第1553話 【エピローグオブ大結婚式・その3】幸せ吐血と約束 ~お供は女子高生コンビ~

 ミンガイルパビリオンが万雷の拍手を浴びる。

 どこか居心地悪そうにしていたバニングさんだったが、隣で屈託のない笑顔を見せるアリナさんの存在気付くと氏もぎこちない微笑みをたたえた。


 結婚式とは新郎新婦が笑顔にならなければ始まらない。

 先に新婚生活を始めていたミンガイル夫婦だったが、明日からはきっともっと楽しい日々が続いて行くだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 次に出番を控えている夫婦、和泉正春さんと佳純さんの2人がいる和泉パビリオンでは。


「げふごふげふごふぁぁぁぁ」

「大丈夫ですよー! ゆっくりおっぱいに着陸してくださいねー!! 誤嚥に気を付けて、血は私のおっぱいが引き受けますから!!」



 結婚式とは新郎新婦が笑顔にならなければ始まらないって言ったばかりじゃないか。



 和泉パビリオンを担当するチーム莉子の乙女たちはこちらの2人。

 「……みみっ」と状況を見守る芽衣ちゃん。

 「これは刺激強すぎてのっとふんすですね!! 月刊探索員には使えません!!」と構えていたスマホを下ろしたノアちゃん。

 女子高生コンビである。


「みみみみっ。佳純さん、もう出番らしいです。大丈夫です? 芽衣は子供だから分かんないです。けど、今は分かんない寄りの分かるです。大丈夫じゃないです? みーみーみー?」

「和泉さん、私たちの出番らしいです!! イケますか!?」



「げふぅぅ」

「大丈夫だそうです! イケるよ、芽衣ちゃん! ノアちゃん!!」


 本当にそうだろうか。



 和泉正春という男。

 基本的に体調は悪いのでプロポーズ大作戦をキメた「体調良好日」が奇跡の1日だったのは間違いないが、この式日に普段にも増して具合の悪い「体調不良日」がヒットしてしまった。


 ここに結婚式の罠が潜んでいる。

 大勢の参列者を遠方含め事前に日取りを決めて集める都合上、よっぽどの事でもない限り「ちょっと延期しますね」とは軽々に言えない。

 会場を押さえるのにも時間とお金がかかるし、人を集めるのには時間と気遣いがかかる。


 ご祝儀握りしめて会場に来たら「新郎が死にそうなので順延します。チケットの払い戻しについては追って連絡致します」とか貼り紙されていたら、多分仕切り直しの2回目には来てくれない人が多数を占めるだろう。


 そこで話は和泉さんに戻る。

 体調不良が日常の彼だが、実は柄にもなく結婚式に臨むため体調管理を万全にしていたのである。


 その結果、慣れない事をしたので体調を拗らせた。


 弱々しく和泉さんが呟く。


「ごふごふ……。も、申し訳ございません、佳純さん……。なにが悪かったのか……小生皆目見当もげふり。ま、毎日……生卵をビールジョッキにたくさん入れて飲みましたしげふっ。寒風の中、乾布摩擦だってしましたごふっ。一体、何が足りなかったのでごふりましょうか……」


 芽衣ちゃんは「……みみっ。全部が足り過ぎてた気がするです」と思ったが口に出さなかった。

 ノアちゃんは「ふんすー。こちら和泉パビリオンです。のっとふんすな感じです!!」と司会進行役チームに連絡中。


 佳純さんが言った。


「私はこの和泉さんが好きだから結婚式したいって駄々っ子みたいなワガママを言ったんです!! ですから、このまま!! このまま少しだけで良いので、参列者の皆さんに私たちの門出をお披露目させてもらえませんでしょうか!!」


