第1358話 【エピローグオブ逆神大吾】多分、最も哀しいエピローグ
パチンカスの朝は早い。
国道沿いにあるパチンコ屋。
開店は朝9時だが、入場順を決める抽選は朝7時55分に行われるため、呉から脱出して追っ手のばあちゃんたちを撒く時間を加味すると6時には起きておかないといけない。
これは逆神大吾の物語。
◆◇◆◇◆◇◆◇
朝6時にスマホのアラームが鳴る。
アラーム音は当然だが、パチンコの当たった時に流れるファンファーレ。
大吾は基本的にパチンカスだが、スロッカスにもなれるハイブリッドタイプ。
日によってはパチスロのファンファーレに変える事で絶えず起き抜けの脳内にてアドレナリンを分泌する事が可能となるらしい。
その日もアラーム音が鳴る。
流れる。アドレナリン。
「おらっしゃぁぁぁぁぁぁい!!」
勢いよくスマホを掴んだその手は今日こそ栄光も掴めるか。
口癖は「パチ屋で負けたんじゃない。明日の勝ち分を先に預けただけ」でお馴染み、呉では愛され系やんちゃ坊主。
逆神大吾の朝が来た。
「よお! 孫六! おめぇ囮しろよ!!」
「
逆神家は1か所に集められている。
大吾は呉の公民館の1室にて目が覚めると、自分の息子よりちょっと年上の親戚に声をかけて無茶を言う。
無茶を言われた孫六だが、彼は命の大切さをとっくに学んでいる。
だが、大吾の相手を真面目にやっても無為だという事も理解している。
ゆえに押す。
『脱走者通報スイッチ』を。
ビービービーとけたたましく鳴り始めるサイレン。
これは「大吾が逃げますよ」という専用の演出なのだが、それを理解していない捕獲対象者は「いい仕事するじゃねぇか! 孫六!! 勝ったら端玉で貰えるチーカマ持って帰ってやるぜ!! へへっ!!」と、自分には関係のない警報が鳴っていると勘違い。
「チョベリバなんだけどー」
「
逆神五十鈴が「朝からうるせぇ」と文句を言って「文句言える立場じゃねぇんだよ。オレたちは」と応じる孫六。
2人はそのまま起床時間まで二度寝を楽しむ。
「おぎゃああああああああああああああああああああああああああ!! デカい犬がいる日だったかぁぁぁぁぁぁ!!」
「こちらポッサム。よし恵閣下。逆神大吾を捕捉。噛み殺しますか?」
目覚まし代わりに賢い狂ドーベルマン。ポッサムに追いかけられる。
この間に近くの
これで準備は完了。
「おらっしゃあああああああっしゃあああ!! 『
「グルァァァァァ!? 目がァァァァァァ!!」
六駆くんの究極スキルと名前被りしている罪深き大吾のスキル。
今日は太陽拳スタイルで追っ手を撒く。
この男、意外とスキルは多彩である。
転移スキルの中でも随一の出番と使い勝手の良さを誇る『
五楼時代の京華さんはうっかり
自身が楽するためのスキルは特に光るものがあり、直接攻撃系スキルよりも嫌がらせ系スキルの方を3倍くらい多く習得している。
目つぶし、ヌメヌメした液体を発射、ドロドロした粘液を発現等々。
全ては自分のため。自分が全て。
どこかで歯車がちょっとだれけ噛み合う形を変えれば、「一は全、全は一」という不可分の領域、錬金術師における最奥にたどり着けたかもしれないのに、たどり着いたのは見慣れた自動ドア。
「ちっくしょー!! 抽選に間に合わんかったぁぁぁ!! ……この不運。フィーバーの予兆だな!! へへへへっ!!」
逆神大吾、本日は開店直後の9時5分に入店。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃の呉の公民館。
『皆さんおはようございますぅ。むっちゃええ朝ですよって。本日も元気に健やかに、楽しゅうご活躍ください。それでは、本日のおばちゃんのナンバーは『切手のないおくりもの』ですよって。各自、体操お願いいたしますぅ』
ペヒペヒエスの放送によってばあちゃんたちが一斉に組手を始める。
そう。
これは『
おわかりいただけただろうか。
「みんなちぃと腕が落ちたんじゃなかろうかいね!! あたしゃこんな軟弱な人らに囲まれちょったんかね!! やれるやれる!! さあさ! 限界なんて毎日越えんで、どねぇするんかね!!」
みつ子ばあちゃんがいた。
たまに里帰りするみつ子ばあちゃんが。今朝は呉の公民館にいた。
そこにやって来るポッサムに乗ったペヒペヒエス。
在りし日はこのスタイルが玉ねぎばあちゃんの戦型だったのに、今となっては何もかもが懐かしい。
「みつ子様ぁぁぁ!! すんまっせん!! おばちゃんの管理不行き届きですぅ! 大吾の坊ちゃんが逃げはりましたぁ!!」
「あらぁー! ごめんねぇ、玉ねぎさん!! うちの大吾がいっつも迷惑かけてねぇ!! 気に病まんでええからねぇ!!」
口調は変わらず穏やかで朗らか。
だが、ペヒペヒエスもひとかどのスキル使い。
「あああああああ!! すんまっせん!! すんまっせぇぇぇぇん!!」
その
ポッサムが伏せをしてくれていなければ、枯れていただろう。
「よし恵さん!! 大吾のよく行くパチンコ屋さんはどこって言いよったかいねぇ!!」
「……ふっ。……やるんかね」
「大吾も今年で48じゃもん! お小遣いの範疇なら何しても構わんいね!! ただねぇ!! ふふふふっ! ただねぇ……!!!」
「……いけんね。……みんな。……公民館の中に入りぃさん。……死ぬよ」
みつ子ばあちゃんの中に餓狼が見えたと朝ごはんを食べながらよし恵さんは語った。
理由はシンプル。
「あたしの財布から抜いちょるねぇ。3万円。哀しいねぇ。あと2年で50歳になる子のやる事が、こねぇな事かね……。さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
親の財布から金を抜く。
呉では死罪とされている、忌むべき蛮行。
それからはあっという間だった。
お忘れの方のためのみつ子ばあちゃん。
こちらのお嬢様も『
そして大吾には常に『
目で追えない超スピードの『
終わりの時へ、全力疾走。
◆◇◆◇◆◇◆◇
パチンコ屋で遊戯中、いきなり体に門の生えた男がそこにはいた。
他のお客様にとっては大迷惑。
「お、おぎゃああああああああああああ!! 母ちゃん!! お母さん!! ママぁ!! 違うだって!! これは借りただけでさぁ! 後で返そうと思ってたの!! あれだぜ!? もちろん! 31000円にして返すつもりだったんだって!! なぁ! ちょっ、待ってよ!! 今から当たるんだって!! せめて金なくなってからにしてくれよ!! なぁぁぁ!!」
そこで大吾の記憶は途切れている。
気付けば目の前にはものすごく顔をしかめた息子がいた。
自身の周囲には
どうやら『
逆神大吾。死す。
多分だが、ちゃんと死んだ。
そして生き返らされた。
馬鹿は死ななきゃ治らないともされる、
どうしようもねぇ人材と相対する時、そらもう本人を責めたらダメやでという教訓を得るに至る。
みつ子ばあちゃんが。
毎日は続く。
明日からも。似たようなヤツが。終わる時までずっと。
これが逆神大吾の物語。
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