第1158話 【逆神くんに隠密行動とか無理だよ・その1】南雲さんの「もう言いたい事は先に書いてあるから私、何も言わない」

 現在、入り組んだ皇宮で隠密作戦中の南雲隊。


 メンバーは南雲修一監察官(でいたい上級監察官)。

 平山ノアDランク探索員。

 ライアン・ゲイブラム氏。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『滑走手刀グライドチョップ』!!!」



 我慢できなくなって壁を壊し始めた、逆神六駆特務探索員。



 彼はダンジョン攻略の際も第4層くらいまでは頑張って莉子ちゃんの指示に従いながら出て来るモンスターを見つけて「あれってお高いんでしょ!!」と気を逸らしていたが、第6層くらいになると「もう壁壊していい?」と聞き始め、第7層では壁を壊し始めるのが日常だった。

 探索員協会にとって登録されたダンジョンの保全も業務の1つであるため、南雲監察官室では「あ。南雲さん」「そう……。逆神くんが……。サーベイランスで壁を修繕するよ」と遠隔地バックアップのためのサーベイランスで大工仕事していた。


 随分と昔の事の様な気もするが、この世界ではだいたい1年程度の昔。

 人は1年でむちゃくちゃ変わるが、30年経っても悪癖は変えられない。


 これはおっさんの持つ必殺技ではなく、大半の人類が持っている必殺技の1つ。

 忘れる事すらも極めて困難なので、常に我々の技スロットの1つを埋めてくれやがる、実に厄介な必修スキル。


「ややっ! 南雲先生!!」

「うん。知ってる。違うね。知ってた。逆神くんにしてはよく我慢した方だよ。私ね、もっと早いと思ってたの。陽動班よりも先に逆神くんがふぅぅぅんして、こっちが結局陽動もさせられる流れだと覚悟してたからね。むしろこれはラッキーだなって思えちゃう」



「ふんすです! 小鳩先輩隊の方に置いてる穴ちゃんをチラ見したんですけが! バニング先輩が爆発しそうです!! ラッキーですか! 興奮しますか!?」

「……なんで!? ノアくん、君ぃ!! 逆神くんのご乱行を見つめながら別の悲報をスッと告げるのヤメて!? 君、やっぱりオペレーターには向かないな!! 私、君にオペレーターして欲しくないもん! やぁぁぁまぁぁぁぁねぇぇぇぇぇ!!」


 山根くんは仁香さんの要請で芽衣ちゃま隊のサポート兼配信を担当するので、南雲さんはノア隊員で我慢してください。

 その子も優秀さでは引けを取りません。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「ああ! もう嫌だ!! 逆神くん!! お待ちなさいよ!! さすがに物申すよ、私も!! 君が今壊そうとしてる壁の向こう! 多分ね、何かあるでしょ!!」


 ライアンさんが代わりに応じた。


「さすがのご慧眼ですな。南雲監察官。敬意を表し、上級はしばらくその辺に置いておきましょう。メンタルを落としてはいけません」

「もうとっくに地面に潜ってますよ、私のメンタル……。それで、何があるのかはとっくに分析済みですか? ライアンさん」


「かような信頼を受けると私も困りますな。貴官はいささか情に絆されるきらいがあります。私は重要容疑者。全幅の信頼を置かれますと指揮に支障がでます」



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! ナグモさんから借りたヤツで一刀流!! 『次元大切断じげんだいせつだん』!!!」

「アレを見た後でライアンさんの声が耳に入ると、何でも信じたくなるのは温情とかではないんですよ。私の心の拠り所です。……ジキラント、いつ盗まれたの? 貸してないよ?」



 六駆くんが叩き切った空間にはパラッパラッパー、失礼、トラッパーとしての有用性はまだまだ健在なバルリテロリ総参謀長テレホマンが置き罠していた『超過料金オーバーペイ』があり、スキルと合わさって爆発する。


「うわぁー!!」

「……うわぁに悲壮感がないんだよ。逆神くん。せめて、うわっ!! にしてくれるかな。君の発音と発声だとね、リアル脱出ゲームで新しいギミック見つけたお客さんのリアクションなんだよ。ノアくん。穴で吸い込んでくれる? 爆発」


 ノア隊員が「ふんすです!!」と『ホール』を発現。

 この一連の流れでもう隠密作戦は形骸化したかと思われるので、少しだけバニングさんが死んでいないかの確認をしておこう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 『ダンディ・サービス・タイム』のおさらいの時間。

