第1684話 【エピローグオブ仁香すわぁんのお見合い・その3】見合って見合って! ~お見合い開始!!~

 日本本部、青山監察官室では。


「ゔぁ……。私、週末に水戸さんとお見合いするんだ……。ご趣味は? とか聞かなくちゃいけないんだ……」


 仁香すわぁんがもうほとんど絶望の淵から転げ落ちていた。

 そしてより深刻な絶望の蓋を開けようとしていた。

 そこに通信が入った。


「はい。青山監察官室、副官のザール・スプリングです。これは六駆様。仁香様でしたら先ほどからため息をついておられますが。はっ。お繋ぎいたします」


 もちろん、六駆くんからである。

 ネオ国協本部からの通信であればどんなにへこんでいても監察官が無視する訳にはいかない。


「こちら青山です。逆神くん、こんにちゔぁ……」

『どうも! 逆神六駆です! 今ですね、水戸さんに会って来たんですけど』


 仁香さんの瞳に一瞬だが活力が戻ってきた。



「殺しちゃいましたか!?」

『さすがに僕も特に悪い事してない人を殺したりしませんよ?』


 仁香さんの瞳から活力が消え失せた。



 六駆くんが「大変だなぁ」と思いながら続けた。


「とりあえず、水戸さんには仁香さんに迷惑かけないようにって言い含めたんですけど」

『ありがとう、逆神くん。けど私、知ってる。その程度じゃうちの宿六には効果ないって事を……』


「そこでなんですけど。お見合いの当日、僕と莉子が近くに潜んでいて、アレがナニしそうな時はスキルで秘密裏に処理しようかなって思いまして」

『え゛。そこまでしてもらうのは申し訳ないよ……。そもそもが私の失言で始まったお見合いの話なんだし』



「無理にとは言いませんけど。ちなみに水戸さんは信介のメンテナンスするって言ってましたよ」

『……心苦しいんだけど、お願いしても良いかな!?』


 六駆くんが「承りました!」と言って、通信を終えた。



「ザールさん。私って最低ですよね」

「いえ。そのようなことはないと思いますが」


「咄嗟に口から出た名前が水戸さんだったのに、今は何より母に心配かけるのが嫌で……!! 水戸さんのいつもの調子を母に披露したら! 絶対に思われるんです!! この子、どうしたの!? って!! なんなら育て方間違った!? とかまで行っちゃうかも……!!」


 それはそう。


 仮に水戸くんを偽物の恋人に仕立てるとして、その準備にはおおよそ2年は費やしたいところ。

 2年も経てば水戸くんも多少は落ち着いているかもしれないし、逆に落ち着いていなければ現状、六駆くんの弟子である彼は落ち着くまでふぅぅぅんされ続けるだろう。

 結果的に2年あれば落ち着くはずなのだ。


 ただ、2年も時間をかけたら六駆くんと莉子ちゃんは結婚して子供だって生まれているだろうし、なんやかんやで色々面倒なことになるだろうし、この世界が先に悲鳴を上げるだろうし、それはいけない。


 つまり今回のミッションはこうなる。


 1つ。仁香すわぁんが仁香ママの信子さんを安心させてこれ以上のお見合いプレッシャーはヤメておくんなましと言えるところまで持っていく事。

 1つ。水戸くんの信介を暴走させない事。

 1つ。仁香さんが罪悪感で程よいサイズの胸を押しつぶされないように、汚れ仕事は逆神六駆が引き受ける事。


 これらを完遂すれば、とりあえず仁香さんのメンタルは守られるし、水戸くんも「自分、この前さ。お見合いしたんだよね。君たちは?」と次の同窓会で旧友たちにマウントを取れる。

 それマウントじゃなくて自虐じゃないかと思われるかもしれないが、水戸くんがマウントポジションを得ているという実感があれば彼は幸せなので問題はない。


 そんなこんなで、日曜日。

 仁香すわぁんのお見合い、当日がやって来た。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 信子さんの予約した料亭。

