第1554話 【エピローグオブ大結婚式・その4】山根夫婦、念願の結婚式 ~紅蓮のチャオ~

 和泉パビリオンでは力尽きた和泉さんが佳純さんの胸に抱かれたまま、ステージ切り替えの時間を迎えていた。

 功労者はサポート役を果たしたノアちゃん、ホログラム和泉さんというアイデアを発案した芽衣ちゃん、そして旦那を信じて支え続けた佳純さんと全員である。


 だが、やはり主役は和泉正春であった。

 どれほど体調が悪かろうともやり抜く覚悟。

 体調管理には失敗したが、覚悟は完了させていたのでやり遂げた。


 温かい拍手に包まれて和泉夫婦は幸せだった。

 佳純さんが言う。



「さあ! 今晩は新婚初夜ですね! 和泉さん!」

「ごふっ!?」



 次は子作りだ。

 目指せビッグダディ。和泉正春の冒険はこれからである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 会場に流れていた『瞳をとじて』がアウトロまで流れ切ったのを確認して、六駆くんがBGMを取り換える。

 結婚式にも色々な種類あるが、BGMというのは存外無視できないほど重要なポイントである。


 シンプルなピアノの伴奏だったりクラシックだったり、好きな歌手のお気に入りの曲だったり結婚式ソングのメドレーだったり。

 参列者のご歓談タイムなどではこの選曲のセンスについて語られる事もままある。


 大結婚式の最後に控えている山根パビリオン登場前に音楽が流れ始める。

 『紅蓮の弓矢』のイントロが流れ始めた瞬間に南雲さんが六駆くんを見る。

 そこにはテヘペロと舌を出している最強の男が。



「すみません! 間違えました!!」

「やーめーろーよー!! さぁぁぁかぁぁぁがぁぁぁみぃぃぃぃ!! 私が部下の結婚式でパワハラしたみたいになるだろー!? これからスピーチするの私なのにさぁぁぁ!!」


