第1370話 【エピローグオブダズモンガーくん・その2】忘れられがちだけど治安維持も仕事なトラさん

 ミンスティラリアには神獣と呼ばれるモンスターがいる。

 正確には、


 莉子ちゃんがまだ正統派メインヒロインだった頃の話である。



 諸君。

 まるで今の莉子ちゃんが正統派メインヒロインでないような物言いは良くない。



 とにもかくにも、在りし日の莉子ちゃん。

 デカい魚のレスジャレオン、その鱗が必要になったので、六駆くんとダズモンガーくんと3人で討伐に出かけて「頑張れー。頑張れ、頑張れ。できるできるー」とまだ莉子ちゃんに対して愛情はあったかもしれないが、それが服従とか従属とか依存とかそういう類ではなかった頃の六駆くんによって乙女が無理やりタイマンさせられた。


 レスジャレオンは強かった。

 当時の莉子ちゃんだって『太刀風たちかぜ』『旋風破せんぷうは』『風神盾エアラシルド』など、六駆くんから逆神流の基礎スキルは叩き込まれていた。

 にもかかわらず、『苺光閃いちごこうせん』を繰り出さなければ勝てなかった。


 デカい魚は強い。


 煌気オーラ総量お化けの莉子ちゃんが力加減をせずに放った『苺光閃いちごこうせん』で瞬殺したものの、ちゃんと死体は残っていたし、鱗も回収できた。

 当たり所が良かったのかもしれないし、莉子ちゃんが初めてだったので当て方が悪かったのかもしれない。


 それでも『苺光閃いちごこうせん』を喰らってちゃんと死体になれる。

 これはもう、ちゃんと強い。間違いなく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな莉子ちゃんの部屋にルームサービスがやって来た。


「失礼いたしまする!! 莉子殿!!」

「私がこってり系照り焼きを作って参りました!!」


 ダズモンガーくんとバッツくん。

 海老で鯛を、いやさ照り焼きで莉子氏が釣れたら良いなとやって来た。


「ふぁっ!? 照り焼きですか!? バッツさんの!! いただきまふ!!」

「今ねー。莉子と一緒にリングフィットアドベンチャーやってるんですよ。そうしたらね! 莉子ってば7分も頑張ったんです! これはもうご褒美にオヤツあげなくちゃですよ! うふふふふふふふふ!!」


「はむはむはむはむ……。美味しいっ!!」

「それ食べたらもう1面やろうね!!」


 仲睦まじい様子の逆神カップルを見たトラと照り焼き係。

 どちらともなく「行きますかな」と部屋を出た。


 モグモグ莉子ちゃんを連れだせばレスジャレオンだかババコンガだかドドブランゴだろうが何であろうとも、瞬殺できるだろう。

 ただ、これは想像の範疇から出ない例え話なので恐縮なのだが、ダズ&バッツにも同様のイメージが脳内に雨後の筍かと見紛う勢いでニョキニョキ生えて来たという。



 莉子ちゃんに頼むとミンスティラリアの生態系が致命的な壊れ方をしそう。

 だったらデカい魚は自分たちで苦労して処理しよう。



 ちょっとだけへにょっと垂れ下がったダズモンガーくんの尻尾。

 そこに小さな手が伸びて来た。


「みみっ。お話は聞かせてもらったです。みっ。夏毛のサラサラした尻尾も結構いいです。みみみみっ」


 芽衣ちゃんがいた。

 その後ろには大勢いた。


「おーっほほほほ!! 皆様!! 芽衣殿下の御出立です!! さあ! わたくしたちが代わりに殺しますよ!!」

「ああァ! 我ら皇帝陛下の臣であるがァ! ゆえェ!! 当地の平和を維持するはァ!! バルリテロリから離れた今でもォ! あ゛あ゛腰がァ!! 我らの使命でございあ゛あ゛ァ!!」


