第1690話 【エピローグオブあっくん監察官への道・その4】書類整理は得意なあっくん ~孤軍奮闘編~

 とある未来の文献にこんな言葉が記されている。


 「有事の際、何人かの英雄に頼らざるを得ない状況を真の平和と呼べるのか」と。


 その言葉には続きがある。


 「平和なんだったら真贋とかどうでも良いと思う。英雄って頼りになるからステキだよね」と。


 ネオ国際探索員協会・乳出版。

 南雲修一大元帥著。

 『ドンと来い、トラブルバスターⅢ』より抜粋。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな訳で和泉監察官室に英雄という名の悪者あっくんがやって来た。


「よぉ。和泉さん、死にかけてんだってなぁ? くっそめんどくせぇがよぉ。俺が書類片付けに来てやったぜぇ?」

「げふげふげふ……。申し訳ありません、あっくんさん……。昨日少しばかりハッスルし過ぎましてごふごふっ」



「心配して損したぜって言いたいんだけどよぉ。俺ぁよぉ、あんたの死因はそれになるんじゃねぇかってずっと思ってるからなぁ。笑えねぇ……」


 和泉さんは婿養子のカウントダウン中です。



 子供がデキたら佐賀に里帰りして佳純さんと揃って産休を取る予定。

 南雲さんの声が聞こえてくるようである。

 「ほら、監察官が足りない」と。


「ごきげんようですわ! 佳純さん!!」

「うん! とってもごきげんよう! 小鳩ちゃん!!」


 昨夜は搾りとったらしい佳純さんが小鳩さんとごきげんよう。

 「すぐにお茶を淹れますね」とあっくんにもご挨拶。


「でぇ? こっちの山になってる書類片付けちまえば良いんだなぁ?」

「申し訳ございませげふぅ」


 あっくん、実は持っている。

 監察官の決裁印。

 京華さんから「お前になら託せる。うちの上級監察官室の書類が溜まったら適当に押しておいてくれ」と渡された、五楼印の判を。


「今日もこいつを使うぜぇ。くはははっ! この判でミスってもよぉ! 京華さんの責任になるってスンポーだぜ。気楽なもんだよなぁ!!」

「そうは言ってもちゃんと書類を読み込むんですわよね、浄汰さんったら」


「あぁ? 適当に押すためにはよぉ。適当に押して良い書類かどうかの確認が必要だろぃ。小鳩ぉ? おめぇ、俺が婚姻届の判を適当に押したと思ってやがんのかぁ?」

「……きゅん。ですわ」


 現在あっくんは監察官代行として職務の最中です。

 だがしかし、新婚さんだもの。仕事中の事務的なやり取りでもキュンキュンしちゃうのは致し方ない。


「あっくんさんってそういうところ、天然ですよね。正春さん……じゃなくて。失礼しました! 和泉監察官は割と計算して先にセリフを考えるタイプなので!! 時には天然もののキュンが私も欲しいです!!」

「あっくんさん……。静かに判だけ押してくださごふっ……。私語は減点でげふっ」


 とりあえず「ちっ」と舌打ちで返事を済ませてから、たまに「あぁ? これ不備があるだろうがぁ。どこから来た書類だぁ? ……野郎。南雲って書いてあるじゃねぇか」と問題のある紙は別の山に重ねていく。

 だいたい1時間半で比喩表現ではなく物理的に小山を形成していた和泉監察官のデスク回りが綺麗になる。


 そして南雲さんが呼び出された。

 あっくんに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「えー! すごい!! 実は仕込んでおいたのよ! 不備のある書類!! 7枚ほど!! 全部見つけられちゃったの!? もう阿久津くん明日から監察官やりなよー!!」

「9枚」


「えっ?」

「9枚だ。不備があった書類はよぉ。おい、南雲さん。適当かましてんじゃねぇぞぉ? 一番上に立ってるあんたがミスしてどうすんだって話なんだよなぁ!!」



「えっ!?」


 それから南雲さんはあっくんに15分ほど怒られた。



 和泉監察官室に続々と来客あり。

 次にやって来たのは六駆くん。

 正座している南雲さんを見てにっこり微笑んでから言った。


「あ! さては僕が仕込んだ不備のある書類に気付かなかった南雲さんが怒られてるところですか!? うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」

