第115話 三箇夜餅 2
紫苑は、夕刻を過ぎても起きない姫君が心配になって、何回かそっとゆすってみると、姫君はようやく目を開けた。
「お風呂でも入ります?」
「うーん、ううん、先に
葵の君がそう言いながら、目をやった文机の上には、書状や書簡が何通もたまっていた。待ちかねていた
やや大げさな騒ぎになっているのは気掛かりだけど、出仕に関する内裏への届け出、自身や女房たちの衣装や身の回りのこと全般を、元内親王である母君や、関白である御祖父君、左大臣である父君が、万全の体制に整えて下さるので、本当に助かっている。
「
前世“葵”であった葵の君は、高校時代の部活では主将を務め、部員をまとめていた経験はあった。しかし、せいぜいが、何十人単位であったし、政治家 兼 官僚といった重責だった訳でもなく、お賃金も発生しない、ただの部活動である。
それがいきなり百名もの知らない人ばかりの政府機関のトップ。団体行動に
『
本当の業務は、その下の
「
この
『
葵の君の素朴な疑問は、だいたい当たっていた。姫君たちは、ただ「
血統主義のこの時代、兄君や父君のようないわゆる『名門貴族』の子弟は『
ましてや女君にいたっては、その大学すらない。葵の君を筆頭に、すべて血統主義で選ばれた存在ばかりであったので、
「もうこんな部署、いっそのことなくなった方が、世の中のため人のためなんじゃないだろうか?」
葵の君は思わずそう呟いた。
そしてそんな大所帯すら、一介の所属部門にしか過ぎない
日も落ちて、灯された灯火の下、花丸紋の浮かぶ淡い珊瑚色の
葵の君は墨に筆を浸し、
昨日、ガッツリ怒られたばっかりのわたしより、母君を通してわたしが真面目に反省していることを伝えてもらった方が、きっと許してもらえるよね。
よかれと思ってやったことだけれど、思い返せばアレもコレも、恩を
穴があれば立て
お風呂から帰って乾かしてもらった髪を、紫苑にゆるゆると
“伍”は用意されている曹司に下がると、女房越しに伝えてから姿を消した。
そして昨日の今日で、まさか顔を見ることもないと思っていた、
驚いた葵の君は、紫苑に「いないといって!」そう頼むと、思わず屏風のうしろ隠れたが、沢山の灯りがついていたので、あいにくと向こうからは丸見えだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます