第229話 修羅場 2
大変な騒ぎが巻き起こっている右大臣のやかたの庭の片隅に、
彼女は浄土に旅立つでもなく、旅立てる訳もなく、あれから二年の間に知った真実で、
生前、辛い思いに耐え、後宮で密かに読経に励み、毎日のように観音菩薩を拝んでいた自分は、極楽浄土に旅立てるはずであったが、いざ魂だけの存在となった時に、目の前にあったのは、先の見えぬ下に下にと
穴の前でしばらくの間、さめざめと泣き伏していたが、景色は一向に変わる気配もなく、
『ひょっとしてあそこが極楽浄土の入口なのかしら?』
そう思った彼女は、やや明るい心持で足を進めて、そこにたどり着くと、目の前に広がっていたのは真っ白で明るいけれど、やはりなにもない長く伸びた穴。気がつけば、自分がいつの間にか身にまとっていた天女の羽衣のように美しい十二単の裾には、小さな
『やはりここは浄土への道なのかもしれない』
あの時、彼は少し困った顔をしていたが、結局は帝と同じようにわたくしの願いを聞いて、明日の公務の合間にうかがうと言ってくれた。
自分の本意ではなかったが、帝に愛され皇子まで授かりながら、
御仏の御告げにより、
彼がやってくる日、
そんな控えめな装いを整い終えて、鏡をのぞき込むと、中には他の華やかに競い合う后妃たちとは比べ物にならない、
帝が「あの時の
やがて彼の訪れを告げる先導の女房が現れたが、自分の女房たちが、うるさく言うのにも耳を傾けず、彼も
そういえば帝と出会ったのも、こんな時であったと考えていると、やがて大勢の女房や官吏の近づく騒めきが聞こえ、「
急かされるままに、御簾に入るか入らないか、そんな時に彼が桐壷に現れて、視線が一瞬だけ交差して……男の醜い首の
このような存在でも、元皇子であれば、臣下に降りても栄誉が手に入るのだ。第一皇子よりも誰よりも、尊く美しいわたくしの光る君ならば、たとえ臣下に降りても、なんの心配もないと、御簾越しに彼に視線を送りながら、なおざりに聞くとはなしに、彼の生い立ちを聞いていた。
やがて彼を急かす官吏が現れ、「誠に失礼なことながら……」そう言い置いて、あの男は帰ってゆこうとして、わたくしは消え入りそうな声で直接に礼を述べてから、秘密を分け合うように、そっと最後にひと言つけ加えた。彼がなによりも欲しているであろう言葉を。
「元皇子である
「……過ぎたるお言葉、これからも臣下の務めを果たしてゆく所存にございます」
彼は帝と違いそんな風に、わたくしが特別に気を遣ってあげたのに、それからも彼は、他の后妃たちと比べて、わたくしを特別扱いすることもなく、特別な配慮を手配することもなく、同じように扱った。
しかし思えば、そんな彼の態度は、きっと
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