③異世界で何も努力しないで強くなれると思うな!
隣の部屋で、女傭兵の服に着替えた彩夏は、召喚請け負い業者の前に立った。
ギリシャ神話風の片方の肩を露出させた、ごく普通の女戦士の服装だった。片方の腕にベルトで装着した円形の洋風盾、なぜか日本刀が用意されていた。
彩夏が自分の服装を見て言った。
「もっと、露出が多いビキニアーマーみたいなの想像していたけれど……異世界ファンタジーで普通っぽい格好、スカートの丈が少し短めだけれど」
村人たちは、傭兵姿の彩夏に向かって。
「ありがたや、ありがたや」
と、手を合わせる。
召喚請け負い業の男が言った。
「その衣服は耐火性で火の中でも燃えない、ついでに水中でも水を吸って重くならない素材だ……剣で斬られても、不死身の肉体と同じで自己再生する。すごいだろ」
「なんか、それってあたしが炎に焼かれたり、水の中に沈められたりされるのを前提されているような?」
彩夏は、腰に帯刀した日本刀を鞘から引き抜いて眺める。
刀の一部がギザギザに欠けていた。
「刃が欠けていますよ?」
「あぁ、それは料理する時に固いカボチャを切ったら欠けた」
「大丈夫なんですか? この刀?」
その時、腕に装着している円形盾の下部から犬の房尾のようなモノが出てきて、嬉しそうに振れた──驚く彩夏。
「わぁ、盾から犬の尻尾が出た!?」
「かわいいだろう、生きている盾だ……投げても走って持ち主の所にもどってくる」
「自己再生する衣服と、カボチャ切って欠けた日本刀と、犬の尻尾が生えた盾……個性的な傭兵? かな?」
「準備が終わったら、お決まりのギルドに行くぞ……いろいろと、登録しないといけないからな」
彩夏と召喚請け負い業者の男は、ギルドへと向かった。
小一時間後──召喚請け負い業の男が、ギルドの外で待っていると。登録を終了した彩夏が出てきた。
召喚請け負い業の男が彩夏に訊ねる。
「どうだ、思ったよりも登録簡単だったろう」
「はい、口座も開設しました……受付の人、パソコンみたいなの使って事務処理していましたけれど?」
「あれは、発電生物の電気を利用しているだけで一般には広まっていない……次に行くぞ、他にも準備しなきゃならないコトがある」
歩きながら、彩夏が男に質問する。
「これであたしも、『チートなスキルであたし無双!』とか『あたし超つぇぇぇ!』とか『悪役乙女で、弱いヤツざまぁ! 今さら謝っても遅い!』とかになったんですか? なんか嫌だな、そういう安易な展開」
「んなわきゃねぇだろう! 異世界に来ただけで、努力もしないで都合よく強くなって。金銭が手に入るならオレだってやりたいくらいだ……ついたぞ、ここで剣術の稽古をつけてもらう」
彩夏が連れてこられた建物の入り口には、マンガ絵のようなレザリムス文字で『剣術指南』と書かれていた。
「剣術指南?」
「師範には、召喚した者を連れて来ると話しは通してある……ついて来い」
彩夏が男の後ろからついて道場に入ると、そこに腕組みをした『鳥頭の怪人』のような人物が立っていた。
鳥の怪人の背後には、球体頭でコケシに手足が生えた『コケシ木人』たちが木刀を持って並んでいる。
腰に剣術指南のチャンピオンベルトを巻いた、鳥頭怪人が男に親しげな口調で言った。
「そいつか、アチの世界から召喚したヤツは」
「あぁ、稽古をつけて強くしてやってくれ」
「どのコースにする?」
「時間もないから、半日コースで」
「わかった、稽古料はいつもの方法で、ここで対価のモノを示してくれ」
「いいだろう」
召喚請け負い業者の男が彩夏に言った。
「レザリムスでは、アチの世界から来た者に限り、その者の身内や知人の持ち物を引き寄せて。金銭対価として支払うコトができる。今のおまえは無一文だから……これから、おまえの家族の持ち物の中から剣術指南料に見あった物品を、勝手に引き寄せる」
男は出現させたポータブル魔法円に片手を突っ込むと魔法円の中から、中古の家庭用品ゲーム機を引っぱり出した。
彩夏は、そのレトロなゲーム機に見覚えがあった。
「それ、お父さんが大切に書斎の棚に飾って眺めている、昔の家庭用ゲーム機? お父さん、壊れていて動かないって言ってたけれど? 泥棒……」
男は彩夏の言葉を遮るように早口でしゃべる。
「骨董好きなヤツに売る、アチの世界のモノは高値が付くからな……」
「あのぅ、お父さんの書斎から黙って持ってくるのは……泥」
「わーわー! とにかく、この骨董品を売って金に替えて、おまえの剣術指南代にするから……おまえは、稽古つけてもらえ終わったら、向かいの喫茶店に来い。いいな」
それだけ言うと、男は家庭用ゲーム機を抱えて逃げるように道場から去って行った。
男がいなくなると、鳥頭が言った。
「オレの名前は『ヤゲン』剣術指南だ……おまえ、上アチの世界から召喚されたんだってな。懐かしいな、オレは裏アチの世界にいた──時間がもったいない、早速稽古をはじめるぞ」
ヤゲンは、木刀を彩夏の近くに放り投げた。
「それを拾ったら、稽古開始だ」
彩夏が木刀を拾うと、木刀を持ったコケシ木人たちが一斉に彩夏に殴りかかってきた。
「ヤッチマェ!」
「ボコボコニ、シテヤル!」
「きゃあぁ!」
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