第1286話 【逆神六駆は我慢できない・その2】自分で立てた計画を自分で破壊する最強の男 ~来ちゃった。もう巻きで行くから~

 ナンシーの家に門が生えて来る。


「……まただわ」


 ついに叫ばなくなった、アメリカンビッグボイン。


「ふぇ!? ふぁっ!! 六駆くんだぁぁぁ!! わぁぁぁ!! なんで!? なんで来たの!?」


 代わりに現場指揮官が喜びの声をあげた。

 黒衣を纏いし最強の男、背中には金ぴかに輝く「莉子」の文字。


 逆神六駆、アメリカに現着。



「えっ!? ……うん! なんか、イケる流れかなって!!」

「そうなんだぁ! えへへへへへへへへへへへへへへへ!! すごいねっ!!」


 最終決戦では冷静に戦いのタクトを振るって来た現場指揮官りこちゃんがダメになった。



 まず六駆くんは周囲を確認。

 既にバルリテロリの電脳ラボで味方の位置関係などは把握しているが、モニター越しに見たものを現場でも同じ視点で見られるだろうと高を括るのは二流。


 現場の視点にすぐ慣れるのが一流。


「……よし。良い立地だ! 本気出しても家が吹き飛ぶくらいで済みそう!! よーし!! イケる!!」


 現場をどう壊すかのシミュレーションを即座に終えて超一流。

 ナンシーの家で本気を出す事にしたらしい最強の男。


 彼に常識を求める事なかれ。

 それは確かに存在するが、有事の際に六駆くんが求められるのは常識にあらず。


「さて。人殺助さんは外だよね? まだ変形してないといいなぁ!! 死体が蠢いてるタイミングって1番殺しやすいんだから!」

「にゃはー! 仁香さんがボコボコにしたヤツがお外にいるぞなー!!」


 左腕に抱きついている莉子ちゃんの頭を撫でて、クララパイセンのナイス位置情報サービスに「ありがとうございます!」とお礼を言う。

 六駆くん、すぐに庭へと飛び出していく。


 左腕の感覚を確かめながら「……綺麗な骨折で済んだ! やっぱりイケる流れだ、これ!!」と確信を強めながら。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「嫌。嫌よ、男爵……。私、私ね? 少しだけ日本語を覚えてしまったの。きっと間違っていると思う。いいえ。間違っていて? そうでしょう? 吹き飛ぶって日本で言うところの地獄って意味なの? 違うわよね、男爵?」


 肩を震わせるナンシー。

 その揺れるおっぱいを見つめながら、川端さんがハッキリと答えた。



「ああ。違う!!」

「そ、そうよね!! あなたは私に嘘をつかないもの! 安心したわ!!」


 嘘はついていないけど、絶叫への助走が始まった。



「わたくしたちはどういたしますの?」

「みみみっ。六駆師匠の応援するです! みっ!!」

「うにゃー。もう帰っても良い気がするにゃー」


 小鳩さんがみんなの意見を纏める。

 現場指揮官が恋する乙女になったので。


 この世界では恋をすると基本的に程度こそ違えどダメになりがち。

 それはしっかり者の小鳩お姉さんも知っている。


 芽衣ちゃんはみみみと鳴く可愛い応援団に転身希望。

 パイセンは帰ってシャワー浴びて、優勝ビールも浴びたい希望。


 対して、懐疑的な意見を持ったのがこちらの2名。


「ステータス『妙だぜ、服部』を確認。グランドマスターのコンディション、本気を出していない状態をベースとしても現状41%と測定されました。ステータス『具合悪そう』を獲得」

「興奮しますね!! 逆神先輩が疲れるか、人殺助先輩が色々と絶えるかのチキンレースですね!! ふんすふんす!! 興奮ふんすっ!!」


 レーダー付きのメカ猫とパパラッチなボクっ子は真っ先に「六駆くん、全然回復してねぇ」と気付く。


「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! みんな、見ました!? 六駆くんの背中!! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! わたしの名前が書いてあるんですよぉ!! もぉぉぉぉぉぉぉ! 恥ずかしいからヤメてって言ってるのにぃぃぃぃぃぃ! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!!」


