第1413話 【エピローグオブスカレグラーナ・その2】悪い顔のサカガミ! 婚約指輪をゲットする!! ~忘れ去られた布石を拾って歩くのがエピローグ時空~

 前回のあらすじ。


 久坂さんとあっくんがネオ国協相手に【稀有転移黒石ブラックストーン】を増産してひと稼ぎするべくスカレグラーナの鉱山地帯を調査。

 その頃、逆神六駆はすっかり忘れていた婚約指輪作りのために幻竜人ジェロード親方を再度師事して頑張る所存。


 南雲さんは連れて来られて早々にやる事がなくなり、帝竜人バルナルド様とオタトーク座談会を開始。

 平和な世界で行われる、置いたきり忘れていた布石の回収作業。


 エピローグ時空の正しい使い方である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「私、二刀流なんですよ。チャオってない時って。バルナルド様、ご存じでしたっけ?」

「覚えておるが、もう1年以上卿はチャオっている時がマックスバトルフォームであるゆえ、印象が薄くなった感は正直否めぬ」


「そこで考えたんですよ。二刀流の斬魄刀の解号って長いじゃないですか」

「うむ。京楽隊長と浮竹隊長であるな。浮竹隊長は卍解が見られず無念であった」



「『北の風切り裂き、南方、雲に覆われよ』とか、どうでしょうか!?」

「南雲。卿の二刀は確か晴と曇で二対ではなかったか? 北風の要素はなかったのではないか? 自分の名を入れたいがあまり忘れておらぬか? 自身の武器の特性」


 無難にナグモとバルナルド様の斬魄刀トークから入るのがマナー。



 そこにやって来るのはルッキーナちゃんと小鳩さん。

 蒸かした芋がスカレグラーナでは最良のオヤツで最高のお茶請け。


「どうぞ! ナグモさん!!」

「ああ、ありがとう。そうだ。コーヒーセット持って来たんですよ。バルナルド様、コーヒーもいかがですか?」


「うむ。頂くとしよう。南雲の淹れるコーヒーは世界一と聞く。余はこのスカレグラーナ以外の地をよく知らぬが! フッハッハッハ!!」

「では! 私のコーヒーでスカレグラーナを世界の中心にして差し上げますよ! いやぁ! なんだろう! 来るの渋ってたけど、久しぶりに心が軽いなぁ!!」


 元気になった南雲さんを見て「良かったですわね」と微笑む小鳩さん。

 小鳩さんは自分の恋愛絡みが乙女たちの中でも佳純さんと同着1位でスッキリしたので、チーム莉子、ひいては南雲上級監察官室のお姉さん兼お母さんポジションに復帰している。


「あちらは難航しそうですわね……」

「お芋持って行ったらお邪魔でしょうか?」


 小鳩ママとルッキーナちゃんの見つめる先には、タオルを頭に巻いて見た目だけは職人スタイルになった六駆くんの姿があった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ジェロード親方の指導は厳しい。

 対して、お忘れの方のための最強の男の欠点。


 この逆神六駆という男、ものづくりに関しては5段階評価で1が付いてしまうレベルに不器用である。

 これは周回者リピーター時代から武器と言えばその辺に落ちている敵のものを拾っていた事が始まりで、そのうち構築スキルを覚えて煌気オーラ具現化武器を使い始めて、最終的には煌気オーラを込めたガチビンタで滅せぬものなどなくなったため。


 例えば四郎じいちゃんなどはスキル使いとしての素養に恵まれなかったので生き残るため、周回者リピーター時代には武器や防具、アイテム造りを真っ先に覚えたし、逆神大吾はヒット&アウェイという名の斬って全力逃走という通り魔的戦型を極めるために『ゲート』や逆神流剣術の開発に時間を費やした。


