第1332話 【エピローグオブピュグリバー・その1】それからのピュグリバー

 ここは異世界ピュグリバー。

 季節は7月。


 ピュグリバー王室の朝は遅い。

 だいたい9時過ぎにのそのそと起き上がる国王。

 サマータイム制を導入している真夏の外資系企業よりも遅い。


「あららー。エヴァちゃんがもういないねー」


 国王の日課は同じベッドで寝ているはずの桃色お姫様がいないので、行方を探すところから始まる。

 8割超の確率で中庭にてスキル使いの修業をしながら汗を流している場合が多い王妃になったエヴァンジェリン姫。


「やぁ! たぁ!! たぁぁ!!」

「皆さん!! エヴァンジェリン様が頑張っておいでです!! 私たちも続きますよ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!! さあ、煌気オーラを拳に込めて!! ハッ! ハッ! ハッ!! 過再生を重ねて!! ハッ! ハッ! ハッ!!」


 協調性のあるお国柄のピュグリバー。

 ちょっと前までは国のトップをしてくれていたエヴァちゃんが朝から頑張っているのを見つけると、バーバラおばあ様をはじめとしたスキル使いの乙女たちだって一緒に爽やかな汗を流したくなるのが人情。


 ほんの1年前までは死にかけていたバーバラおばあ様が、今では呉のばあちゃんズみたいになったのも雨宮順平おじさんのおかげなのである。

 あと、ピュグリバーにとって最寄りの国家が呉なのも大きい。


 ピュグリバーにはもう『呉玉ねぎブラッドオニオン』が自生しているし、数日に1度は呉のお嬢様が「あらぁ! ハイカラなところじゃねぇ!!」と観光に来るのでもう同盟国みたいなもの。