 先に到着して待っているのは仁香さん母娘。


 仁香さんはパンツスーツにブラウスと一見するといつもの仕事着だが、よく見ればブラウスはフリルが付いている。

 こういう細やかなオシャレに気付ける男性ならば、仁香すわぁんのハートもゲットできるかもしれない。


 信子さんは着物姿。

 髪は気合を入れて結っており、サザエさんみたいになっておられた。


「それで! 水戸さんってどんな人なんだい!? あんた、見たら分かるって言うばっかりで何も教えてくれないんだから!!」

「うん。誠実な人……だよ。一生懸命だし。……うん。実直な人柄だと思う」


 おっぱいに対してである。

 あるいは太もも、あるいはお尻に対してである。

 だが、全てちゃんと「仁香すわぁんの」と枕詞が付くので実直で誠実である事には違いない。


 料亭の仲居さんがやって来て「お連れ様がお着きでございます」と言う。


「やは!! 仁香すわぁん!! お待たせしてすみません!! あなたの水戸信介が参りましたよ!!」


 薔薇を咥えてタキシードに身を包んだ水戸くんが襖を足でスパァァァンと開けてから入室。

 仁香さんは血圧が一気に下がって眩暈を覚えたという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、隣の部屋では。


「モグモグモグモグモグモグモグ。美味しいね! 六駆くん!」

「僕は莉子のモグモグだけ見てればメンタルが安定して助かるよ! 最高に可愛い!!」


 逆神カップルがいた。

 南雲さんが「緊急の事案なんです。ここにとんでもないモンスターが出るかもしれないんです。これ、美味しい羊羹です」と料亭のオーナーに直談判。

 仁香すわぁんのお見合いが行われている部屋の隣室をゲットしていた。


 そして懐石料理を堪能しながら隣室の様子を伺っていた。

 誰が。


「ふん。逆神。高みに立つ変質者が入って来たぞ」

「えっ!? 入室の時点でやってるんですか!? 嘘でしょう!?」


 覚えたばかりの構築スキルで家を建ててあげたので「代わりにちょっと僕の仕事も手伝ってくださいよ」と連れ出してきたラッキー・サービス氏。

 スキルを使って緊急事態を防ぐと仁香さんには言ったが、街中の料亭で攻撃スキルを使う訳にはいかない。


 そんな時にはサービスさん。


「うわぁ!! 大変だ! サービスさん、お願いします!!」

「ふん。俺の肩に触れろ。逆神。莉子。行くぞ。らゅろゃそゃつゅ!! 『サービス・タイム』!!」


 時間を凍結させ、使用者と使用者に触れている者だけが自由に動ける世界を創る、サービスさんの『サービス・タイム』である。

 六駆くんも既に習得しているが、本来の使い手ではないので疲れるらしい。


「行きますよ! サービスさん!!」

「ふん。高みに立つか、逆神。俺は強風の出るドライヤーが欲しい」


「帰りに電気屋さんで買ってあげますから!!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 凍った時の世界で、六駆くんとサービスさんは隣室へ突入。

 とりあえず水戸くんの咥えている薔薇を奪って、それは近くにあった花瓶に挿した。

 まったく似合っていないタキシードを力任せに引きちぎり、予め用意していたイドクロアを水戸くんの足元に。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「ふん。やるな、逆神。見事な構築スキルだ」


 喜三太陛下にちゃんちゃんこを創ってあげた時に服飾系の構築スキルはマスターした。

 イドクロアを素材にして、シンプルなダークグレーのスーツへ変換構築。


「よし! とりあえずこれで大丈夫でしょう! 戻りますよ! サービスさん!!」

「ふん。まったく見合いとは面倒だな。愚民どもの考えることは理解に苦しむ」


 自分たちの部屋に戻った2人。

 サービスさんが凍った時間を解除した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ぐったりしている仁香さんの肩を叩く信子さん。


「あらやだ! なかなか好青年じゃない!! やるわね、仁香!!」

「うん。そこのタキシード仮面の出来損ないみたいなのが……あれ!?」


「お初にお目にかかります! 水戸信介と申します!!」


 なんか普通の一般的な社会人みたいな水戸くんがそこにはいた。

 仁香さんは理解する。


「あ、そっか!! ありがとう……!! 逆神くん!!」


 だがまだお見合いは始まったばかりである。

 これから飯食って他愛のない話に花を咲かせて、後は若い二人でアレをナニしてね、まで待って行かなければ。


 お見合いとは高難易度ミッションなのだ。

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