 なんやかんやで凍っていたダメージがサービスさんの胸三寸で解除された瞬間に大挙してバニングさんに襲い掛かる。


 以上。


「ふっ。皆、生きて帰れよ。……クララ。違った。瑠香にゃん。……いや。小鳩。アリナ様にいつまでもご壮健であらせられますようにと……」


 バニングさんが自爆するセルに手を添えた悟空さみたいに澄んだ表情をしている。


「うにゃー。あたし、違うって言われたぞなー。ひどいにゃー」

「瑠香にゃんは『ぽこの後でやっぱり違うって言われた』を獲得しました。これは悲しいのでおっぱいには格納しません。その辺に捨てます」


「言ってる場合じゃありませんわ!! どなたか! バニングさんをお救いできませんの!?」

「チュッチュチュッチュチュッチュ」


「オブラートに包んだわたくしがバカでしたわ! サービスさん! あなたに言ってますのよ!! どうにかなさいませ!!」

「チュッチュ……?」



「槍で突き刺しますわよ?」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。



 圧倒的な戦力差があるにもかかわらず、もうサービスさんが小鳩お姉さんのお世話対象に含まれていた。

 つまり、猫たちと同格になったということ。


 しかし猫たちはどこに行っても自分のペースで好き勝手やるので、これは格付けチェック的には一流ダメ人間をキープしている可能性もあるか。


「みみみみみみっ。サービスさん、スキル使い過ぎてるです……。魔王城で待機してた時から、芽衣がワガママでいっぱい無理したもらっちゃったです。サービスさん、とっても強いです。でも、煌気オーラ総量自体はそんなでもないです。み゛ー。芽衣のせいです……」

「ふん。芽衣チュッ子供チュッチュせきにチュッチュ事チュッチュい」


「みぃぃぃ……。芽衣もサービスさんが何言ってるのか分かんないです……」


 思えばこの男、4日前の一斉侵攻時に西野ハットリと西野バジータを腋から伸ばした管で捕獲してずっと時間停止させていたし、その間にも南極海へ出向いたり、芽衣ちゃんオーディションでガチったりしていたので流石にガス欠気味。

 練乳チュッチュしなければ煌気オーラが足りない。


「ふっ。もう既に体の前半分が痛い。サービス。貴様、せめて解除するタイミングくらい伝える気遣いはできんのか。まあ、私が頼んだ事だ。最期にアドバイスを。髪を切れ。貴様、それちょっと地面に髪の毛ついているだろう。外にいる時は良いが、仮に私の家に来客として入られたらものすごく嫌だ」


 本日何度目かの今わの際で、『ダンディ・サービス・タイム』の立役者になってくれたサービスさんに有益な情報をもたらして、バニングさんが光り始めた。


「ぐーっはははは!! バニング殿!! 吾輩は考えておりましたぞ!! 瑠香にゃん殿の創られた膜であれば! 吾輩が引き取って抱きしめて爆発させればどうにかなる! そんな気がしておりまする!! では!! 頂戴いたしまする!!」


 バニングさんの体を覆っている瑠香にゃん生体エネルギーはミンスティラリアの魔技が最も大きいウェイトを占めており、そしてダズモンガーくんは魔力に触れて生きて来た期間は余裕で300と数十年を超える。

 技術はよく分からんが、魔力の扱いは結構知っているトラさん。

 ものは試しと瑠香にゃん生体エネルギーを掴んでみたところ、やっぱりキャッチできた。


「だ、ダズモンガー殿!?」

「ぐーっははは! これより先、皆様は更なる強敵と戦いますれば!! バニング殿のご経験は必ずやお役に立つと吾輩は考えまする!! 吾輩は……ここまででございまするな!! ぬぅぅぅぅぅぅ!」


 カッとダズモンガーくんのモフモフした冬毛が光って、爆ぜた。



「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 どうせ死なないし怪我もしないだろうと冷ややかな目で見つめる、そんな大人にだけはなりたくないと考えるのはいけない事だろうか。



「みみみみみみみみっ!! ダズモンガーさん!! みみぃぃぃ!!」

「ごばぁ゛ぁ゛っ……」


 まさか、やったか。


「ぁ。ごめんなさい。ネクター飲んでたらむせちゃいました……」


 莉子ちゃんでした。

 女の子だって本気でむせると可愛く「けふっ」とか鳴いてる余裕はなくなる。


「バニング殿。このようなダメージをお一人で背負われるおつもりでございましたか!! いけませぬぞ!! これから先、まだまだ人生は長うございますれば!! 命を無為にしてはなりませぬ!!」

「……申し訳ない」


 何事もなかったレベルではってはいなかったダズモンガーくん。

 割と厳しいだったとトラさんは言う。

 それを踏まえてバニングさんに「てめぇの容積考えろ。死にまするぞ」とお説教した。


 実はバニングさんよりも300歳くらい年上な、ダメージソムリエタイガー。


「では、移動しますわよ!! もう敵に把握されていますもの! 立ち止まっていては的ですわ!!」

「にゃはー! 小鳩さん、小鳩さん! 移動したところで止まってた的が動いてる的になってエンターテインメント性が増すだけだにゃー!! に゛ゃ゛ぁ゛……」


 小鳩さんが「クララさんは余力たっぷりですわね? なんですの? ああ、そう。おっぱいの余力ですわ。ですわよね?」と言って、にっこり微笑んだ。

 パイセンが莉子ちゃんをおんぶして、小鳩隊は一旦任務完了。


 移動しながら敵の注意を引きつつ「でもこっち来ないでほしいな」と願うシークエンスへと移行する。


「……ぷぇ。柔らかいよぉぉ」

「ぽこますたぁ?」


「小鳩さんの1番怖いモードは笑顔だにゃー。笑いながら怒るお姉さんなんだぞなー。瑠香にゃん、覚えとくにゃー。あと、最近の莉子ちゃんはおっぱい触らせとくとしばらく大人しくなるぞなー。こっちはケースバイケースで危ない事もあるからにゃー。素人にはお勧めできんぞなー」


 瑠香にゃんの中でパイセンのマスターランクが一瞬だがピコに復権した。

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