 もうウェディングナース服は和泉さんの血に染まっている。

 だが、和泉さんのタキシード患者衣は真っ白なまま。

 おわかりいただけただろうか。


 旦那の性格を鑑みて、こうなる事を佳純さんは見越していたのだ。

 ゆえの鮮血に染まったウェディングナース服。

 ゆえの純白のまま保たれたタキシード患者衣。


「芽衣ちゃん! ノアちゃん!! お願い!!」

「みっ! 芽衣、思い付いたです! 芽衣の『幻想身ファンタミオル』で和泉さんのホログラム創るです!! みみぃ!!」


「おお! 芽衣先輩! それはすごく興奮しますね!! ボクは何をしましょうか!?」

「みみみみっ! 佳純さんのドレスをスペアのスペアのスペアがダメになった時のヤツに着替えさせてあげてです!!」


「ふんすー!! お任せください!!」


 ノアちゃんがしゅばばばばと動き始める。

 芽衣ちゃんは煌気オーラをチャージして集中力を高める。


「しょ、小生のために……なんと申し訳ない……」

「和泉さん。私たち、今日までワガママを通しちゃいましょう。明日からはまた、恩返しの毎日ですね!! こんなに幸せな時間、ないですよ! 大好きな人の幸せ吐血を無駄に大きな胸で受け止められるなんて!! あははっ!」


「佳純さんごふっ」

「ややっ! スペアのスペアのスペアのスペアのスペアにお着替えお願いします! 佳純先輩!!」


 出番が来るまでに消費されたウェディングナース服、実に4着。

 常人ならば出血多量で命の危険が危ないところだが、和泉さんは無詠唱で治癒スキルを持続発現中。


 幸せになる儀式の結婚式。

 その道のりはかくも険しい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 数分後。

 ステージ中央の司会進行役チームがアナウンスする。


『ここは僕の担当です!! 逆神六駆! 紅組司会! 紅組の赤はもちろん鮮血の赤!! ご紹介しましょう!! 和泉正春さんと佳純さんのご夫婦です!! 和泉さんのフェイバリットソング、『瞳をとじて』が流れますので、皆さん! 手拍子でお出迎えしてください!!』

『なんでそんな選曲したの!? いや、名曲だけども!! 和泉くんが瞳を閉じたらなんか終わりそうじゃないか!! あ! 南雲です!!』


 依然としててんやわんやしているおじさん司会者コンビ。

 メインステージが和泉パビリオンに切り替わると、そこにはちょっと痩せたけど元気に立ち上がる和泉さんの姿があった。


「みみみみみみみみみっ!! 『貸付レンタラ幻想身ファンタミオル』です!! みみみみみぃ!!」


 説明しよう。

 芽衣ちゃんは修業により逆神流の他者に効果を付与する『貸付レンタラ』スキルを習得していた。

 現在、参列者に見せているのは口の周りを綺麗に拭いた和泉さん。

 横たわっているが、美しい姿勢で横たわっているので90度ほど角度調整したらばあら不思議。


 なんか立ってる感じのホログラムが出現する。


『それでは新郎新婦によるご挨拶です! 張り切ってどうぞ!!』

『張り切ったらダメだと思うんだけど!? 大丈夫なの和泉くん!?』


 立ち上がった、厳密には立ち上がっているように見えるホログラム和泉さんが口を開いた。


「本日はお忙しい中、小生と佳純さんのために。いえ、この大結婚式に御参列いただき誠にありがとうございますごっ、ごっ……」

「頑張ってください! 和泉さん!!」


 スピーチは佳純さんがするという手段もあった。

 というかそうするべきだった。

 だが、和泉さんが譲らなかった。


 「小生たちの幸せになるための儀式です。小生がやり抜かねば、どうします」と。


 現在、血ぃ噴きそうになるのを堪えながら和泉さんが奮闘している。

 横たわった状態だが、背筋はピンと伸びたまま。

 視線は真っすぐに。未来を見据えて。


「小生は至らぬ点を数えた方が多い男です。それでも一緒に人生を歩きたいと言ってくださった佳純さん。小生はこの虚弱な身ですがげ、げふ……。佳純さんよりも必ず1日長生きしてご覧に入れましょうと、お、お約束させて頂きました。どうか、この約束の証人に……皆さま、なって頂ければ……幸いです」


 会場からは温かい拍手と祝福の声が上がった。

 『瞳をとじて』の大サビに差し掛かったところで「本日はありがとうございました」と言い切った和泉さん。


「ごふぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「もう! 意外とかっこつけなんですから! そういうところも好きですよ! 正春さん!!」


 最後の幸せ吐血は佳純さんのウェディングナース服のおっぱいがしっかり吸収。


 年の差を考えても体力面を考えても困難極まる約束を大勢の前でキメた和泉さん。

 きっとその約束は果たされるだろう。


 愛は奇跡を起こすと昔から決まっているのである。

 目指せ、100歳まで一緒の仲良し夫婦。

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