第1326話 【エピローグオブ木原クソさん・その1】この人ずっと誰かと合体してんな ~合体適正持ちがいなくなったせいなのか、ガチのマジで戻れなくなった最強の監察官の行先~

 7月上旬。

 私立ルルシス学院には、みみみと鳴く人気者の女子生徒がいた。


「ごきげんよう。木原先輩」

「みみみっ。ごきげんようです」


「ごきげんよう。木原先輩」

「みみみっ。ごきげんようです」


「ごきげんよう。木原さん」

「みみみっ。ごきげんようです」



 彼女が歩くとコピペみたいなやり取りが20分くらい続く。



 木原芽衣ちゃま、高校2年生に無事進級済み。

 私立ルルシス学院は中高一貫のお嬢様が集う女子校。

 その中にあって芽衣ちゃんは中等部の頃から礼儀正しく「みみみみみっ」と鳴いて過ごしていたので、それはもう進級する度に学友のハートをキャッチし続ける。


 気付けば二学期に行われる生徒会長選挙に出馬する事まで決まっており、一学期もあと少しという今時分、芽衣ちゃんの心はとても軽い。


「み゛……。みみみ……」


 失礼。割と重たそうな雰囲気だった。


 学院指定の鞄から「みみみみみみみみみみみみみみみっ」と鳴き声が響く。

 「みみっ!」と速やかに取り出したのは芽衣ちゃま型美少女フィギュア。

 呉に植わっている玉ねぎが作った、妹との直通通信機である。


「みみっ! 芽衣です!!」

『みみみみみみみみみみみみっ! ミミです! お姉様!!』


 ペヒペヒエスの作り出したコピー戦士の中でも最高傑作の呼び声高き美少女ミミミミξ型、今は名を改めてミミちゃん。

 芽衣ちゃんに瓜二つの人造人間である。


 現在は日本本部の医療班でお仕事をしており、行動の自由は南雲上級監察官によって保障されている。

 そんなミミちゃんからのお電話に芽衣ちゃまも心がちょっぴり弾む。


 心が弾むと胸も弾む。

 ここでは胸部装甲のランクが上がった旨だけ、そっと付言しておく事とする。

 詳細を聞くのは諸君、野暮というもの。


 芽衣ちゃんは成長期。育つ秘訣は簡単。

 好き嫌いはせずに野菜も牛乳もなんでもバランスよくモグモグする。

 それ以上の言葉はいらない。



 今、メインヒロインの話はしていません。



『みみみみみみみみみみみみみっ! お姉様!』

「みみっ!」


 鳴き声がちょっと長いのがミミちゃん。

 実に簡単な見分け方、いやさ聞き分け方。


『みみみみみみみみみみみみみみっ! 木原久光監察官の分離作業の進捗が届いたらしいです! お姉様には南雲上級監察官室に出頭して欲しいとの事です! みみみみみみみっ!』

「み゛……。み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛……」


 鳴き声が長くなるとそれはみみみアラートになるのが芽衣ちゃん。


 木原久光監察官。

 合体と分離を繰り返し、現時点ではまだ木原クソさん。

 諸君はルベルバックに合体分離施設「ゴリ門宮」があった事を覚えておいでだろうか。


 そう。

 バルリテロリの一斉侵攻を受けて、南雲さんが埋まったところである。


 かの地にて、再び、ゴリ門クソさんじゃなくて今は木原クソさんだけど、とにかくそれを木原さんに戻そうプロジェクトが進行していた。


 木原クソさんの戦力を遊ばせておくには余りにも惜しい。

 戦闘力を除外した性能も害が勝るという訳ではない。

 力こそパワーな面は目立つものの意外と理性的な思考を保持しており、後輩が結婚したらお祝いを包んでくれる面倒見の良さもあるし、味方がピンチの時には咆哮と共に駆けつけて身を擲ってくれたりもする。


