第17話 とある日の宮中/夜御殿
帝は、左大臣から受け取った献上品の筆を、ひとり嬉しげにながめていた。
真っ白な
神が創りたもうた、そんないわれのある、甘みがある中にも
すぐにでも試し書きをしようかと思ったけれど、今日も
「まあ、なんとよい薫りのする、貴重な品でございましょう。きっと
「そうであろう?」
やがて姿を見せた
帝は、そんな
あの
この筆を献上の折に見た
普通の貴族と比べるのも畏れ多い話なれど、一夫多妻の平安時代、ある程度の貴族の正妻、北の方ともなれば、ただの妻とは違い、夫のために家政を万端滞りなく行う必要があり、身分が高ければ高いほど、その責任と煩雑さに追われる。
多くの北の方は、時には
優雅に見えて、平安時代の貴族の妻は、夫の地位が高ければ高いほど、基本的に多忙であった。(三条の大宮は、臣下に御降嫁した内親王なので事情が違う。)
今現在、
(あるいは、愛情はないと思うのは、
だが帝にとって
これと決めた妻は家政に追われ、いつの間にか色香も優美さも足りない存在に変わり果てた。他に運命の相手がいるのではないか? などと世の中の夫たちは、これと思った姫君に、せっせと歌を送り、本来定めた北の方からは足が遠のく。
そんな、どこにでも転がっていそうな、平安貴族の家庭事情と同じで、帝には三人の子まで成し、長く連れ添ってきた
あの冷たい人形のような美貌も、美しさではなく、内面の冷たさが表れている気がする。
よく似た顔の第一皇子にも、同じ血が流れているのかと思うと、彼は東宮に申し分ない身分なれど、第二皇子である光る君の、幼いながらも畏れを覚えるような美貌と、ゆく末が楽しみな才の片鱗に、光る君を東宮にしたい気持ちは、大きく膨らんでゆく。
『東宮には、第一皇子よりも、第二皇子の方が、ふさわしいのではないか?』
日に々々、そんな思いは強くなっていた。
そんな帝は遂に、年明け早々、名高い人相見を呼ぶよう、
それを
「お忙しい
「…………」
が、次の瞬間、彼女の顔に浮かんだ笑顔に、そんな出来事はすぐに忘れていた。
『真の恋』と出会った帝は、夢うつつで
美しく薫る『
(要は
「良きことを思いついた」
「まあ、なんですの?」
「この筆を、光る君に新年の祝いとして差し上げよう」
「そんな、帝の
控えめな彼女の言葉をさえぎる。
「才のある光る君の手習いにふさわしい品だ。もう決めたのだ。それよりも今日あった楽しい話をしてあげよう」
これは自分にと差し出された品、ましてや小さな筆である。誰にはばかることもない。
「光る君には宝とさせますわ……」
帝は
そんなこんなで、翌日のお出ましも、恒例のごとく遅れに遅れ、そのまま
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