第1392話 【エピローグオブ南雲家の出産の後・その9】命名!!
南雲さんが分娩室から病室に移された京華さんのところへ戻って来た。
妻が笑顔で迎える。
「修一」
「あ。はい。すみませんでした。席を外すにしても長すぎましたよね」
「私はお前がどうなろうとも、子供たちを立派に育ててみせる。だから安心して、世界を統べる道を往け!!」
「京華さぁん!! 京華さはぁぁぁん!! 往きませんよ!? よしんば往くにしても、一緒について来てくれないんですか!?」
病室には結構な数の部外者が集まっている。
「ふわぁぁー。赤ちゃん、可愛いですねー。産まれたばかりってなんだか異星人みたいって聞いてましたけど! 全然可愛いです!」
「にゃはー。それはどこ情報だぞな? 莉子ちゃん?」
「ふぇ? 六駆くんが言ってました! 莉子は可愛いものが好きだろうから、もう少し大人になってからじゃないと赤ちゃんを見るのは無理だって! でもそんなことないですよね! 可愛い!! もぉ! 六駆くんってばぁ! わたしの事になると過保護なんだから!!」
六駆くんの「やっちまった」ギャンブルプレーが少しばかりの時を経て発動。
莉子ちゃんに「赤ちゃん可愛い!」という感情を芽生えさせてしまった。
さりとてそれはまた別のお話。
南雲家を現場で祝福するのは、莉子ちゃん、クララパイセン。
そして後発組。
「まあまあまあ! 元気に泣いておられますわね! きっと京華さんに似た凛々しい女の子になりますわよ!!」
「みみっ! 南雲さんに似た頭脳明晰な男の子にもなるです! みっ!!」
素直な気持ちで祝福する小鳩さんと芽衣ちゃん。
「五楼さん。いや、失礼。南雲夫人。母乳の方はまだ取り掛かりませんか?」
「ずっと思っていた。貴様は誰だ? なぜブラジャーで顔を隠している? 修一が何も言わんと思って黙っていたが。しかし、貴様。不審者にしてももう少し慎みを持てんのか? 不審が過ぎていっそ何と声をかけて良いものか終ぞ言葉は見つからなんだ」
「……私は名乗るほどの者ではありませんので」
「名乗られんから不審者なのだが、確かに今更だな。名乗られても不信感と不審感、既にどっちも拭いきれん」
マスクド・ボニュー氏です。
京華さんのためにフランスから来た紳士なので、優しくしてあげてください。
ノアちゃんのスマホが震える。
最近は病室でもスマホの使用はオッケー、ただしマナーモードで通話はするなよ、な病院も増えた。
これが時代の流れか。
「ふんすー!! 『
ラインだったので文面を読んで、既読を付けて、指示に従ったノア隊員。
さすがに旦那さんが苦言を呈す。
「いや。ノアくん? 病室に穴空けるのはヤメてくれるかな?」
「旦那さん。やっと気が合うようになりましたね。私の病院はどうなるんですか? なんで空間が歪んで見えるんですか?」
産婦人科の先生も同感だったらしい。
あと、先生はスキル使いの素養に目覚めかけておられる。
穴が歪んで、広がって、別の空間と接続された。
そう断言できるのは、続けて小さな門が発現されたからである。
「南雲さん!! 名前付けましょうよ! 名前!!」
「逆神くん……。君ぃ。それ、電話じゃダメだったの? ついに君さ。ここは任せて先に行けって言ってさ、その任せたポイントからダイレクトに現地参加して来たじゃない。もうやだなぁ、こんな有能お化けが隠居して好き放題過ごしてるの……」
六駆くんがリモート参加。
彼の後ろには山根くんと、ダンジョンを1つ
さあ、長い夜もクライマックス。
名を付けよう。
新たな命に。
◆◇◆◇◆◇◆◇
全員が見守る中、京華さんと目を合わせた南雲さんが切り出した。
「まあ、うん。みんなにも迷惑と心配をかけたからね。あと、別に隠すことでもないし。名前はね、一応候補を絞ってあったんだよ。男の子だった時は、京華さんと私の名前から一文字ずつ取って、
乙女たちから「きゃー!」と歓声が上がる。
