第252話 入れ替わる光と影 8
〈 右大臣のやかた 〉
そんな話題の三の君といえば、姉である
右大臣のやかたを建て直すにあたり、騒々しさが体に触ってはと、「しばらくの間、こちらにいらっしゃっては」そんな風に、四の君に声をかけてもらったが、四の君は、まだ北の方になったばかり、これ以上の負担を妹君にかける訳にはと遠慮していた。
すると今度は、
三の君が、それも遠慮していると、
それから彼女は毎日、
新しくなった実家に帰ってきた最近では、彼女は里内裏で偶然知り合った、
里内裏の去り際、御簾の近くを通り過ぎようとしていた人影が、いきなり倒れたので、思わず御簾を上げてみれば、そこに倒れていたのが、
すぐに駆けつけた女房たちが、彼を抱えて姿を消したので、心配になって、オロオロと見送っていると、内親王方がひょいと顔を出す。
「あの人は、病弱な方なんですって」「いつもお腹を押さえているわ」
そんな風にふたりは口々に言う。
「まあ、お気の毒に……」
同じような身の上である彼女は、本心からそう思いながら、その日はやかたに帰った。
すると翌日の朝には、お詫びと丁寧な礼を兼ねた
「そんなに美しい方ですの?」
五の君が興味津々といった風で、うしろから
「
「え? じゃあどうして、そんなに楽しそうなの? 姉君、男の方は顔が命って……」
「べ、別にまだ恋人って決定した訳じゃないわ、でもね、わたくし、少し
「どういうことですの? お顔の美しさは前世の行いっていいますよ?」
「だから、わたくしたちは、
「???」
「世間が
「え? 光源氏……それはさすがに……」
「ほらごらんなさい! それに
「姉君、ちょっと元気になったからと……また、倒れますよ?」
自分で美しいお顔がすべてとか言っていたくせに……。五の君は、まるでわたくしが悪口を言ったみたいじゃないかと、理不尽だと思いつつ、姉君が口を尖らせているのを見ていたが、後日、夜更けに二人で甘酒を飲みながら、
少し先の未来、ふたりの間には、右大臣家には久しく生まれていなかった若君が、何人も誕生することとなる。
「姫君に
「え? 誰から?」
「それがその……」
翌日の朝、五の君に新参者の女房が、美しい料紙に上品な香が焚き染められた
「誰からだったのかしら?」
案の定、それは光源氏からで、今日は体調がよいので出仕すると、支度中だった右大臣は、雑に開けて目を通すと、「五の君に
「
「ああ、血筋はそこそこで、気は弱くとも性格がよい。三の君を大切にしてくれよう。なにより
右大臣は、誰よりも信頼をしている北の方にそう言うと、自分の体調を心配する北の方をあとに、久々に里代理へと向かう。
彼の体調が悪化の一途をたどっていたのは、年齢もあったが、元来、かなり人より食が細い上に、
右大臣は身分にふさわしく、何頭もの騎馬の先導に、
その日も、さまざまな仕事を終え、
「右大臣?……父君?!」
「……ああ、いや、失礼いたしました。
「父君、そんな弱音を!! やっと朱雀の君が帝となったのですよ!!」
「そうですな。これから帝の外戚として、国家をお支えし、一族を繁栄にみちびかねば……」
「分かっているなら、早く元気になって、そうなさって下さい!!」
*
〈
そんなこんなが、あったりなかったりで、
「勘のよい方なのに、不思議なこともあるものだね」
「本当に……」
ある日、自分の妻である四の君に、彼が幼い二の姫を膝に乗せて、あやしながらそう言うと、二歳になる三の姫を、乳母から抱き取って、あやしていた四の君も首を傾げていた。お腹には、もう四人目の子が宿っていた。
*
〈 関白のやかた 〉
政務のあと、東の対の姫宮の元に、
普通であればこのように、入内前に頻繁に会う機会など、あるはずもなかったが、姫君たちは幼い頃から関白のやかたで暮らしている帝と、すっかり打ち解けていらっしゃった。
一緒に遊んでいた内親王方が、嬉しげに兄である帝にまとわりつく中、二人は、おそろいの美しい
葵の上に瓜ふたつの
どちらも甲乙つけられぬ美しい姫君であったが、性格は正反対で、それでも実の姉妹同様に育ったお二人は、とても仲が良く、「ご一緒で心丈夫ですね」「内裏に行ってもご一緒ですね」そんな風に無邪気に喜び、内親王方も嬉しそうにしていた。それを見ていた帝は、ご自分の後宮が、末永くこのような雰囲気であればと、ほほえんでいらした。
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