第1391話 【エピローグオブ南雲家の出産直後・その8】ひとつになる世界 ~おじさんは感極まると声が大きくなる(異世界規模に)~

 六駆くんが立ち上がった。

 山根くんが親指を立てて「イケるっす」と応じる。

 サーベイランス越しには「ヤメてぇぇぇぇ!!」と未だ第一子および第二子誕生の感動冷めやらぬのか、涙声の南雲さん。


 「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」と気合を入れて出て来たのは小さな門。

 名を『放送バースデイゲート』という。

 たった今、六駆くんが命名した。


 この門をこれまで『基点マーキング』構築して来た全ポイントに超広域発現。

 効果範囲は前代未聞。

 全てのスキル使いの誰もが到達していない領域なので明確な単位が存在せず、ただただ広いとしか表現できないのは非常に残念。


「世界各国の皆さん! そして異世界の皆さん!! おはようございます! 夜の地域もあるかと思いますが、ここはおはようで統一させてもらいます! 探索員の父である、南雲修一氏に子供が産まれました! 本当の意味で父になったのです!! そのため、人間だろうとモンスターだろうと、異形の者であろうとこの放送は聞いてもらいます!!」


 逆神六駆の演説が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここはミンスティラリア。


『いいですか!! 南雲さんがいなければ、僕は探索員として活動していなかった訳で! なんやかんや僕やチーム莉子に救われた人たち!! あなたたちは南雲さんに救われたと知ってください!!』


 六駆くんの響く声に応じるのはファニコラ魔王様。


「うむ。六駆殿の言う通りなのじゃ」

「ファニコラ様? 南雲殿にお会いした事がありまするか? 吾輩の記憶によるとニアミスもしていないような気がいたしまするが」


「うるさいのじゃ! ダズモンガー!!」

「ぐあああああああああああああああああああああああ!!」


 この地でもナグモを讃える産声ぐああが1つ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 続けてルベルバック。

 全兵士が敬礼を維持しながら六駆くんの演説に耳を傾けている。


『世界が滅亡しそうになったのも! それをものすごくいいタイミングで助けてもらえたのも! それはもうね、全部が南雲さんのおかげなんですよ!! その南雲さんがお父さんになったんです!! これはもう、お祝いしないと嘘ですよね!?』


 ガブルス中尉が離宮、つまり代理総督府の執務室にて敬礼をしているキャンポム少佐に具申する。


「我が国でも祝砲を撃ちましょうか」

「良い判断だ。直ちにリコタンク、全機に火をいれよ。然るべき時に然るべき事をする。さもなければ人の世は無常だ……」


「はっ。何を言っておられるのか分かりかねますが、了解しました」


 こののち、ルベルバックでは苺色の祝砲が空を染めたという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 さらにスカレグラーナ。


「ナグモ! パパグモ!!」

「ナグモ! これでもっと来なくなる!!」

「今は幸せに震えて眠れ! ナグモ!!」

「ナグモに似た薄情者にはなるな! ナグモの子!!」


 ホマッハ族たちが口々にお祝いの言葉っぽい何かを叫ぶ。

 3人の竜人たちもこれにはにっこり。


「我ら竜人の力を得た者が、父親になるか」

「ジェロード? あのチャオ!! とか叫ぶ姿を竜人にカウントされると我らの肩身がより狭くなるような気がするのは、このナポルジェロだけか?」


「南雲……。また見えた時、余からは感謝と祝意を伝えよう。あと、ガンダム関連が落ち着いたから次はBLEACHの新アニメについて語り合いたい。それまでに余はオリジナル斬魄刀の解号をいくつか考えておこう。今はただ。新たな幸せに、幸あれ」


 バルナルド様が金色の手を空に掲げた。



「ナポルジェロ殿よ。バルナルド殿が幸せに幸あれとか言っておられるが」

「触れるな、ジェロード!! あとで拗ねられると我らが困る!!」

「卿ら……。もう聞こえておる。余、いい感じのこと言ったのに。晩ごはんいらない」



 竜人たちからも祝福の声が届いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 現世でもヨーロッパ圏やアメリカ探索員協会はもちろん、監獄ダンジョンカルケルのあるオセアニア地域にまで六駆くんの演説は届く。