 逆神家の男たちの中で、喜三太陛下を含めても間違いなく最も不器用なのが六駆くん。


「良いか、逆神。鍛冶とは我慢強さがものを言う。前にも言ったはずだが、覚えているな?」

「うわぁぁぁぁぁぁ!! なんでちょっと煌気オーラ込めたら砕けるんですか、これぇぇぇ!! 腹立つなぁ!!」



「覚えていないのだな?」

「覚えてますよ!! このイライラする感じ!! そうだった!! 鍛冶は腹立つんでした!!」


 ジェロード親方は幻竜時代にトリオ・ザ・ドラゴンの中で唯一、六駆くんによって殺されています。

 かつての強敵に捨てるところはないのがこの世界。時代はSDGsなのである。



「良いか。逆神。貴様が良いもので造りたいというから、秘宝剣ホグバリオンと、その対となるホグルカリバーを材料として提供しているのだ」

「あ゛あ゛あ゛!! また壊れた!! それって提供してくれたのホマッハ族の皆さんですよね!? ジェロードさん、なんか偉そうだなぁ!!」


「なんだと、貴様」

「よく考えたら、前に指輪造ろうって時もお手本見せてくれなかったですよね!? 偉そうな講釈はお伺いしましたけど!!」


「もう1度言ってみろ。逆神」

「ええ、ええ! 何度だって言いますよ!! 指輪、作れるんですか!? ジェロードさんって! そんなにゴツゴツした手ぇしちゃって!!」


 ホマッハ族が集まって来る。


「サカガミ、悪い顔してる!」

「これは汚い方のサカガミ!!」

「ジェロード、騙されてる!」

「ジェロード、綺麗!!」


 ホマッハ族は語彙が少ないだけで、知能は高い種族。

 もう六駆くんの目論見を看破したらしかった。


 幻竜人ジェロードの瞳に炎が灯る。

 素人は黙っとれ。そう言わんばかりの情熱が迸る。


 溶かしたホグバリオンを槌で手早く叩き、さらに炉へ突っ込んでからまた取り出してぶっ叩いて形成。

 その動きには迷いなどなく、そのゴツゴツした手は繊細な冴えを見せる。


「逆神!! 嫁の指のサイズを言え!」

「えっ!? すみません! 莉子の指、多分ですけど変動型なので! 太くなったり戻ったりすると思います!!」



「愚か者が!! 常に痩せさせておけ!! とりあえず貴様のサイズで造る!!」

「うわぁ!! 僕と同じサイズだよって言わないようにしよう!!」



 そうして、いつの間にか仕上がっていた。

 ホグバリオンとホグルカリバーの両方を惜しみなく使った、スカレグラーナ産の秘宝リング。


「すごいじゃないですか!! ジェロードさん!!」

「バカを言うな。この程度で褒められては我のプライドにむしろ傷がつくというもの」


「えー!! すごいですよー!! こんな立派なリングをちょちょいのパッパで造っちゃうんですから! 人のサイズになってたった2年なのに!! すごいなぁ!! こんな精密な作業ができちゃうんですか!! すごいなぁ! 僕には10年経っても到達できない領域だなぁ!!」


「……仕方のないヤツだ。これは見本として貴様に渡しておこう。しばらく現世で研鑽を重ねてからまた来るが良い」

「えっ!? いいんですか!! うわぁ!! ありがとうございます!!」


 逆神六駆。

 婚約指輪をゲットする。


 自分で作ろうと決めた事に意義があるのだ。

 完成品には心がこもっている。


 そこに介在する六駆くんの作業は「すごいなぁ! よいしょー!! すごいなぁ!!」と合いの手入れながらおだてただけだとしても。

 それはもう、六駆くんが造ったのも同じこと。


 そう考えるのはいけない事だろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 半日ほど経って、久坂さんとあっくんが戻ってきた。


「ひょっひょっひょ! しばらく手ぇ付けちょらんかったけぇ、逆にええ塩梅のイドクロアが揃うちょったわい!」

「それを採取させられたのは俺なんだよなぁ。次はじい様が独りで来やがれぃ」


「そがいな寂しい事ぁ言うもんじゃなかろうが! のぉ、息子! 頼りにしちょるで、ジョーちゃん!」

「ちっ。調子の良いじいさんがよぉ。放っといてもしばらく死にゃあしねぇな」


 成果は上々だった模様。


「じゃあ帰りましょうか!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『連結ガッチムゲート』!!」

「わたくし、何も知りませんわ。莉子さんの指輪は六駆さんが造りましたもの」


 得るものの多かったスカレグラーナ視察が終了。


「卿らの来訪、余はいつでも待っておる」

「バルナルド様。次は斬魄刀を造りましょうね! ジェロードさんに頼んで!」


「うむ。頼りにしておるぞ、ジェロード」

「どいつもこいつも鍛冶を何だと思っているのだ」


 なお、病欠だった冥竜人ナポルジェロさんのところには南雲さんが焙煎を済ませたコーヒーがお見舞いとしてお届けされたらしい。

 お休みの子にも優しいのがエピローグ時空。

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