第1548話 【エピローグオブ乙女たちの結婚式希望・その4】和泉正春監察官、年に1度の体調良好日に結婚を申し込む ~いつもは頼りになる女の子が感涙するのってなんかいいよね~

 ミンスティラリアにやって来た六駆くんと南雲さん、そして和泉さん。


「あ。すみません。南雲さん。ちょっとおんぶしてもらえます?」

「ええ……。まあいいけど。君、本当に胃腸だけはまったく強くならないよね」


「あまり揺らさないでください!! あとあんまり喋らないで!! 口動かす振動でも割とこっちはヤバいんですよ!!」

「嫌だなぁ……。なんでこんなに注文が多いんだろう。和泉くんは準備できてる?」


「ええ。小生、今日はやれる日です。これほど動いて血の一滴も口の端から垂れていない……!! 今日が大安吉日でしたか!!」

「今日って仏滅でしたよ?」


「逆神くん、君ぃ! これから結婚申し込む和泉くんに茶々入れないの!! ……君がそのつもりなら私にだって考えがあるよ? この場でグルグル回転するよ?」

「えっ!? 南雲さん、白衣汚してすみません!! 先に言っときますね!!」



「えっ!? 嘘でしょう!? 想像だけで気持ち悪くなったの!? もう君は魔王城に置いて行ってもいいかな!?」


 「別に逆神くん必要なくない?」と気付いてしまった南雲さん。



 とはいえ莉子ちゃんが現場にいる以上、他人の恋愛に茶々入れるのが大好きな逆神カップルである。

 2人セットにしておいた方が勝手にイチャコラしてくれてやりたいこともスムーズにできるという事が経験則で分かってしまう。哀しき苦労人、南雲修一。


 普段は和泉さんが死にそうになっている人のポジションだが、今日はそこに六駆くんがナイスイン。

 和泉さんは自身の足で力強くミンスティラリアの大地を踏みしめる。


 キメるのだ。

 愛する人に「愛しています。結婚しましょう」と。

 「あなたを幸せにしたい」と。


「あ! すみません、南雲さん! 液キャベ飲もうとしたら全部こぼれました!!」

「なんか頭が冷たいなって思ったんだよ! ねぇ!? もう私と逆神くんはここで待ってた方がやっぱり良くない!?」


 いざ、リャンちゃんの家へ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はむっ。はむっ。モグモグモグモグモグモグモグモグ……。美味しい!!」

「ふぐぅ……。私だけだぁぁ、私、便利なおっぱいエアバッグだったんだぁ……」


 殺伐としたモグモグ空間に今、救世主が。


「佳純さん!! ここだとお聞きしたので来てしまいました!!」

「い、和泉さん!? 今、今はダメです!! 私、顔が涙でぐしゃぐしゃなので!!」


 普段の聖人な和泉さんであれば「そうでしたか。では今しばらく待つとしましょう」と答えていただろう。

 だが、今日の和泉さんはワイルド。


「佳純さん!! ここに婚姻届があります! 小生の欄は記入済みです!! こちらには指輪がございます!! 指輪のサイズはいつぞや、添い寝してくださった時に勝手をしまして測りました!! どうか小生と結婚式を挙げて頂けませんか!!」

「えっ。あの。えっ? 私、ちゃんと女として見られてました? おっぱいエアバッグ扱いは? 全身柔らかくて倒れる時に都合のいい女なんじゃ?」


 都合のいい女という表現はたまに聞くが「倒れる時に都合のいい女」というのは初めて聞いた。

 この場にいる大半の者がそう思ったが、どう見てもクライマックス。

 無粋なツッコミはしないのである。


「モグモグモグモグ……。佳純さん! お返事しなきゃでふよ!! チャンスの女神はハゲ散らかってる? とか、なんかそんなヤツです!! 前髪しかないらしいので! 前髪女の前髪をキャッチしなきゃでふ!! モグモグモグモグ……」