 チーム莉子の意見を纏めるとこうなる。


 現状なんかヤバそうと認識。2票。

 どうしたものか。1票。

 頑張って欲しい。1票。

 ビール飲みたい。1票。


 えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ。10000票。


 婚約者の1票が1万倍の民意として世の中に反映されることはあまりにも有名過ぎてもはや常識と言っても良い。

 つまり、チーム莉子の方針は。


「よーし!! 六駆くんの邪魔にならないように、おうちの中から応援しよー!! おー!!」


 こうなる。


「……む?」


 川端さんが違和感を覚えた。

 それはすぐに気付けるものだった。


「ナンシーさん。ブラジャーの紐が……切れているな」

「どうでもいいわ! そんな事!!」


 ブラジャーの紐が切れる。

 おっぱい界隈では「靴紐が切れる」どころか「テリーマンの靴紐が切れる」と同格の不吉。


 川端卿は2房のおっぱいを見つめてから呟く。


「揺れが荒れるかもしれない……」

「やっぱりあなたってクレイジーね」


 おっぱい占いは紀元前から行われて来た物事の吉凶を示す神事の1つ。

 それが現代ではややお手軽になり、大小問わず誰でも占えるようにブラジャーの紐がその役割を継承している。


 荒れるかもしれん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ナンシーの庭では。

 仁香さんによって消し飛ばされた人殺助・参の残骸がうねうねしていた。


「うわぁ! 気持ち悪いや!! ふぅぅぅあ゛! しまった!!」


 まだ人の形は成していなかったが、どうやら六駆くんを猛者の中の猛者と認めており何を置いても迎撃の構えは既に済んでいたらしい。

 「ふぅぅぅぅぅん」が完了する前に人殺助(うねうね)から煌気オーラ砲が発射された。


「……避けるまでもないけど! 避けさせないのが罠かもしれない!! ふぅぅぅぅぅん!! 『鏡反射盾ミラルシルド』!!」

「………………………………」


 南雲さんが本気出した時くらいの煌気オーラ砲は六駆くんによって人殺助(?)に跳ね返される。

 そしてそのまま無言の被弾。


 いくら南雲さんの全力レベルとはいえタダで喰らうほど安い煌気オーラ砲でもなかったはずなのだが、人殺助(?)は微動だにせず、未だ蠢いている。

 六駆くんは訝しむ。


「あっ!! 小賢しいタイプだ、次の人!! それ自体うねうねが、囮ですね!? ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『炎熱フレイム大竜砲ドラグーン』!!」

「………………………………」


 人殺助(?)が声も上げずに焼けた肉塊へと変化した。

 気配を察知して振り返った六駆くん。


 そこにいたのは。


「よおよお! なに油断してんだよ、六駆!! ここは戦場で、アメリカで、知らねぇ土地なんだぞ!! 気ぃ引き締めろ!! そんで構えろ! オレと呼吸を合わせて、一気に2人で敵を叩くぜ!! ぐへへへへっ!!」


 逆神大吾だった。


 六駆くんは「うわぁ!」と感嘆の声をあげてから、手を差し伸べた。

 「へへっ。なんだよ。こんな時に甘えんじゃねぇよ」と照れる大吾。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『極光逆鱗平手打グラン・クソ・ガ・スパイク』!!」

「おぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」


 ノータイムで究極スキルのガチビンタを繰り出した六駆くん。



「しまった!! 乗せられた!! 今のは僕のミスだ! 絶対にこんな高威力のスキルを使う必要なかったのに!! あなた!! 面倒くさいな!! でいいですか!?」


 吹っ飛んだ大吾の体からふわりと幽体離脱するかの如く、気持ち悪さに気持ち悪さを重ねた様子で魂が具現化される。


「あーあ。バレてんのか。しかし、あんた。本当に父親が嫌いなんだねぇ!」

「なにちょっと余裕見せてるんですか! 腹立つなぁ!! 魂だけで活動できるのは当然って言えばそうなんですよね。だって、元が主人格に憑りついてる悪霊なんだから! はい、名乗って!!」


「せっかちだねぇ! 私は人殺助・肆!! そうとも! 人殺助の中に住まう魂の中でも何人かは単独で活動できるのさ!! ここまでの戦いはずっと見させてもらった! さあて! 次は誰か……女に憑りついてやろうか!!」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」


「おいおい、よせよ。まずは対話だろ? 私に何かしたら、瞬時に大事なお仲間が」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」


「……!? おいおい、おいおいおい!? 大事なお仲間に憑りついて! なんかいやらしい事するぞ!? 乳振り乱したりするぞ!? 良いのか!? お仲間の尊厳が失われ」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」



「よし! 分かった! 話し合おう!!」

「もうだいたい分かったので! 次の人も出してもらえます? 『極光大竜砲グランドラグーン』!!!」


 「ひぎぃぃぃぃぃ」と耳障りな悲鳴がナンシーの家からアメリカの空へと響き渡った。



 仲間を人質に取る。

 悪くない手段であった。


 初手に肉親を選ぶ。

 とても良い選択である。


 ただし逆神大吾。てめーはダメだ。

 これは六駆くんの仲間カウントにも入らず、身内カウントはされているけど消したい数字の一親等。


 これがチーム莉子の誰かだったら大苦戦は必至だったし、川端さんでも躊躇するので消耗戦は覚悟しなければならなかった。

 ナンシー知らん人ジェームズデカいワンコでも、やっぱりすぐに攻撃とはいかなかっただろう。


 だが、人殺助・肆が憑りついたのは大吾。

 いい感じに死んでいたので、憑りつきやすかったのだ。


 そして六駆くんにとって最高の標的でもあった。


 普段からガチビンタしてるのに、敵に乗っ取られたからって手加減するバカがいるかよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る