『いいですか! これを機に、ハッキリさせておきましょう!! 国協とかいうふざけた組織は解体するか、しないならば! うちの南雲さんが理事長になるべきなんですよ!! これまで現世を何度救ったと思いますか!? アトミルカを! ピースを!! クソのテロリ、あ、ごめんなさい! バルリテロリを!! ことごとく滅ぼしたのは誰ですか!! そう! 南雲修一ですよ!! だったらもうね! 誰が探索員のリーダーなのか、お分かりでしょう!? ちょうど子供が産まれたんだし! その辺もハッキリさせておきましょうよ!!』


 どの国も六駆くんの言葉を否定するだけの力を、代案を、野心を、それらを叶える実行力を持ち得てはいない。

 フランスでは「わー。パチパチパチパチー」とナディア・ルクレール上級監察官が手を叩いており、イタリアのズキッチョ・ズッケローニ理事も「素晴らしい提案だ!!」と大きく頷く。


 これまでは敵対していた、とまでは言わないが、関係は良くなかったアメリカ探索員協会でさえもジャック・クレメンス上級監察官が「よし。もうそうしよう! アームストロングくん! 祝電を送るんだ!!」と日本に倣えではなく、ナグモに倣えの意思を表明する。


 世界は、ちょっとしたことで1つになれる。

 出産は、ちょっとしたことではない。


 つまり、南雲さんちに子供が産まれた。

 その吉事にして一大事に、世界は1つになったのである。


 六駆くんがこう言って纏めた。


『いいですか! 皆さん!! 合わせてくださいね!! 南雲家の益々のご活躍とご発展を!! はい、せーの!! お祈りしております!! 以上!!』


 世界中から、異世界中から。

 「ナグモ!」「ナグモ!!」「南雲!!!」「ナグモ!!!!」と新しいリーダーを讃える声はしばらく途切れなかったという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 1周回って、産婦人科の外。

 8月の熱気も深夜になれば幾分かマシになる。

 そんなベンチに独り座る、南雲さんがいた。


 そこに産婦人科医の先生がやって来る。


「ああ。旦那さん。こんなところにおられた。ちょっと外の空気を吸って来ると言ってからもう30分ですよ。さすがに奥さんと子供たちを放置し過ぎだと思いますけど……旦那さん? えっ。泣いてるんですか?」


 普段は飲まない缶コーヒーを片手に南雲さんは目を潤ませていた。

 あの逆神六駆が。天上天下唯我独尊、あとお金。

 そんな逆神六駆が、自分のためにここまで骨を折ってくれた。

 それがただ嬉しい。


 嬉しいけど、日が昇ってからの事を考えるとなんかとてもすごく辛い。


「先生……」

「ああ、気を張っておられましたから。緊張の糸が切れましたか」


「いえ。先生」

「分かります。分かります。弱った姿を奥さんに見せないようにという配慮でしたか。なるほど、分かります」



「私、これから世界と異世界を統べる者として生きていくみたいなんですけど。これってどう思います?」

「ちょっと知り合いの心療内科医を呼びますからね。旦那さん、疲れ過ぎましたね」


 救いはスキル使いの素養なき者には六駆くんの演説が聞こえなかった事か。



 さらにしばらく、だいたい5分ほど。

 ブラックの缶コーヒーを飲み終えて、南雲さんが立ち上がった。


 明日の朝よりもまずは今夜。

 まだ大事な任務が残っている。


 命名せねば。

 子供たちに。

 頑張って産まれて来た、それを証明する名を。


 次回。

 命名。


 ナグモの頬を伝うは、清水か。血涙か。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ところで旦那さん」

「あ。はい。もう大丈夫です」



「ナグモってなんです?」

「えっ!? ………………………………えっ!?」



 スキル使いの素質を持つ者は、割とその辺にいたりするのである。

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