第1380話 【エピローグオブ小坂莉子ファーストステージ・その2】デキるメインヒロインの大学生活 ~彼氏といつも一緒編~

 依然として時系列が乱れているメインヒロインエピローグ。

 現在は5月。ゴールデンウイークが終わった時分である。


 既に他の者のエピローグ時空で大学生の莉子ちゃんは何度も登場しており、意外や意外、割と単独行動をしているというか、ひとりで孤独のグルメしているというか、端的に表現すれば六駆くんと一緒にいない事の方が多かったりする。


 これは莉子ちゃんがデキた彼女であり、デキるメインヒロインである証明。

 とはいえ、大学生カップルになった莉子ちゃん。

 彼氏と一緒に過ごしたい気持ちは震えるほど溢れている。


 横隔膜が震えている。


 ならば、彼氏と一緒の大学生活。

 これにフォーカスを当てずして何とするか。

 恋人で婚約者で愛弟子と師匠でパートナーなのである。


 これだけ一緒にいて良い理由があるのに、そこの描写を省くことはもはやこの世界に対する叛逆行為であるかのように思えてくるのではなかろうか。

 諸君。


 ノーという返答を今、この世界は求めていない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ねねねっ! 六駆くん! 次の講義、お休みだって!! 何する!? お昼まで何する!?」


 彼氏の腕にぴったりフィットする、小柄な彼女。

 急に休講が決まったのでテンション上がって六駆くんの腕にリコリコホールドもキマっているが、彼氏は動じない。


「ふぅぅぅぅぅん。そうだね! なに食べようか!」



 無詠唱の治癒スキルを無言発現。

 この子たちはエピローグ時空になってからやたらと成長を見せる。



 莉子ちゃんは可愛らしく頬を膨らませる。

 「もぉ!」と頬を赤らめて、彼氏の脇腹を小突く。

 「わたし、そんなに食いしん坊じゃないもんっ」と。


 ほらもう可愛い。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅん。はははっ! ごめんごめん!!」


 無詠唱の治癒スキルを無言発現。

 ただしある程度の「ふぅぅぅぅん」は要する。

 「ふぅぅぅぅん」なしの治癒スキルで即完治するような負傷ならば、唾でも付けときゃ勝手に治る。


 不意に訪れる休講。

 これは意外と手放しで喜べないものだったりする。


 良くないパターンの代表格は、1限講義、2限急な休講、3限講義の形か。

 2限がいきなり休みになったからと言って3限が連座して休んでくれる訳もなし、おまけに間には昼休みも挟まっているので、時間にして3時間弱の空白スポットが出現。


 友達百人できるかなを地で行くパリピ大学生ならば問題はない。

 その辺歩いてるズッ友と「よぉ! あっちで冷えたレモネード飲もうぜ!!」で済む。


 問題はぼっちないし、あたしは友達が少ない系の大学生だった場合。


「にゃー。ひどい風評被害が飛んできたぞなー」


 風評被害というよりはもらい事故である。

 事実から目をそらしてはならぬ。


 3時間弱もいきなり時間が空いたら、手持ちのアイテムを総動員しても消費するのはなかなか辛い。

 読みかけのラノベとスマホでソシャゲ。

 周囲はどこに行ってもざわざわ。だって大学だもの。当たり前である。


 何をしても集中できずに、最終的に「……3限、休むか」と自主休講をキメて、帰りがけにラーメン屋で昼飯済ませてアパートに直帰。

 これが良くない。しかし良くないと分かっていてもやってしまう。


 その点、カップルは最強。


「モグモグモグモグ……。六駆くん、こっちも食べる? モモ!!」

「僕は自分のヤツだけでお腹いっぱいだよ!」


 ほらご覧なさい。

 もう楽しそうで幸せそうで、周囲からはやっかみの視線を集めているに違いない逆神カップル。


 欲を言えばクレープで「わたしの一口食べる? えへへへ。間接キッスだぁ!」とかやって欲しかったが、ガッツリ系の焼き鳥、お値段1本300円だったのでそのイベントは起きなかった。

 だって2限はお昼前である。


 このあと、お昼ごはんを食べるのである。

 彼女の焼き鳥で間接キッスしてたら腹いっぱいになる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 別のパターンを紹介しよう。

