第238話 修羅場 11
「葵の上!! 葵の上!!」
助け出された葵の上は、もう気力も体力も限界だったが、なんとか、あの事件のことだけは、うまく伝えなければと、細い声でささやいた。
「神託がありました。あの僧は、
彼のうしろには、いつの間にかやってきた紫苑たちが心配そうな顔で、集まっている。
「葵の上!!」
「大丈夫、だいじょ……」
そう答えていた葵の上であったが、目の前がいきなり暗くなると、そのまま意識を失っていた。
「葵の上!!」
残っていた鬼共は、次々に空に舞い上がり出す。彼らは
そこに引きつった顔の僧官と、彼についていた官僧たちが、ようやくやってきた。彼らは平身低頭の呈で、
武官たちは
寝殿付近に集まって怯えていた多くの公卿たちには、この一連の騒動は、
葵の上の身の上に起きた一件を、真白の陰陽師たちに記憶から消された公卿や
「いやはや、三毒に、
「第二皇子はどうなることですかな? 母が『狐』と言われた、どこぞの陰陽師よりも危ういお立場……おっと、これは他言無用でしたな。それに正式には、既に皇子でもいらっしゃらぬのでした」
「そうですよ、これは出してはならぬ、先帝の信用にかかわる大事です。しかしながら、
なお捕縛された北山の大僧正や他の僧侶たちは、洗いざらいを白状させられ、後日、すべての特権を
「助けて、誰か助けてくれ!」
遙か沖合の荒い波間、暗闇で北山の大僧正たちは、叫んでいたが、やがて声は消え、いつしか船ごと海の藻屑となった。
数か月後、彼が用意していた少なくない寺院に隠された武器の数々と僧兵は、新しい帝の元、その錦の御旗の元に、朝廷が差し向けた使者と、背後に控える圧倒的な兵力に囲まれる。
僧兵たちは、はじめは籠城戦を唱えていたが、新しい帝の名の元で、次々に打ち出された政策により、帝はすでに圧倒的な民の人気を集め、自分たちの荘園からですら、物資の提供は見込めなかった。
その上、新しい帝は桐壷帝が放棄していた、本来行われるべき儀式の数々を、休みなく執り行い、歴代でも屈指の力を発揮し、平安京に彼らの呪法の力が入り込む隙のない結界を作り直していたので、すべての意味で観念するしかなく、無血のままで、大僧正たちの残党と、朝廷側の戦いは終わることとあいなったのである。
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