 お忘れの方のために『呉玉ねぎブラッドオニオン』について解説しておくと、一口食べれば力なき者は絶命し、資格のある者はさらなる力を得られるとされる、呉の植物である。


 呉と玉ねぎを掛けるとペヒペヒエスが出て来そうになるが、ペヒやんを食料に改良した訳ではないので注意が必要である。

 あっちの玉ねぎばあちゃんはもう名誉呉玉ねぎとして国籍を得るまでに白くなった。

 その話も時が来ればまた、語ることになるだろう。


「あららー。朝から元気なんだからー。おじさんには真似できないねー」

「順平様!! おはようございます!! エヴァンジェリンの銃捌き、見ていてくださいましたか!?」


「見てたよー。見てたけどねー。おじさん、銃なんか使ったことほとんどないのよねー。じゃあどうしてエヴァちゃんにあげたのかって話になるんだけどねー。あらららー」

「私はもう少し訓練します!! 早く順平様と並んでも恥ずかしくないエヴァンジェリンになって見せますね!! たぁ!! やっ!!」


「あららー。もうおじさんの方が恥ずかしいくらいにひた向きだよー」

「あ! 来週、莉子様をお招きする事にしたのでした!! ご一緒に訓練させて頂こうかと!! たぁ! はっ!!」


 エヴァちゃんは莉子ちゃんと仲良し。

 よく一緒にイオンに行っている。

 訓練の時に着用しているジャージもイオンで買ったものだが、数週間でジッパーが上がらなくなるという。


「あらららー。おじさん、その時は日本本部に顔を出しておこうかしらねー」

「ダメです! 順平様と私と莉子様と六駆様、一緒にダブルデートするのです!!」


「あららー。逆神くんも来るんだねー。じゃあおじさん、ちゃんとここにいるよー。防波堤があるなら平気だったねー」


 中庭にやって来たのは雨宮近衛兵のお姉さん。

 ピュグリバーには侍女がエヴァちゃんの身の回りのお世話をしていた歴史があるものの、知らない間に近衛兵団が結成されており、雨宮さんの近習もいる。


 名前はリィラちゃん。

 雨宮さんが配ったイドクロア製のTシャツ装備を着用すると胸部を境にカーテンができるくらいにはたわわな女性。25歳。タイプは女騎士である。


「順平様。よろしいでしょうか」

「だめよーだめだめ。そんな畏まらないでってもう1000回はお願いしてるのにー。リィラちゃんも一緒に訓練するのー?」


「いえ。おっぱい男爵、川端卿がおいでです」

「あららー。川端さんねー。また来たのー? 一昨日来たばっかりじやないのー」


 この時空ではもう川端さんはフランス国籍をゲットしており、ブラジャー泥棒のスキル窃盗団を逮捕した直後である。

 セーヌ川を煌気オーラ弾で消毒したら昼になるまでピュグリバーへと遊びに来るのが男爵の嗜み。


 六駆くんに「もう会うことはないだろう」とか言っておきながら、お小遣いをユーロで払って毎回『ゲート』を出してもらっている。

 男爵が嘘をついたのではない。


 世界は男爵にも予測不能なほど、可能性に満ちているのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「雨宮さん。良いワインが手に入ったので寄らせてもらいましたよ」


 白ワインを片手にスーツ姿の川端さんが貴賓室で待っていた。



「川端さん。私ねー。ワイン頂けるのは嬉しいですけどねー? 週3で持って来られるとさすがに消費が追い付かないんですよー。もう正直におっぱい摘まみに来ましたって言えば良いじゃないのー」

「おっぱいを摘まみに来ました」


 摘まむというのは物理的なものではなく、あくまでも品評的な意味合い。

 これだけは絶対に違えてもらっては困ると男爵は言う。



「良質なおっぱいに触れる事で絶えず感覚を鋭敏にしておくのもおっぱい男爵としての務めですので」

「あららー。川端さん、ジェシーのおっぱいでゾンビになった時はおっぱい男爵って呼ばれる度に涙流して後悔してたじゃないのー。どうしちゃったんですか、その変貌っぷりー。あ、違う違う、キャシーだ」


「雨宮さん。ジェニファーちゃんです」

「あららー。知ってたよー?」


 実のところ、隠居生活も楽しいけれど、昔馴染みと顔を合わせて与太話するのも好きな雨宮さん。

 リィラちゃんがオニオンティーを淹れて持って来てくれたので、2人でそれを啜る。


「ぐはっ」

「あららー。川端さん、まだまだなんだからー。よいしょー!! 『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』!!」


 ここで言うオニオンティーとはもちろん『呉玉ねぎブラッドオニオン』から抽出された紅茶であり、力なき者が飲むと絶命する。

 川端さんは週3のペースで絶命している。


「失礼いたします! 川端卿! ようこそおいでくださいました!!」

「エヴァンジェリン姫……。ご無沙汰しております……」


 跪く川端さん。

 バルリテロリ人でなくとも、エヴァちゃんの前では大半の男性が前屈みになって跪く。

 それが運動後のエヴァちゃんだとさらに大半の比率が上がる。

 日本語が難しい。


 理由は分からない。


「ご無沙汰してますって言葉を週3で使う人もなかなかいないですよねー。ナディアちゃんに言いつけちゃうゾ!!」

「ふっ。雨宮さん……。これは公式訪問ですので、ナディアさんはご存じです」


 理解のあるおっぱいをゲットした川端卿。

 おっぱい道も極めるとハッピーエンドが待っているらしい。


「しかし、雨宮さん」

「なにかしらー?」



「ピュグリバー。軍事化が進んでいませんか?」

「やだもう、川端さんってばー!! 私が目を逸らしてる事を指摘しないでもらえますかー!」



 平和と調和する親和と友愛とふわふわっとした柔らかいものでできていたはずのピュグリバー。

 最近はたまに血と硝煙の香りが漂う事もある。


 その辺りについて語る前に、原因と思しき単語を置いておこう。


 呉。

 莉子ちゃん。

 バルリテロリ。


 これらが意味するものとは、一体。

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