 ただ、姪っ子の芽衣ちゃまに害があるだけ。


『みみみみみみみみみみみみみみみみっ。お姉様の許可が取れ次第、南雲上級監察官がルベルバックへと赴き、合体解除の現場に立ち会うとの事です。みみみみみみみみみっ』

「み゛……。芽衣、これから本部に行くです。みぃ……」


 心が弾まない理由はここに集約される。

 木原さん復活の時。


 それを是とするか否かは芽衣ちゃんの胸三寸に委ねられているのだ。

 彼女は1歳年を取ったものの、まだ17歳である。


 日本本部は芽衣ちゃんにどれだけの重責を強いれば気が済むのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲上級監察官室では。


「南雲さん。カフェイン錠剤大量にぶち込んだコーヒー淹れましたよ。これ飲んで、シャキッとしてください。芽衣さん来るんすから。その死んだ魚の目、10代女子にとってはもうセクハラっすよ」

「ありがとう……。山根くん。いただくよ」


 「ふぉぉぉぉぉぉぉ!!」と叫んでファイト一発。南雲さんが覚醒した。



 カフェイン錠剤は合法です。

 薬局やドラッグストアで取り扱われています。


 適切に用いれば人体に害はなく、むしろ有効な活性剤となります。



「いやぁ!! なんだろう!! ギンギンに冴えて来た!! 今なら空飛べそう!!」


 多幸感を覚える量の摂取は致死性不整脈などの原因となるので絶対にしてはいけない。

 死んだら幸せもクソもないのだ。

 ストップ。オーバードーズ。


「みっ。木原芽衣Bランク探索員、出頭したです。みっ!」


 芽衣ちゃまが綺麗な敬礼をして扉を開けた。


「ちょっと服脱ごう!! 芽衣くんが来た時に汗臭いと困るもんね!! あぁー!! 解・放・感ッ!!」

「みっ! 失礼したです!! あと失礼するです!! みっ!!」


 芽衣ちゃまが綺麗な敬礼をして扉を閉めた。

 そののち、同じフロアにいるので真っ先に駆けつけた青山仁香お姉さんによって南雲さんが怒られた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 エピローグ時空は基本的に尺が足りない。

 目まぐるしく場所が変わるのも致し方なき事とご理解を求めたい。


 数時間後。

 南雲さんと芽衣ちゃんはルベルバックに来ていた。


「本当に良いのかい? 芽衣くん?」

「みみぃ……。芽衣、子供だから我慢するです。みみみぃ……。芽衣がいっぱい頑張っても、おじ様みたいにはなれないです。だから我慢するです。みみっ」



「えっ!? 芽衣、いいの!? このチャンスをなんやかんや有耶無耶にして!? 木原さんを次元の狭間とかに落として30年くらい蓋できるのに!?」

「逆神くん!! 君ぃ!! そういうとこだよ、君ぃ!! なんで用がある時にはすぐ帰るのに、こういう時だけいるの!! あー。ダメだ。カフェイン摂ろう」


 暇だったのでルベルバックまでついて来た六駆くんもいた。



 六駆くんはおじ様に悩まされていないものの、親父と曾祖父には悩まされている男。

 彼が芽衣ちゃんの立場だったらどうするだろうか。


 考えるまでもなく「うわぁ! 殺せないならもう目の届かないところに放置するのが一番だよ!!」と答えるだろう。

 もうそんな感じのアドバイスを愛弟子にした後であった。


「みみみっ。おじ様も悪い人じゃないです。きっとです。多分です。恐らくです。みみぃ」

「えっ!? 芽衣! 落ち着いて!? その人の良し悪しを公益性とか、客観性で判断しちゃダメだよ! 主観! 大事なのは自分が好きか嫌いか!! そんなね! 誰だってモニター10000人くらい集めたら、1人くらいは好きな人も出て来るよ! 人間って頭おかしい個体が絶対に存在するようにできてるんだから!!」



「逆神くぅん!! 私のカフェイン錠剤がなくなったら君ぃ!! もうお通夜みたいになるんだよ!! 嫌だなぁ、もうこの子!! 大学生になってどんどん賢くなる!! あー! カフェイン、カフェイン!! よぉし! 私、まだ舞える!!」


 六駆くんは人間社会学部で心理学を専攻している大学生になりました。



「まったく、人が生きるとは無常なものですな……」


 ものすごく久しぶりに出て来たキャンポム少佐が纏めてくれた。

 人が生きるって難しいのである。


 次回。

 戻るのか、ゴリ門クソさん。

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