両親の名前をちょっとずつ集めて元気玉スタイルで名付けるのはエモいとされており、キラキラネーム全盛期においても一定の地位を確保して来た伝統的なネーミング。
「こいつは今、この時より京一郎だ。皆、よろしく頼む」
「わぁぁー! 京くんですね!!」
「にゃはー! 一瞬で南雲さんの要素を消し去る莉子ちゃんのパワープレイがキタコレにゃー!!」
男の子、弟くんの名前は南雲京一郎。
ならば、女の子。お姉ちゃんは。
「女の子だったら京子にしようかと思ってたんだけどね。ちょっとごめんね。一旦考えさせて?」
「ああ……。わたくし、分かってしまいましたわ」
「みみっ。京ちゃんが2人になるです。みっ」
「ややっ! 京華先輩も含めると3人です! 興奮しますね! ふんすふんす!!」
兄弟で同じ漢字を使うと呼び方に困る、そんなあるあるの気配を産まれてから察した修一氏。
だが、監察官一の知恵者はすぐに切り返す。
「そうだ。今回は本当にね。みんなにはお世話になったから。1番の恩人から一文字もらおうかな。どう思いますか? 京華さん?」
「おい、修一。いい加減にしろ。うちは亭主関白でいくと何度言わせるつもりだ。夜のチャオ☆彡している時くらいのリーダーシップを発揮しろ」
夜のチャオ☆彡とは。
「あ。はい。じゃあそうしましょうね。ここに来る時から、実はずっと良いなって考えていた名前はあるんですよ」
「えっ!? 南雲さん!! 僕、六と駆ですよ!? 女の子の名前に使えますかね!? バルリテロリの親戚みたいになりません!?」
「厚かましいなぁ! 逆神くん、君ぃ!! 確かに助かったけども!! 君ぃ!! さっきの演説を加味して計算したらプラスマイナスでマイナスがちょっと勝ってるんだよ!! 君じゃないの!!」
続けて山根くんが立ち上がったが南雲さんは「君でもないから!」と断じた。
「
「………………………………?」
今回の南雲家出産関連で1番働いたのは六駆くん。
だが、ナグモ王を爆誕させられたので南雲さんも言ったように手放しで大恩人と称えるにはちょっと抵抗があった。
その点、瑠香にゃんは間違いない。
旦那を職場から自宅に高速飛行で運び、旦那と妻を病院へ安全飛行で運び、ヘリポートを壊してから直し、本部に戻ってからはダンジョンを1つ攻略して帰って来た。
恩人である。
まごう事なき恩人である。
「………………………………? ステータス『瑠香にゃんに瑠香にゃんという名を付けたのはぽこますたぁだとお忘れですか』を獲得しました。もうなんか綺麗に纏まりそうなのでこれは持って帰ります」
南雲京一郎と南雲瑠奈。
新しくこの世に生を受けた、これから愛情を注がれてすくすくと育っていく、幸せが約束された子供たちの名前である。
「南雲さん!」
「なにかな? 逆神くん」
「おめでとうございます!!」
「……うん。ありがとう。くそぅ! 君、基本的に善人だからなぁ!! なんだかなぁ!! これから私、これまでの人生の数倍苦労するって分かってるのに!! 君の事が嫌いになれない!! 君、本当にいい性格してるなぁ!! くそぅ!!」
「じゃあ、南雲さんと京華さん以外の皆さん! こっちで打ち上げしましょう! 門を広げるので、そこから直にこっち来てください!! もう出前頼んであるんで! 南雲監察官室の経費で! うふふふふふふ!! 今夜は無礼講ですよ!!」
部外者たちが全員、どこでもドアっぽい形になった『
◆◇◆◇◆◇◆◇
急に静かになった病室で先生が聞いた。
「旦那さん? どうされました?」
「こんな時ね、私、どんな顔したら良いのか分からないんですよ……。帰っちゃうんだね。みんな。いきなり」
「修一。笑えばいいと思うが? よし。退院したら早速、綾波コスでチャオるか!!」
幸せならば笑えば良い。
嫌な事があっても笑えば良い。
明日の問題は明日の自分に任せて、今は笑えば良い。
さあ。みなさん、打ち上げで締めるんですよ。
この長い1日をね。
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