 本日、莉子ちゃんはチートデイ。



 モグモグがキマって、ほんのちょっとだけアホの子になってございます。



 だが、言いたい事はだいたい伝わったらしい。

 佳純さんが立ち上がると和泉さんに向かって駆けだした。


 これは大好きな人に抱きついて涙を流す、感動的なヤツである。

 しかし懸念もある。

 年1の体調良好な和泉さんだが、体調が良いのは文字通り良しとして、である。


 果たして肉体の強度はアップしているのだろうか。


 人は「今日は体調がいいな! スッキリ起きられたぞ!!」という朝、ボディビルダーになっているだろうか。

 人類の中でも超上澄みのボブ・サップに、メイウェザーになっているだろうか。


 多分なっていない。

 このまま佳純さんが感涙しながら和泉さんに抱きつくと、和泉さんが真っ二つに折れて涙の意味が変わりそう。


「ふぅぅぅあ゛……ふぅぅん。『貸付体力レンタラパワフル』!!」


 そこで動いた最強の男。

 自身は死にそうだというのに、これまでお世話になった和泉さんの人生における最高潮。

 その瞬間に立ち会ったらば、助力したい。


「あああ!! なんでしょうか、これは!! 力が漲って参りました!!」

「和泉さぁぁぁぁぁん!! 私ぃ! 私で良いんですかぁぁぁ!?」


 佳純さんが和泉さんに抱きついた。


「もちろんですとも!! 佳純さん! 小生にとって隣を一緒に歩いてくださる稀有な女性は貴女しかいません!! こちらからもう一度お願いさせてください!! 佳純さん!! 結婚して頂けますか!?」

「ひっく……ぐす……。は、はい! はいっ!! うぇぇぇぇぇ……ごめんなさ……涙が止まらなくて!!」


「小生も年に1度はこうして差し上げられます。さあ、涙を拭わせてください」

「和泉さぁぁぁぁぁん!!」


 こうして佳純さんと和泉さんが結婚式カウントダウンの数字を『1』まで一気に縮めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「逆神くん。なかなかにくい演出するじゃないか。……逆神くん? あれ? 逆神くん? おーい? 逆神くん!?」

「な、南雲さ……。和泉さんには気にしないでくださ……い……って。僕が好きでやった事なので本当にモルスァ」



 六駆くんが死んだ。



 こうなると南雲さんにできる事は1つ。

 莉子ちゃんに六駆くん死亡を気取られないようにしてあげること。


「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ……。うまいっ!! 美味しい!! ジューシー!!」


 チートデイの莉子ちゃんは危険が危ない。

 腹いっぱいで死にそうな人の近くに肉汁したたる料理を持ってくるなど、トドメを刺すが如き行為。というかオーバーキルである。

 もう死んでるんだ。


「逆神くん。君の優しさ……それが若い2人の幸せを彩ったよ。今はゆっくりお休み……」


 南雲さんはリャンちゃんの家の入口から少し離れたところに六駆くんを安置した。

 白衣をそっと被せてあげるエチケットも忘れない。


「いやー。良かったね! 土門くん! いや、もう土門くんって呼ぶのも変かな? 和泉くんが2人になっちゃうから、これからは佳純くんだね! おめでとう!!」

「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」


 和泉さんが死にかけても動じる事のない佳純さんがこんなにおっぱいを、失礼、心を震わせるプロポーズ。

 きっと今日という日が生涯忘れらぬ記念日となったのであろう。


「……いいな。結婚式。どうせ私は。だって私って私だもの。はるか」

「妾は結婚式など挙げられる立場になかったな。ふふっ。アトミルカの長が何を夢のような……。ふふっ……」


 クララパイセンが鳴いた。



「うにゃー。南雲さん、南雲さん! 助けてにゃー!! まだ面倒くさい感じになっとるおにゃの子が2人おるんだぞなー!!」

「えっ!? 逆神くん!! ごめん! 今すぐ生き返って!? 誰かー! ソルマック持ってませんか!? 液キャベでもいいんですけど!! 逆神くん、すぐに帰って来て!! 私の手には負えないからぁ!!」



 こちら乙女たちの結婚式希望回。

 まだ希望している乙女が2名おりますれば。


 これで終わる訳には参りますまい。

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