第1323話 【エピローグオブ川端一真・その1】来たぞ! フランス!! 亡命だ!! ~忘れ去られたあの男も一応救済だ!!~

 日本本部は23時を少し過ぎた時分であった。


「南雲さん。じゃあ僕、このままアメリカに行って、フランスに行って、ノア連れてミンスティラリアに帰りますね」

「うん。向こうではルクレール上級監察官が待っていてくれるらしいから。話はついてるし、川端さんだけでも上手くやれると思う。よろしくね」


 アメリカを経由してフランスへ。

 どこでもドアならぬ、穴と門を駆使して国境を侵犯しながら航空運賃をちょろまかす。


 これが新生日本本部のやり方である。


 まるで悪化したみたいな言い様になってしまったが、雨宮さんはもっと酷かった。

 ただ、京華さんがかなり高潔だったので中和してどうにか今より少し悪かった程度、結果としては誤差の範囲に収まる。


 人事異動ってそういうものである。

 革新的な大変化とか、地獄へ真っ逆さまとか、劇的なヤツはなかなか起きないものである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アメリカで六駆くんがマスクド・おっぱいに関する人々の記憶と記録を改変したのち、そのままフランス探索員協会の噴水前にある転移座標へ向けて『ゲート』の連続発現。

 さらばアメリカ。さようなら、アメリカンビッグボイン。


 また会うことはあるのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 やって来たのはフランス。

 日本の23時はだいたい16時くらい。

 オリンピックで覚えた方も多いかと思われる。


「助かったよ。ありがとう。逆神くん。ノアさん。では、もう会う事もないだろう。元気で」


 急にセルゲームが終わった後の天津飯みたいな事を言い出した川端さん。

 「あ、そうですか! じゃあ帰りますね!!」と言った六駆くんのスマホが震える。


「はい! 逆神です!!」

『にゃはー! 間に合ったぞなー!! 六駆くん、六駆くん! ナディアさんから伝言があるぞなー!!』


 クララパイセン、エピローグ時空でも急に出て来たかと思えばしばらくいなくなったりする、いつもの立ち位置へ。

 大学は卒業しない。

 これだけで彼女の未来は固定される。

 結果、当たり障りのない役割が増えるという、見慣れたどら猫ポジションへの帰還を果たす。


「ナディアさんは目の前にいますけど?」


 ナディア・ルクレール上級監察官(35)は確かに目の前にいた。

 だが、人差し指を口に当てて「しー」と言うばかり。

 ノア隊員が随行していてよかった。


 内緒の話と聞いてふんすしないノアちゃんはノアちゃんではない。


「ややっ! 逆神先輩! これは、ナディア先輩の口からは直接言えないけど、ボクたちに何かして欲しい事があるヤツです!!」

「ええ……。疲れるのは嫌だなぁ」


「安心してください! 逆神先輩! こういう流れだと、泥をかぶってくれた人にはご褒美があるパターンです! ふんすですか? ナディア先輩!」

「わー。んー。こほん。……ふんす。こほん、こほん」


 イエス、ふんす。六駆くんにとってふんす。

 つまり、お金がもらえるふんす

 最強の男も社会性を獲得して久しい。さらに今や大学生。

 人間社会学部なのに経済学部の講義を他学部履修している、インテリへと進化しつつある男。


「要件を伺いましょう!!」

『にゃはー!! 実はあたしもワインで買収されとるんだにゃー!! なんかにゃー。ダンクさんって覚えてるぞなー?』



「えっ!?」

『はいはいにゃー』


 こんなに適切な「えっ!?」の使い方にお目に掛かれる日が来るとは。



 ダンク・ポートマン。

 色々とやっている男。

 記憶に新しいのはバルリテロリに転移スキルをまるっと奪われてから喜三太陛下にアレンジされた結果、相手の煌気オーラを目印にダイレクト転移する者が爆増するきっかけとなった。


 逆神流の『ゲート』の価値を失墜させた原因の1つ。


 さらにナンシーのエピローグで触れられたが、アメリカ探索員協会のマイアミ基地へ爆撃をした元凶であり、ついでに基地司令をしているフィッシャーSランク探索員の元カノをNTRしていたという誰も得しない過去も保持しており、水戸くんと一緒に異空間へと飛ばされたのも頷ける穢れた魂の持ち主。


 しかし、下着泥棒とサドル泥棒をしていた姫島幽星がなんかこの世界の間隙を突いて久坂家に居候し始めており、そう考えるとダンクくんだけ生死不明にしておくのはいかがなものか。

 姫島さんはかつて莉子ちゃんのパンツを見て、ついでにパンツ盗みそうになった過去さえあるのにである。


 思い返せばメインヒロインに対してなんたる不敬か。


 ならばダンクくんも生きて罪を償う道くらいは用意してあげてもいい気がしたのである。

 水戸くんはきっともう、考えたくはないが現世に顕現しているだろう。


 そんな訳で「ダンクさんをどうにかしてあげてくださーい」とは口が裂けても言えないけれど、言うとしたら自分しかいないと全部分かっているナディアさんがクララパイセンに依頼して「逆神くんのスキルで生き返らせてあげて欲しいんですよー」と伝言ゲームが完成。


『そういう事でにゃー。100万円くらいでどうですかって話だったぞなー。……六駆くんの声が聞こえんにゃー?』

「クララ先輩!」


『聞こえたにゃー』

「もうやってます! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『時間超越陣オクロック』!!」



『六駆くんのそれ、いつからザオリクになったんだろにゃー?』


 時間を巻き戻す概念が生まれたのはあっくん戦だったので、意外と初期の頃から存在していた便利なチートスキルである。



 スキンヘッドのメタボリックがチャームポイント。

 日本大好きで侍は特に好きな転移スキル特化の使い手。

 ダンク・ポートマン上位調律人バランサー


 本当に長き時を経て、ついに復活の時を迎えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ああああ!? 吾輩は……!! 爆発に巻き込まれて!?」


 ダンクくんの肉体と記憶は十四男ランドが南極海に落ちるかな、落ちないかな、のところまで巻き戻っているため、エピローグ時空にはとてもついて来られない。


「じゃ、僕たち帰りますね! 川端さん! あとお願いします!!」

「ふんすです! ふんすー!!」


 仲良し師弟が門の中に消えて、門そのものも消えた。


「川端ぁ!!」

「ああ。ダンクくんか。元気そうで良かった。じゃあ、また連絡するから」


「……吾輩に対して冷たくないか?」


 初期からいた一人称が吾輩のトラさんがバルリテロリ最終決戦で大活躍した結果、まず吾輩キャラはもういらない。

 次いで、親日家という立ち位置には現在みつ子ばあちゃん旗下、独立国家・呉所属のライアン・ゲイブラム氏がいる。

 転移スキル特化の玉座には「ぶーっはははは!!」とお高笑いなされておられる、喜三太陛下が。



 おめぇの席ねーから。

 これがこんなにキマる者は多分、この世界でダンクくんだけ。



 新しいフランスの土地でこれまでの記憶なしという辛くてニューゲームが始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 面倒で放置しておいても良いかとも思われた喉のつっかえを解消したので、改めて川端さんに視点を戻そう。


「ナディアさん!! 川端一真、貴女のもとへ戻りました!!」

「おかえりなさーい。川端さーん。待ってましたよー。お仕事山積みですー」


 時系列が不安定になって来た。

 今、この瞬間は4月の上旬である。

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