第1342話 【エピローグオブミンガイルさんち・その1】ふっ。来たか……。 ~死ぬ準備だけはいつでも出来てる~

 ミンスティラリアには元アトミルカのメンバーの家が並ぶ、アトミルカ団地がある。

 これは魔王ファニコラ様によるご配慮。


 バニング・ミンガイル、アリナ・クロイツェル、ザール・スプリング、バッツ・ホワン・ロイの4名が移住してきた際、何をさておき「知っている者が傍にいると知らない土地でも心強いのじゃ」と仰せになられた。

 ちなみにファニちゃんはだいたい120歳だが、知らない土地に引っ越した経験はないので、全てが想像によるもの。


 なんとお優しい想像力か。

 どこぞの皇帝陛下は「ぶーっはははは!! 今日こそ四郎の気ぃ引くために、違う女を抱くんや!!」とか仰せになっておられるのに。

 そしてこの両指導者、実はそんなに年齢が変わらない。


 季節は7月。

 つまり、最終決戦から半年。

 バニングさんは最終決戦の前、昨年のクリスマスにガッツリ致している。


 来たか。

 ご懐妊。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンガイルさんちの扉を叩く、元気な乙女。

 ミンガイル家には呼び鈴がない。

 「ふっ。これまでヴァルガラではインターフォンなどない生活だったからな。いきなり鳴ると、私もアリナ様もビクッとなる」との理由で、お隣さんのスプリング家には普通にテレビモニター付きのドアホンが設置されている。


「ああ。リャンか。おはよう」

「おはようございます! バニング様!!」


「そのバニング様というのはよしてくれないか。私はお前にとって敵であった時期こそあれど、敬われる所以はない」

「了! すみません! ついザールさんの呼び方の真似をしてしまいます!」


「ふっ。仲が良いのは結構。それで、どうした?」

「はい! ザールさんは本日、日本本部にてマスクド・タイガー2世のお仕事がありますので! 私が代わりにお届けにあがりました!! 腰用のサポーターです!! あと、ユンケルです!!」



「ふっ。……この世界め。私はいつ殺されるのかと怯えていたが。まずは羞恥心から殺しにかかって来たか。弟子の妻から恥ずかしいサポートをされる。死にたくなるな」


 ミンガイルさんち、デキてない事が判明。



 リャンちゃんが「では、失礼します!!」と元気よく敬礼して去って行った。

 バニングさんは彼女が隣の家の中に入るまで見送ってから、自身も自宅に入る。


「来客はリャンであったか。して、何用か? 妾も顔を出せば良かったのだが」

「いえ、アリナ様。ザールの代わりに差し入れを頂戴した次第です。どうぞ、そのまま。お体に障りますゆえ」


 ミンガイル家は現在、アリナさんの調子が芳しくない。

 身重ではなく、負傷中。


 ここで少しばかり語っておかなければならないだろう。

 夜の営み中、その際における怪我のリスクについて。



 この世界は別に営むの夜に限った事じゃねぇだろ、などと無粋なツッコミはご容赦願いたい。

 ツッコミ損なって怪我している人がいるのだ。



 ご存じだろうか。

 とあるアンケートによると、男性よりも女性の方が致している際に怪我のリスクは高いという結果が出ている事を。


 そして最も多いのは打撲。

 理由については各々が調べて欲しい。


 ここで語ると、この世界が終ろうとしているのにも関わらず強制終了する可能性が出て来る。


 そこで本題に戻ろう。

 アリナ・クロイツェルさん、式を挙げていなければ婚姻届を提出した訳でもないので旧姓で呼ばせて頂く。

 彼女は長き時を生きており、この世界は割とみんな長寿だがその中でも「定期的に転生して、その都度記憶も消えていたのでガチのマジで年齢不詳」という、長寿番付でも横綱の可能性がある乙女。


