第1354話 【エピローグオブあっくん・その1】嫁が甘いエピローグをキメたので、旦那は辛酸をなめる ~結婚式編は来なかった~

 阿久津浄汰特務探索員。

 かつては章ボスとして悪行の限りを尽くしたが六駆くんにぶち殺された第一号になった結果、再登場から怒涛の「悪い事やったら後が大変」という、一説には因果応報とも呼ばれる事象に巻き込まれる。


 そしてそのまま、ほとんど1年以上の期間を因果応報の中で生きて来た。

 当初は五楼上級監察官室の預かりだったのに南雲さんと結婚してデキちゃった京華さんが産休に入ったので所属が一時期宙ぶらりんに。

 どうにか久坂さんが「うちの息子じゃからのぉ。うちで引き取ってええじゃろ」と自身の監察官室に籍を移したが、そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇと連呼するが如き「特務探索員って監察官以上の階級だったら誰でも使えるんだよ」と他方から見れば探索員協会も割と悪魔的なシステムを繰り出して、和泉さんと太平洋を横断させられたり、権限の上限がないのを良い事に戦争の事後処理や本部復興の指揮まで執らされた。


 こんなに頑張ったのだ。

 あっくんはもう許された。


 サービスさんなんか反省も改心もしていないのに悠々自適なチュッチュしているのだから、もう許されても良い。


 その結果訪れた、やっとこさ訪れた、塚地小鳩お姉さんとのランデブー。

 しかし、それは小鳩さん回という括りで消化された。


 おわかりいただけただろうか。



「うふふふふふふふ!! 特務探索員だけで出張任務って結構楽しいですね! うふふふふふふふふふ!!」

「瑠香にゃんは異議を唱えます。ステータス『この特務探索員とかいうヤツ、呪いのアイテム説』を付与されました」


 甘い甘い、小鳩さんとの新婚生活とか、そういうのはなかった。



 今回、日本本部にいる3名の特務探索員。

 逆神六駆。

 跡見瑠香にゃん。

 そして阿久津浄汰。


 3名でよその異世界へと出張任務。

 いざとなったら責任を遠投でどこまでも投げ飛ばせるのが特務探索員の良いところ。


「ちっ。よりにもよって……ここが現場だぁ? 冗談きついぜ」

「まったく、運命というものは無常ですな」


 眼前には敬礼するキャンポム少佐。

 ここは異世界ルベルバック。


 ルベルバックといえば、あっくんが皇帝ポヨポヨを傀儡にして君主独裁制のほとんどをぶち壊したゆかりのある土地。

 そこに「ごめんね。阿久津くん。行ってくれる? この2人連れてさ。本部の子を出したらすっごい角が立つの」と、これまたそのルベルバック戦争でぶち殺そうとした南雲上級監察官に依頼されたらば、こうなった。


「まずは御足労に感謝いたします。既にお伝えしている通りです。リコタンク・マークⅢが暴走しました。人工知能を搭載させた自律型兵器だったのですが、現在、旧帝都ムスタインに向かって高速で移動中。我々の手に負えません」

「ちっ。あんたにはよぉ。俺ぁ何も言えねぇ立場だからよぉ。……おぃ、瑠香にゃん」


「ステータス『あっくんマスターに瑠香にゃんって呼ばれると、そんな仲良かった? ってなる』を獲得しました。なんでしょうか」

「これはおめぇに言ってんだ。そこんとこ違えねぇでくれよなぁ」


「瑠香にゃん、オーダーを把握しました。アプリケーション『王様の耳はロバの耳』を起動します。どうぞ。あっくんマスター」

「……おぃ。そりゃ井戸に秘密ぶちまけたら国中の井戸通じてえらい事になる話だろうがよぉ。……ちっ。信じるぜぇ? 瑠香にゃんよぉ。……そのリコタンク・マークⅢだがよぉ。ぜってぇ中身に荒ぶってた頃の小坂の思考使ったろぃ」