 バルリテロリ捕虜チーム。

 杓文字で撲殺なら任せとけ。斬殺もできるぞ。シャモジ母さん。

 もうただのおじいちゃん。平和を愛する逆神十四男。


「オレで役に立てますかね?」

「私を見て言わないでください」


 もう何が出来たのか忘れた。とりあえず仁香さんにボコられた。東野カサゴ。

 ピンク色の恐竜っぽい介護職。ガンコさん。


「なんと!! 皆様がミンスティラリアに手を貸してくださいまするか!?」

「やりましたね! ダズモンガーさん!! これなら勝てますよ!! もう勝ったみたいなものです!! 風呂上りの照り焼きを仕込んでおきましょう!!」


 芽衣殿下を崇め奉る神聖バルリテロリ帝国の臣たち。

 ちなみに芽衣殿下が認めていないので非公式ファンクラブみたいなものである。


 では、現場に急ごう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 レスジャレオンが襲っていると報告を受けた村に向かったところ、もう村はなかった。

 そしてデカい魚が結構な数、空を飛んでいた。


「助けてくださぁぁぁい!! 助けてくださぁぁぁぁぁい!!」

「おーっほほほほほ!! カサゴさん!! 『世界の中心で愛を叫ぶ』のクライマックスを一人二役で演じるとは、やりますね!! 殺しませんよ!!」


 もうカサゴが喰われかけていた。魚と魚の共食いかな。


 基本的に序盤で出て来たモンスターが復活して来たところで物の数にならぬのが常識なのだが、この世界、リサイクルは数少ない得意技。

 なにせリコスパイダーを擦り散らかしてピースとの最終局面でも投入したほど。

 つまり、初期の強敵はエピローグ時空でもちゃんと強敵。


「あ゛あ゛ァ!! ふぁふふぁんふぁいふぁぁふぁんふぁんふぁん!!」

「十四男様! 入れ歯が飛んで行きました!! 少しお待ちください! すぐに種を植えます! ミンスティラリアの土地は良く肥えているので上物が育ちますね!!」


 ガチったらかなり強いはずの十四男は入れ歯がすっ飛んで行った。

 ガンコさんは栽培マンみたいな感じで十四男の入れ歯を育てるのが忙しい。


「ぐーっははははは!! 吾輩に任せて頂きまするかな!! 『猛虎奮迅ダズクラッシュ』!!」

「キュリィィィィ!?」


 ダズモンガーくんが眼前にいたレスジャレオンをとりあえず1匹ほどぶっ飛ばした。

 この場にレスジャレオンは10体ほどいる。

 群れというからにはそのくらいいて貰わないと困る。


「ダズモンガーさん!! 危ない!! くっ! 久しぶりに使うしかないか!! ボンバァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 出たぞ、木原さんの色違いスキル。

 『ダイナマイト』は足から出して空飛んだり、両手から放出してビームにしたりと実は汎用性に優れているが、バッツくんの『ボンバー』は移動しながらのタックル。

 ダズモンガーくんの『猛虎奮迅ダズクラッシュ』と効果が丸被りしている。


「ぐあああああああああああああああああああああああ!!」

「ぼ、ボンバァァァァァァァァァァァァァァ……ァァ……」



 みんながデカい魚にやられていく。



「みみみみみみぃ!! シャモジおば様!! そっちの4匹お願いです! みぃぃぃ!!」

「かしこまりました!! 芽衣様!! 御許しを得て! 殺しますよ!!」


「みみみみみみみみみみっ! 『分体身アバタミオル』!! 『多重発破紅蓮拳デュアルダイナマイトレッド二重ダブル』です!!」

「おーっほほほほほほ!! なます切りにいたしますよ!!」


 レスジャレオンの群れが、デカい魚の死骸の山に変わった。

 最終決戦の時点で5ナグモくらいの強さだった芽衣ちゃんと、辻堂さん相手に切り結んで割と元気だったシャモジ母さん。


 この2人は初期の強敵どころか終盤の強敵を相手にして無双していた。

 ならば神獣だろうが珍獣だろうが、やっぱり物の数ではない。


「みっ!! やったです!!」

「さあ、皆さん!! 勝どきをあげるのですよ!! カサゴさん!! 何を死んでいるのですか!! 殺しますよ!!」


 デカい魚の牙でガッツリ喰われたダズモンガーくんがもう元気になってから少し思案して言った。


「このレスジャレオン。ここに放置しておくと衛生的に問題がありまするな。持って帰って料理するのがよろしいかと思いまするが!! 皆様、お腹は空いてござまするか!?」


 トラさんのアップリケが付いているエプロンを身に纏いしダズモンガーくん。

 彼にはその姿が一番似合う。


 次回。

 ミンスティラリアに新たな食の革命が起きるか。

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