第25話 回りゆく歯車 3
“六”に迫る『
「わっ!」
葵の君は、“六”の驚きも知らず
が、そこは昔取った杵柄、身に染みついている合氣道のうしろ受け身を取ると、揺れる建物の中でクルリと体を着地させた。(セーフ!)
「動かぬように!」
すると、目を開けられぬほどの光が塗籠を覆った。
“六”と女童を包み込もうとしていた、『陰』の
“六”は紫苑を床に放り上げるように立たせ、扉を強引に呪符の札で閉じ、息を潜めて扉を見つめる。
やがて、あれだけ派手にぐらついていた揺れはおさまり、静かになった
元通りになった
そして漂うのは『沈香と乳香』の薫り……。
「なぜ、なぜ帝の文と同じ香りが……」
「帝の手紙……?」
彼は姫君を腕の中に保護したまま、大宮の言葉に反応する。
「ご相談しようと思ったのは、そのことでしたの……」
葵の君は、茫然と立ち尽くしている紫苑が心配で、他の女房を呼ぶが、いつもは必ずどこかに控えているはずの彼女たちは、何度呼んでも、誰もこなかった。
「降ろしてください!」
「どこへ?!」
葵の君は
女房は死んだように、ぐっすりと眠っている。隣の
この分では、東の対の女房は先ほどの影のせいで、全員が眠っているのであろうと思われた。
「恐らく怨霊は、なにかの加減で、
“六”は自分の考えを口にする。
怨霊はいつからか『石の枕』を
それを聞いた葵の君は、はっと紫苑の髪に目をやる。髪には昼間、自分が飾ってあげた、おそろいの花の髪飾り。
怨霊はそれで間違えたのだろうか? 首から下げていた守りの宝珠は、その役目を終えたのか、気がつくと、いつの間にか消えていた。
「そんな……」
葵の君は、体をカタカタと震えさせる。本物の怨霊と対峙した実感に、全身から汗が噴き出して止まらない。
ここは紛れもなく『葵の上』が呪い殺された『怨霊の存在する源氏物語』の世界なのだ……。
そして唐突に、葵の君は気づいた。心臓を揺り動かした、もうひとつの感情に。
母君と同じように、今度はを命がけで守ろうとしてくれた
『恋に落ちた自身の感情に』
自分を助け出してくれた時、砕け散る石の破片から守るように抱き上げてくれた彼の肩は、飛んできた破片が当たったのか、
彼は心配げな目で見つめるの髪を撫ぜながら、怯える子供を安心させるように、冬場で着込んでいたから大丈夫だと、ふざけるような口調で言うと、薄く笑ってくれた。
彼は光源氏とは違って、幼い少女に、なにかを考えるような人物ではない。
そう……いまの自分はまだ九歳で、子供以外、可愛い姪以外、なんに見えるというのか。恋に気づいた途端、それは気がついても、どうしようもない恋だった。
例え十九歳のままだったとしても、彼が、実の姪以外の目を向けてくれるとは、思えなかったけれど。
今生の母君と同じように、の『神/アイドル』として拝むだけにしようと心に誓う。
だっては、中身は分別と常識ある十九歳なのだから!
ひょっとしたら怨霊にびっくりしすぎて、心臓がバグっているのかもしれないし! ナントカ症候群とか、心理的ナントカとか!
彼女は恋愛に関しては、現代人の常識の範囲の人間であり、元々が光源氏とは真逆の、お節料理に入っている海老のように腰の引けた性格であった。
*
『本編となんの関係もない小話/典薬寮のアンテナショップ編2』
不慮の出来事で、“伍”に借りを作った“弐”。
弐「なにかいい儲け話ありませんか?」
壱「なんだ、副業は規定で禁止されているぞ」年末最後の大イベント『追儺』の準備中。
弐「そこをなんとかならないかなと! 先輩!」
壱「分かったから、先に仕事をする!!」
地味な下働きの服を着て、『追儺』の儀式のための、内裏の色々な設営や準備を手伝いに行っている“弐”
弐「結構な特別手当になりました!」“伍”に無事に“蘇”の買い取りで借りた借金を返したのでした。
壱「身バレはしていないだろうね?」“弐”は陰陽師としては有能なのだけど、私生活が頭が痛いなあと思うのでした。
弐「大丈夫です! なにかあれば、これからもよろしくお願いします!」市場での買い物が大好きな“弐”
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