第1402話 【エピローグオブ木原芽衣ちゃま・その3】大役を果たすみみみと鳴く可愛い生き物 ~舌打ちは我慢した~

 芽衣ちゃま隊がダンジョンを潜る。

 現在白ビキニダンジョンの第3層まで到達。

 全4層の小規模ダンジョンなど、成長した芽衣ちゃんにかかれば物の数ではないのだ。


 まだ「みみみっ」ではなく「みぎゃー」と鳴いて日須美ダンジョンを逃げ回っていた頃の彼女を思えば、随分と遠くへ来たものであると目が細くもなろう。


「隊長! モンスターが出て来ました!!」

「どうしましょう!!」

「板倉くんの顔色が悪いです!」

「どうしたらいいですか!!」

「なんでも隊長に聞くなよ、お前たち!!」


 今では芽衣ちゃんが頼りにされて、目標とされる。

 ヴェルタースオリジナルになったのである。


 壁からは定期的にモンスターが出現しているが、何故か全てが同じ種。

 カエルっぽい見た目のヤツである。


「みみっ。グアルボンさんです。みんなの『ライトカッター』で退治できるです。ちなみにイドクロアは採取する意味がないくらい低価値です。みみみみっ」

「んー。おかしいな……」


「みみみみっ。仁香さん、気付いてしまったです? みみっ」

「え゛。あ、ごめんね!? 私がおかしな恰好してたよね!? もういっそ、トラさんマントを取って水着で戦った方がいい!? だから私を除隊処分にしないで! 芽衣ちゃん!!」


 仁香お姉さんは芽衣ちゃんによるリラクゼーション効果をもろに受けており、一時的にだが、いつもは困ったヤツを放っておけないお姉さんなのに、今は放っておくと白ビキニをお披露目してしまいそうで放っておけないお姉さんになっている。

 日本語は難しい。

 彼女の日頃から抱えているストレスは乙女たちの中でも突出しているので、芽衣ちゃん回くらいは気を抜いて、みみみと鳴く頼りになる少女に寄りかかっても良いんじゃないかと思ってあげたい、それはいけない事だろうか。


「み゛ー」


 そんな芽衣ちゃんが前方100メートルほど先の壁を見つめて訝しむように鳴いていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その壁際では。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!! 危なそうなトカゲをバラバラにしてやったぜぇぇぇぇ!! 芽衣ちゃまぁぁぁぁ!! カエルはそっちに投げるからねぇぇぇぇぇぇ!!」

「南雲さん! 僕、どうしたら良いですか!? さっきから木原さんがちょっとだけ強そうなモンスター見つけたら真っ先に狩って、痕跡残さないように食べてるんですけど!!」


 グアルボン以外のモンスターが出て来たら、木原ゴリそくくう

 グアルボンが出て来たら、木原ゴリそくとう

 こうして白ビキニダンジョンがグアルボンダンジョンの様相を呈していた。


「うん。いいんじゃないかな? 若い子たちの経験値にはなってないけど。今のところダンジョンは無事だし」

「あー。今の発言は良くないっすねー。若者の成長の機会を奪う上官。良くないヤツ出ちゃったっすよ。ノアさん」


「ふんすふんすっ!! ボクのジャーナリズムが光って唸ります!! 最高に興奮する取材現場になってきました!!」


 芽衣ちゃんの往く道を勝手に舗装しているおじ様がいるせいで、グアルボンが雑に出現するだけというドラクエ3のアリアハン周辺だってもう少し緊迫感はあるかと思われる状況。しかもあと1層でそれも終わってしまう。

 繰り返すが、今回のダンジョン攻略は若手に経験を積ませるため。


 ハイキングするために国境超えてアメリカくんだりまでやって来た訳ではない。


「あ! 良いことを思い付きましたよ、僕!!」

「聞きたくないなぁ。何を思い付いちゃったの? 逆神くん」



「木原さんのところだけ隠匿スキルを解除してですよ! 上半身くらいまで芽衣たちにも見えるようにしたら、いい的になるんじゃないですかね? 僕でも驚きますよ! 急に壁から木原さんの顔が浮かんで来たら!」

「逆神くん。ダンジョンはお化け屋敷じゃないんだよ。若い子たちにエンターテインメントを提供する場所じゃないの。あとそれ、トラウマになりかねないでしょ。……あ! この子、私の話聞いてない! もうやってるな!? くそぅ!! じゃあ私知らない!!」



