第241話 修羅場 14
〈 二条院 〉
桐壷帝が身罷り数刻もたった頃、疲れて
あの僧侶が永らえさせていた宿主の命も、僧侶が最後を遂げたせいで、力が及ばなくなり、か弱い宿主は、この世から消えてしまうのだろうか?
地獄道・餓鬼道・畜生道、修羅道・人間道・天道、
しかし、たとえ悪道と呼ばれる地獄道に落ちてもよい。その覚悟で、
周りを見回すと、もうすっかり真夜中になっているが、まだ格子は上がっている。今日も今日とて、第二皇子の世話と、頼まれた手配りで、使用人は忙しいようだ。
なにやらやかたの外から、小さな聞きなれぬ音がする。空に上がって見下ろせば、大勢の
「ちょうどよかった。この様子なら、あの方を助けることができるかもしれない……」
人気がなく暗い東の対をゆくと、見覚えのある鍵のかかった、あの男の曹司が現れた。
彼女が手をかざすと、呪札のなくなった鍵のかかった扉は、なんなく開き、中に入ると自分がかつて閉じ込められていた曹司の奥、隠された扉を開く。
真っ暗な奥の隠された空間、そこから細く透き通った声と、よく知った弱々しいうしろ姿が見えた。
「そなたは誰? なにも見えないわ、ここはどこ?」
ああ、やはりこの方は、
「わたくしは、わたくしは……
「そ、そうね……」
『もぬけの殻/裳抜けの殻』
同じ響きのこの言葉には、実はふたつの意味があった。ひとつは蛇などの脱皮した時の抜け殻。もうひとつは、いま、
幸い大宮がいた空間は、厨子が石の台を取り囲み、少しのぞいたくらいなら、ごまかせそうである。
単衣一枚と袴姿になった大宮の手を引いて、渡殿に出た
「外に救いが到着しております。お急ぎになって下さい」
「危ないわ。そなたを置いて行く訳には行きません!」
そう言う大宮に、彼女は少し迷ってから、背後に
「あとからすぐに参ります。どうか姉を、夕顔をよろしくお願いいたします!!」
目の見えぬ大宮をそのままに、
いきなり現れた怨霊のような、
『私ハ
「そなた……」
突然現れた女童の霊は、それだけ言うと姿を消した。
『クケ、クケケケケ』
そんな声が聞こえ、ふりあおいだ門の上では『螺鈿の君』が、嬉し気に飛び跳ねている。
「三条の大宮、いらっしゃるのですか?」
そうたずねる
「よくぞご無事で……大宮?」
「目が、目が見えないの……」
顔を周囲に見せぬように、素早く腕の中に引き寄せた大宮の瞳は白く混濁し、ほとんどなにも口にしていなかったのであろう。彼女の体は驚くほどに軽かった。
「
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