「えっ!? だから僕が呼ばれたんですか!? じゃあすみませんでした!!」

「えっ。いえ。それを申されますと、我々が勝手に小坂殿の残留思念を軍事転用しましたので。道徳的なアレがナニしておりますし、では申し訳ありませんでした」


 王様の耳はロバの耳が発動した。

 ここでは「噂話なんかしようもんなら、もうその瞬間にどっかから広がっとるで」という寓話として取り扱う事とする。



「あぁ。全部分かった。俺ぁこの国にはよぉ。どんな無理難題吹っ掛けられてもそいつを叶える義務があるんだよなぁ」


 あっくん。

 エピローグ時空でまで任務くろうさせられる事が決定。


 お供は2人。


「えっ!? あっくんさん、ちょっと引きずり過ぎじゃないですか!? もう充分でしょ、義理果たしてますよ!! 僕なんかミンスティラリアの人族をほとんど殺しかけた過去があるのに、今は普通にあそこの異世界で人族見かけても手を振って挨拶してますよ!! あれから2年経ってないのに! うふふふ!!」

「てめぇのアホメンタルと一緒にするんじゃねぇ」


「ステータス『おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました』をあっくんマスターにお勧めします。瑠香にゃん、元は大量殺戮を目的とされたアトミルカ製のアンドロイドです。今は猫やってます。にゃーです」

「……おぃ。もうおめぇらは帰れ。俺の評価が相対的に上がっちまうだろぃ」


 リコタンク・マークⅢの爆破任務がスタートした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんは『竜翼ドラグライダー』で、瑠香にゃんは『瑠香にゃんウイング』で、あっくんは『結晶外殻シルヴィスミガリア』でルベルバックの空を飛ぶ。

 いつからスキル使いは空飛ぶのが普通になったのか。


「うわぁ! 懐かしいなぁ!! あっくんさんを殺そうとしてた時にも空から飛び込みましたよね!! 帝都!! 帝都……なんとか!! ねっ!! ミンスティラリアから飛竜借りて来て!! よく考えたらあれ、僕が単騎で飛び込んでたら一瞬で終わってましたね! うふふふふふふふふふふふ!!」

「…………よぉ。瑠香にゃん」


 六駆くんの「隠居したからもう何言っても良い」というメタ攻撃を回避して、あっくんは反対側でマジンガーZの背中に生えてる翼そっくりのウイングで飛んでる瑠香にゃんに声をかけた。


「訂正を求めます。マジンガーZの背中のヤツは『ジェットスクランダー』です。あれは生えているのではなく、外付けの兵装です」

「あぁ。そうかよ。……で? 小坂戦車リコタンクの索敵結果を教えろぃ。一般人に被害が出ちまったらやり切れねぇだろぃ」


 瑠香にゃんが先にグランドマスターを見た。

 あっくんは察した。


 「あぁ。もうやっちまってんなぁ?」と。


「グランドマスター。プリンセスマスタータンクが乳牛牧場に照準を合わせて、今まさに砲撃を開始しようとしています。ステータス『あれは乳と和解する前のメインヒロイン』を獲得。瑠香にゃんのおっぱいに格納すると爆発するかもしれないので、あっくんマスターにあげます」

「あぁ。ありがとよ。俺ぁ先に行くぜぇ。罪もねぇ乳牛と酪農家が殺されちゃ敵わねぇ。ただでさえこの国の人口は俺が減らしちまっ」



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『大竜砲ドラグーン』!!」

「逆神ぃ。ルベルバックでは我慢しようと思ってたけどよぉ? ……ぶち殺すぞ、てめぇ。人口減らす気しかねぇだろうが、よぉ!!」


 このスリーマンセルは任務完遂の前にあっくんをストレスで殺すかもしれん。



 六駆くんの放った割と本気の『大竜砲ドラグーン』を普通に弾いたリコタンク・マークⅢを見てから、「小鳩と五十五と組んで戦ったバルリテロリ戦争はよぉ……。ありゃあ、楽しかったなぁ……」とちょっと現実から逃避しそうになったあっくん。

 瑠香にゃんの「目標、攻撃対象をこちらに変更した事をお知らせします。瑠香にゃんは『瑠香にゃんシールド』を展開します。ステータス『悪いな。このシールド、1人用なんだ』を獲得。おっぱいに格納します」という無機質な声で現実に襟首掴まれていることを悟る。


 諸君にはあくまでも「在りし日の莉子ちゃんの意思おっぱい絶対殺すを兵器転用したルベルバックの軍事力が悪い」ということを、ゆめゆめお忘れなきよう願いたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る