「逆神くん! 君ぃ!! やーめーろーよー!! 私がトラップ仕掛けるつもりで用意した書類に重ねてトラップ仕掛けるなよー!!」


「ダブルチェックは基本なのにそれを怠るからですよ!! うふふふふふふふふ!!」

「おかげで阿久津くんにものすごく怒られたよ!! 来年度の予算の中途半端なところに0足すとか、悪質すぎるんだよ!!」


「桁数の確認は簿記だと基本ですよ?」

「簿記じゃなくても基本なんだよなぁ? 俺ぁ和泉さんの手助けするって話でこっちに来たってのによぉ。余計な仕事増やすんじゃねぇ」


「申し訳ありませんでした……。逆神くんも一緒にごめんなさいしよう?」

「えー? すみません」

はいらねぇんだよなぁ。逆神ぃ!!」


 とはいえ、またしてもあっくんの有能さは証明された。

 しょうもないトラップを仕掛けた南雲さんと、そこに無言で途中入室した六駆くん、この2人の悪辣な罠を回避しつつ、1時間半で処理した書類の数は3桁に迫る勢い。

 このスピードは酒飲んで酩酊していない時の楠木監察官に匹敵する。


「ちっ。とりあえず片ぁ付いたし、俺ぁ帰るぜぇ。小鳩ぉ」

「まだいいじゃありませんこと!! 浄汰さん!! これから佳純さんがご飯作ってくださるそうですわ!!」


「そうですよ! あっくんさん! 和泉さんに介護食を作って差し上げるついでに皆さんのお食事も作りますから! 食べて行ってください!!」

「ご飯を頂きながら恋バナするんですのよ! 浄汰さんも一緒に!! うふふ!!」


 こっちの可愛い「うふふ」をされると発言権が一気に弱くなるあっくん。

 とはいえ監察官への道も五合目はとうに過ぎた時分である。

 ラストスパートでまさかの息切れを起こさないとも限らない。

 ここは佳純さんの美味しい料理で英気を養おう。


「辛さ控えめのエビチリ作りますけど、アレルギーとかある方いませんよね?」



「僕は大丈夫です! エビ好きなんで!!」

「私も大丈夫だよ! エビって美味しいよね!!」

「おめぇらも帰らねぇつもりなのかよ」


 南雲さんと六駆くんが「ちょうどお昼時だから」と声をそろえる。



「佳純さん、僕も手伝いますよ! もう1品くらい主菜が欲しいですよね? 冷蔵庫開けても良いですか?」

「もちろん! けど、逆神くんってお料理できたんだっけ?」


「最近、莉子がものすごく料理してくれるので! 負けてられないなと思って!! あっくんさんに習ってたんですよ! あ、色々ありますね! じゃあ鶏肉と野菜のカシューナッツ炒めでも作ります!!」

「阿久津くぅん! 君ぃ!! 料理を教えられるほどの腕前だったのかい!? しかもオシャンティーな料理!! 君ぃ!! 監察官室は和泉くんのとこみたいに好きに食材置いてくれていいからね!! 泊まりも自由だから! 好きなだけ美味しい料理作って! 小鳩くんと泊まっていいんだよ! 君ぃ!!」


「ちっ」

「まあまあまあ!! それってとっても良いお話ですわね!! 浄汰さん!! お布団とベッドだったらどっちにしましょうか? お布団の方が良いですわよね? 汚れた時のお掃除が楽ですもの!! ねっ!!」


 六駆くんがフライパンを軽妙に振りながら言う。


「カシューナッツに含まれるビタミンって疲労回復に効果的なんですよね! あっくんさん!! 連泊しても大丈夫じゃないですか!! うふふふふふふふふふふふふふ!!」

「そりゃあ俺が独り酒する時のつまみ用レシピなんだよなぁ。勝手に病人食みてぇな説明してんじゃねぇ。あとその気色悪ぃ笑いをすぐにヤメろぃ。口縫い合わせるぞ、てめぇ」


 それから楽しい昼食の時間を過ごすあっくんであった。


 そして翌週。

 ついにその時が訪れようとしている。


 次回。

 臨時監察官会議。


 阿久津監察官は誕生するのか、しないのか。どっちなんだい。

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