 保護者参観で父兄が良くないハッスルをすると、恥ずかしいのは子供である。

 芽衣ちゃんはよく「芽衣は子供だから分かんないです」というが、今回は子供だからこそ分かる嫌悪感の正体。


 諸君も既にお気づきかと思われるが。

 芽衣ちゃんもとっくに察知していた。


 今やチーム莉子のオールラウンダーで特攻隊長でバランサーで癒し枠。

 芽衣ちゃんを侮ってはならない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……みみっ」


 もう気付いていたけど、さらにすぐ気付いた木原芽衣Bランク探索員。

 昇進に興味がないせいでBランクの基準値をぶち上げている乙女が見つめる先には。



「みっ。なんか出てるです。み゛ー」


 木原さんが顔だけこんにちは状態に変態していた。



 隊長としてすぐに全体へ指示を出す。

 まずは目印と景気づけに一発。


「みみみみみみみみみっ! 『大太刀風おおだちかぜ』です!! みっ!! みなさん、このダンジョンのボスっぽいゴリラが壁からはみ出てるです! 芽衣のスキルを着弾ポイントにして、一斉攻撃お願いするです!! みみみみみみみっ!!」


 芽衣ちゃんの日頃の努力の結晶、逆神流の基礎スキル『太刀風たちかぜ』が木原さんを襲う。

 既に極大スキル級の威力を発揮している巨大な風の刃が壁を抉った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!! ……姪っ子の成長を感じるぜぇぇぇぇぇぇ」


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!! 化け物だぁぁぁぁ!!」

「きゃああああ!! 顔面ゴリラよぉぉぉ!!」

「オレたちのスキルがアレに通用するのか!?」


 狼狽える若手たち。


「うわぁ……。木原さんだ……。あ。じゃあやっぱり、他にも来てる人がいるな? 私も何となく気配を察知してたけど、芽衣ちゃんと一緒のダンジョン散歩が楽しくて無視してたんだよね。ちょっとくらい私もやっておこうかな」


 仁香さんは現実に引き戻された。

 自分はクソったれな職場で働いていたのだと。


 足元に落ちているイドクロアと思しき石を拾い上げると、大きく振りかぶった。

 これはバルリテロリの皇宮秘書官、オタマさんから習ったスキル。

 「愚か者をお諫めする時などにどうぞ」との事である。


「みんな! 芽衣ちゃんの指示通りに!! 隊長を疑わない! 隊長がイケると判断したんだから、隊員は全力を尽くすのみだよ! 私に続いて! ふんっ! 『投擲暴行フライングアサルト』!!」


 ストッキングにメリケンサックを詰めて勢いつけてぶん投げる。

 その応用で手近なところに落ちているものを用いても発現できる、お諫め属性スキル。


 きっとこのスキルが輝く回もそのうちやって来るだろう。

 今は眼前のゴリラ討伐に集中するのである。


「青山さんの言うとおりだ! やろう!!」

「続きます! 『ライトカッター』!!」

「私だって!! 『ライトカッター』!!」


 芽衣ちゃんが基点となって始まった集中攻撃。

 それらを全て被弾した木原さんという名のゴリラ型モンスター。



「う、う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」


 断末魔を轟かせて、壁の中にめり込んで消えていった。

 空気は読めるし意外と賢い、そんなゴリラ型監察官。木原久光。



 芽衣ちゃんがそれを見届けて、舌打ちしたいところを我慢して言った。


「みみみっ! このまま一気に最深部まで駆け抜けるです! あと少し! 頑張ってです! みみみみみみっ!!」

「はい!!」


 この日の経験は次代を担う若手探索員たちにとって、忘れられないものになったという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の壁際。


「南雲さん! 木原さんがダンジョンにめり込んだんですけど!! これもうダメですよ! 取り出すには壁ぶっ壊さないと!!」

「うん。そうね。正体不明のゴリラ型モンスターが出るからここは封鎖しましょうってクレメンス上級監察官にご報告しとくよ」


 結果として南雲さんの仕事がまたちょっと増えたが、芽衣ちゃんの成長を感じられたので全部オッケーなのである。


 次回。


 芽衣ちゃんの日常回。

 さあ、癒しと口直しの時間ですよ。

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