 彼氏の講義があって、彼女の講義がないパターンである。


 六駆くんは異常なほど大学生をエンジョイする気構えであり、既に履修済みの40単位に加えて、気になる講義は聴講に行ったりもする。

 するってぇと必然的に莉子ちゃんは付いて行くか、付いて行かないか選択する事になる。


 なにを当然の事を言ってやがると思われるかもしれないが、てめぇが興味ない事にも笑顔で「えへへへへへへへへへへへへへ」とくっ付いて行ける彼女は稀有。

 諸君。ゲームセンターでもパチンコ屋でも、書店でもアニメイトでも良い。

 空きスペースで暇そうにスマホいじってる女の子を見かけた時、思い出して欲しい。



 それ、彼氏待ち中である。



 ならば逆神カップルはと言えば。

 ご存じの通り、常道を往かぬが逆神流。


「次も僕、講義なんだけど。莉子はどうする? 先に帰っててもいいよ?」

「んーん! 時間潰して待ってるね! 一緒に帰りたいもん!!」


「そう? じゃあ僕、猫学Ⅰに行って来るね!!」

「はーい!! 頑張ってね!!」


 莉子ちゃんは待ちに出る。

 街には出ない。大学の構内で待つスタイル。

 ここまでは割とよく見かける彼氏と彼女だが、莉子ちゃんは正義の心と清廉潔白な精神を兼ね備えた優等生。


「よぉし!! この時間だと学食が空いてるから! わたしもお勉強して待とうっと!!」



 諸君。

 「結局モグモグしてんじゃねぇか」はまだ早い。



 学食に移動した莉子ちゃんはカフェオレを注文して端っこの席に座ると、鞄からいくつかの本を取り出す。

 本のページを捲り、カフェオレをチュッチュ。失礼、ゴクリ。


「ふぁぁー。こんなのがあるんだぁ! 勉強になるっ!!」


 その本では古今東西、ありとあらゆる流派が特集されていた。

 古式で過去に倣うもよし。最新式で時代の先端に立つもよし。

 莉子ちゃんは勤勉家の彼氏に影響されて、優等生の称号を取り戻そうとしていた。


 何を読んでいるのだろうか。

 やはり月刊探索員か。

 それとも日本史か世界史か、はたまた心理学の書物を時代別に読み比べているのかもしれない。


 パタンと読み終えた本を閉じて、「ふぃー」と息をつく莉子ちゃん。

 感想をどうぞ。


「やっぱり専門書って参考になるっ!! さすがだよぉ! 【『〈〉』】!!」


 そう言えば「この戦いが終わったら僕、結婚式するよ」問題をまだ解決していなかった逆神六駆。

 忘れているはずもなく、着々と距離を縮めていた小坂莉子。


 その件は進捗がお伝えできるようになり次第ご報告する旨を了承されたし。


「んー!!」


 背伸びをする莉子ちゃん。

 これはいけない。軟派な野郎がどこで見ているか分からない。

 女の子の無防備な背伸びとか、欲に飢えた野郎の大好物。



「もうちょっと時間あるし……! すみません! カツ丼ください! あとあと、豚汁もくーださい!! お野菜抜き、豚マシマシで!!」


 結局モグモグしてるじゃねぇか。



 それから40分ほど経って、お迎えがやって来た。

 充実した時間を過ごして満足気な彼ぴっぴ。


「ごめんね! 莉子! 待たせちゃった! お詫びにね、帰る前にクレープでも食べて行こうか! あっ。もしかして、僕を待ってる間に何か食べた!? だったらヤメてお」

「んーん!! 食べてないでしゅ!! お腹い空いたなって思ってたとこ!!」


 六駆くんの左腕にピッタリくっ付いてガッツリホールドする莉子ちゃん。

 どこからどう見ても仲睦まじい、リア充爆発しろ案件。


 それから大学通りを2人で歩いてクレープ食べて、魔王城に帰ってから晩ごはん食べて、眠くなるまで六駆くんと一緒にDVD鑑賞をしながらスナック菓子を食べて、莉子ちゃんのデキた彼女として過ごした1日は終わるのであった。


 おやすみなさい。

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