人」

 女は隣に立つ男の首を「えいっ」と引き抜いた。首が取れた箇所は平らになっている。

 レミファが言った。

「『首貸し族』ぜら……生まれつき首が抜けやすい体質ぜら」

 クケ子がレミファに質問する。

「首貸し族って何? 鳥カゴ屋でも、その名称聞いたけれど」

「首とか胴体をレンタルして生計を立てている種族ぜら……最近は近親間の首や体の貸し借りは、禁止されたって聞いたぜら」

 首貸し族の女が男の首を、ポンッポンッと空中でお手玉しながら言った。

「あたしたち新婚夫婦なんです、ダーリンの勤めていた職場も長引く不況で、今まで首の皮一枚で繋がってなんとか操業していたんですけれど……あっ、首の皮一枚ってのは、本当に皮だけで会社と繋がっていたワケじゃないですから……で、ついに職場も数名を残して、クビ切りに踏み切って。うちのダーリンも切られたクビの一人に……あっ、クビ切りって言っても、本当に斬首するワケじゃないですから」


 クケ子が言った。

「それはわかっているから……で、失業しちゃったから夫の体の貸し出しを思いついたの?」

「はい、うちには首が座っていない乳飲み子もいますから、子供を置いてパートに行くこともできませんから……あっ、うちの生まれた子供、生まれてからすぐ首取れましたら。台の上に首置くと、転がらないでちゃんと置物みたいに首座っていますから。

ミルク代が無くて、借金したら首が回らなくなって……あっ、実際の首はよく回りますから、こんな風に」

 女は自分の首をクルクル回してから、ピタッと後ろ向きに止めてみせた。

「ダーリンの体をレンタルしている間は、あたしの体をダーリンの首と共用して使いますから……子供のミルク代を助けると思って、体借りてください……壊さなければ、ダーリンの体どんな使い方をしてもいいですから」


 レミファが言った。

「そうぜらね、これから旅をするとなると体も必要ぜら……わかった、貸してもらうぜら……クケ子、また冒険がはじまるぜら」


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