 会場のボルテージはアガったのでとりあえず良しとしよう。



 ところで山根くん夫婦の準備のほどはいかがか。

 チーム莉子からは莉子ちゃんと小鳩さんがサポート乙女を担当しているはずなのだが、音信不通である。


 便りがないのは順調な証拠、だろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「さーせんっした」

「もー。健斗さんがトマトジュースなんか飲むからですよー」


 山根パビリオンでは山根くんの白いタキシードが赤く染まっていた。

 既に山根くんが謝罪していることから分かるように、トマトジュースを噴いたのである。



「だって!! 急に『紅蓮の弓矢』が流れるんすよ!? ズルいっすよ!! 人がトマトジュース飲む瞬間にあれは!! 南雲さんも酷いことするっすよ、マジで……」


 六駆くんが犯人でしたが、もう南雲さん主犯説が濃厚になった後だった。



 莉子ちゃんと小鳩さんもこれには困り果てていた。

 小鳩さんは一応確認する。ダメなんだろうなと思いながら。


「あの……。予備のタキシードってそこに並んでいる赤いしぶきが散ったもので全てですわよね?」

「うっす。自分、春香さんの方を向いてむせたので。咄嗟に逆方向に噴いたらこうなったっすね」


「えとえと! 春香さんのウェディングが守られたのは良かったと思います! わたし!!」

「健斗さん、もうそのままでもいいですよ? モニター見てましたけど和泉さん血まみれのタキシードじゃなかったですし。これもまあ思い出になるからいいかなって」


 結婚式したい病が改善された結果、結婚式の形にはかなり寛容になった春香さんである。

 しかし山根くんは意外とこういう細かいところにこだわる主義。


「小坂さん」

「ふぇ?」


「ちょっと南雲さん呼んでもらえるっすか?」

「あ、はーい!!」


 先に申し上げておこう。

 南雲さんと山根くんの身長体重はほとんど同じである。


 かつては監察官室対抗戦で南雲さんの白衣装備と『双銃リョウマ』をパクって戦ったこともある山根くん。

 そして南雲さんは白組担当司会者なので、当然だが白いスーツを着ている。


 奪おう。


 山根くんは獲物を屠る準備を整えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 数分後。

 南雲さんと六駆くんが山根パビリオンにやって来て事情を説明していた。


「だから私じゃないのよ! 悪いのは逆神くんなのにさぁ!! なんで私、身ぐるみはがされるの!?」

「南雲さん。有事の際に責任取るのが上官の仕事なんだと僕は思いますよ!!」


「有事を作った君が言うなよー!! 逆神くぅん!! じゃあもうスピーチはどっか陰に隠れてやるから。はい。これ私のスーツ」

「あざっす。なんか生暖かいっすけど、我慢しますよ」


 南雲さんは思った。

 「やだ。私、部下に恵まれてなさ過ぎ?」と。

 今さらであるし、六駆くんに関してはもう部下じゃないのでなおのこと今さらである。


「皆さん! もう出番みたいですわよ!!」

「ふぇ!? 南雲さんが見るも無残だよ!? 六駆くん!!」

「小坂くんも言うようになったなぁ。無残じゃないよ!! ランニングシャツとトランクスだよ!! 働く男のインナーはだいたいみんなこうだよ!!」


 そこは六駆くんも責任を感じているので、全力で挽回の手を考えた。

 考えた末、これしかないという選択を得るに至る。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「おいバカ! 逆神くん!! 何するの!? 何もしないで!?」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『貸付レンタラ古龍化ドラグニティ』!!」

「バカぁぁぁ!! それ1番ダメなヤツじゃない……かぁぁ……」


 要は理性的であれば良いのである。

 南雲さん。

 散々外し続けて来た理性ガチャ。


 虹色の確定演出の時は今です。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 5分後。

 白いスーツに身を包んだ山根くんと純白のウェディングドレスの春香さんが山根パビリオンで手を振っていた。

 妻である春香さん、その満面の笑みを見ていると「ちゃんと結婚式やって良かったっすね」と思う旦那の山根くん。


 上空には緑色の翼を広げたパーリーピーポーがいた。



『チャオ☆ 結婚には3つの袋が大切って話を知っているかい!? 1つ目は愛を入れる袋! 2つ目はその愛を包む袋!! そして3つ目は愛を放出するための玉袋さ☆ 会場に集った愛の使徒たち!! 次の幸せは君たちのものだよ☆ だからまずはセニョール健斗とセニョリータ春香を祝ってあげよう! 人の幸せを自分の幸せにできる! それが愛にあふれた世界を創るコツさ! ワオ! ごめんよ、もうセニョリータじゃなかったね!! セニョーラ春香!! ああ!! 世界は今日も眩しいね!! この2人のために輝く太陽!! ありがとう!! みんな! ブラボーと叫んで! 次にブラヴァーと!! いや、今日はブラヴィッシモだね!! ありがとう! 健斗、春香! この世界で私と出会ってくれて!! チャオ☆彡』


 結婚式のスピーチなんて理性のタガが外れていた方が盛り上がるものである。



 古龍の戦士の祝福がミンスティラリアの砂浜に響き渡った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 会場を参列者として訪れていたとある女性が涙ぐみ、たわわな胸を手で押さえてから涙ぐんで拍手をする。


「見ていたか! 瑠奈! 京一郎!! あれが!! あれが私たち南雲家の大黒柱だ!! 雄々しく凛々しく、そして愛に満ちている!! くそっ。胸がうずき始めた……!! 今すぐにでもお慕いしたい!! 南雲家は向こう50年安泰だ!! 瑠奈! 京一郎!! よく見ておけ!!」

「……あー」

「だー!!」


 京華さんが感動に打ち震えていた。

 そして瑠奈ちゃんが生後3ヵ月にしてジト目を習得していた。

 京一郎くんは嬉しそうに手を叩いている。


 友人の結婚式に参加した夫婦のうち約5割はその夜、自分たちも燃え上がる事が多いとされる。

 情報源は現在捜索中なので、諸君も夫婦で結婚式に参列してみよう。


 一足先に答えにたどり着けるはずである。

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