 だがしかし、今は外見年齢20歳の女子大生な見た目。

 人の営みは魂が基準になるのか、それとも肉体が基準になるのか。

 我々は魂と肉体の乖離を経験する機会のない生き方をしているので知る由もないが、アリナさんの場合は肉体が勝ったらしい。


 失礼。



 人の営みとは、致す時のモチベーションの話である。



 62歳の旦那に日夜迫る生活を続けて、わがままワイフとして日夜性活を続けた結果。


「くっ……。なんと情けないことか……。妾とした事が……!!」

「アリナ様!! 急に身を起こされますと、腰に障ります!!」


 アリナさん、腰をやる。

 この世界では山根くんが腰やっちまったメンバーとして長らく擦られていたものの、乙女チームで腰やっちまったのはアリナさんが初めて。


 今年に入って3度目。

 腰痛は拗らせると癖になるというが、もしかするとちょっと癖になっているかもしれない。


 そんなミンガイルさんちからお送りします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「しかし! しかしだ、バニング!! 妾は!! いけない事なのか!? 愛する男と身を重ねたいと考える事は!! それが喩え! 現世の医者に3週間は安静にせよと言いつけられた約束を破ったとて!! それはいけない事か!! 愛が勝つのだ!! 最後どころか最初に!! 医者との約束よりも先に愛が勝った!! その結果だ!!」


 アリナさんが全面自供してくださった。


 こちらのわがままワイフ、「3週間は何もしないでくださいね。いいですか。絶対ですよ。落ち着いて聞いてください。クロイツェルさん。あなたにね、もうこのお話させて頂くのね、私、3回目なんですよ?」とお医者さんにクッソ怒られている。

 病院は山根家のワイフ、春香さんが紹介してくれた。

 付き添いはどら猫が「クララ。頼みがある。いや、違うな。その前に、か。ここにチーズとワインがある。上物だ。どうか、アリナ様を頼む」とバニングさんに乞われて出動。


 どら猫を付き添わせたから忠告がちゃんと機能していないのではと思いそうにもなるが「にゃー。それはさすがに冤罪だぞなー」と抗議の声も聞こえて来そうな情勢。

 アリナさんは別に日本語が通じない訳ではなく、多国籍、多異世界の出て来る世界観にありがちな「なんか知らんけどみんなだいたい日本語は使える」がこの世界でも機能しているため、「あいすまぬ。先生。肝に銘じよう」とハッキリお返事したのはクロイツェル氏。


 そして帰宅して、夕方になって夜になり、なんかテンション上がって来て言う。



「バニング!! お医者様より薬を頂いたから……今宵はイケる気がする!!」

「おヤメください!! アリナ様!! ああーっ」


 おヤメくださらなかった結果、腰やっちまってもう3ヵ月。

 ミンガイルさんちは色々と停滞していた。



 キッチンに立つのはバニングさん。

 氏も長きにわたるテロ組織首謀者と侵略者生活によって自活はできる。


「ふっ……。私のせいなのかもしれん。私はすぐに殺されそうになる。それが、アリナ様にまで牙を剥いたのだ……。玉ねぎというものは良い。涙を流す理由をくれる……」


 先に結論から申し上げると「自制心」と「抑止力」が妻と旦那に欠如しているからこういう事になった。

 だが、ミンガイル夫婦にも言い分はある。


 ちょっとだけ聞いてあげよう。


「ほう。見ろ、バニング。ザールが帰って来たぞ。ふふっ。さすがは新婚。ドアを開けた途端にリャンが熱烈な抱擁を……。くっ……。鎮まれ、妾の劣情……!!」

「本当にお鎮めください!! アリナ様!! くっ! ザールには特に夜、散々たる迷惑をかけて来たがゆえ……!! 言えん! イチャイチャするな、などと……どの口が……!!」


 隣の新婚さんがアツアツで見てたらなんかムラムラしてくる。


 これは夫婦の年齢を足したらば間違いなくこの世界で最長老になる、ミンガイルさんちの戦いの記録である。

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