異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第1129話 【莉子ちゃん敵国独り旅・その4】「……………………」 ~おや、莉子ちゃんの様子が~
第1129話 【莉子ちゃん敵国独り旅・その4】「……………………」 ~おや、莉子ちゃんの様子が~
「………………………………」
こちらはバルリテロリの国道。
創り上げたリコバイクに跨り、お尻は痛いし太ももだって痛いし、汗かいてベタベタするしネクターは美味しいしと苦難の進路を爆走している最強の男の婚約者。
18歳の女子高生である。
バルリテロリの鋪装された誰もいない道路を元気な女子が自転車を軽快に飛ばして汗を流すとか、それはもう大変にフレッシュな光景である。
「………………………………」
六駆くんの、いやさ南雲さん率いらされる本隊は皇宮へと突入。
現在、攻城戦をおっ始めており、相手が要塞ならば莉子ちゃんの出番。
彼女もそんな出番を察知してかどうかは判然としないながらも、「ぶぇ゛ぇ゛ぇ゛」とちょっと鳴き声の「ふぇぇ」を苦悶に染めながら頑張ってペダルを漕いだ。
芽衣ちゃんも既にミンスティラリアから出征しており、この瞬間にだって転移して来てもおかしくない事を踏まえると、チーム莉子のリーダーたる莉子ちゃんがこんなところで手をこまねいて、足をばたつかせている訳にはいかない。
彼女はリーダー。
六駆くんの相棒であり、チーム莉子立ち上げ当初からずっと部隊を引っ張って来た乙女。莉子ってついとるんや、部隊の名前に。
今や部隊は日本のみならず現世で最強の探索員チームに進化しており、ならばその戦列の中心にドスンと座るのは彼女でなければ。
「………………………………」
話は変わるが、構築スキルは
繊細緻密な
六駆くんは
四郎じいちゃんは
前述のコントロール技術が秀でている所以である。
バルリテロリのスキル使いたちは「何もねぇもん、ここ」と最初に
喜三太陛下に至っては、同時に異空間異世界を構築できるレベルに到達している。
さて、莉子ちゃんの
もはや必要性を感じないが、ちゃんと明言しておかなくてはならぬ。
クソザコである。
うっかりすると未だに
そんな彼女が使った構築スキルで爆誕したリコバイク。
推進力は異常なほど有しているが、欠陥も異常なほどゲットしていた。
ペダルの位置がおかしい。
一般的に自転車は太ももの筋肉を総動員してペダルを踏み込む事で進むが、リコバイクのペダルは莉子ちゃんの脚を限界まで伸ばしてギリギリ届くかどうか、あ、届いたかも、くらいの場所に鎮座している。
イメージが足りなかった。
サドルが硬い。小さい。なんか前の方についている。
一般的な自転車の話をせずとも分かる欠陥設計。
お尻に負担をかけるための存在みたいなデザイン。
グッドデザイン賞に応募したらエントリーシート燃やされそう。
サドル泥棒でウォーロストに収監されたサドルは大好き姫島幽星も「くくっ。このサドル、預ける!!」と言ってスルーするほど。
最後に莉子ちゃんは探索員装備でリコバイクを漕いでいた。
赤と黒のラインがイチゴを思わせる莉子ちゃん愛用のノースリーブジャケットと、ショートパンツ。
装備としては極めて優秀。
希少なイドクロアをふんだんに使用しており、さらに南雲さんが何度か改修してアップデートを繰り返している。
が、サイクルウェアではない。
特にショートパンツはサイクリングを想定されて造られていない。
お尻への衝撃緩和パッドもついていないし、そもそもストレッチ性だって戦闘と自転車漕ぐのでは名前は同じでも性質が違う。
おわかりいただけただろうか。
「………………………………」
ビリッという破滅の音がバルリテロリの大地に響いた。
皇宮までもう少し。
5リコキロメートルに迫った場所で起きた、凄惨な事件である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんで!? おかしいよぉ!! わたし、ちゃんと予備のヤツに穿きかえたもん!! 六駆くんの親戚の人にひどい事されて破れちゃったから!! ちゃんと新品をノアちゃんに持って来てもらったもん!! 穿いてからまだ3時間くらいだよ!?」
莉子ちゃんは最終決戦仕様に進化した結果、カロリーを
そのため、1時間くらいで痩せたり、15分くらいでムチったりする。
これには脂肪スキルで多くの者を不快にしてきた下柳則夫元監察官もウォーロストで「ぶひひっ」とご満悦。
そして莉子ちゃんはバルリテロリの民をシャ地区で救った際に『
直後、たっぷりご飯をご馳走になったのでその培はムチった。
「……あっ! 分かった!! 不良品だ!!」
ショートパンツちゃんの名誉のために申し上げておくと、良品である。
莉子印良品である。
ただ、装備者の体型の変化があまりにも激しすぎてついて行けなかった、それだけ。
ショートパンツちゃんは「それが罪というのであれば、我は甘んじてそれを受けよう」と、ついさっき絶命した。
莉子ちゃんのショートパンツにスリットがデキた。
これでセクシー度も大幅アップ。
やはり戦う乙女は装備がちょっとくらい健全に破れるもの。
それがメインヒロインとなれば必定。
「もぉぉぉぉ!! ひどいよぉ……!! これ、どこまで逝ってる!? よく見えない!!」
ナニと戦ったのかは分からないが、とにかく莉子ちゃんが装備を破損した。
スリットが発生したのは右のお尻と太ももの間だった。
よほど体が柔らかいか、タコかイカでもなければ身をよじって確認することもできない。
これは乙女にとって大問題。
「……見えてないよね!?」
ナニがとは言わないが、割と見えていた。
ただ、莉子ちゃんだってインナーを穿いているのでこれは皇宮でずっと侃々諤々の大論争を繰り広げていた「見せパンは見えてもええんや」問題の延長。
見えてもええんや。
「見えてない……よねっ!?」
リコおさらいの時間リコ。
逆神孫六との戦闘で初代ショートパンツちゃんが爆死した際、どうして彼女はノアちゃんから浴衣装備の下パーツをゲットして、さらにブルマまで奪おうとしていたのか。
答えは簡単。
「見えてないよねっ!!! ねっ!?」
「ショートパンツだから下はパンツでも平気だよ!」と横着していたので、見えたらあかんものがインナーだった。
不幸中の幸いだったのは、莉子ちゃん以外は誰もいない無人の荒野が現場だった事くらいだろうか。
この幸いも本隊と合流した瞬間に誰かが指摘するだろうし、誰も指摘しなかったら六駆くんが言うであろうこと間違いないので、すぐに消えてなくなる極めて薄い幸い。
「多分、大丈夫! だって、腰から落ちてないって事はだよ? 全損じゃないもん!」
ショートパンツに半壊とか全損とかの基準が生まれた。
「そだそだ! そうだよー! もぉー! ドキドキしたー!! ちょっとだけ裾があれだよ! なんかサドルとかに引っ掛かって、ピリってなっただけ!! もぉぉぉ! 大げさな音出すんだもん! わたしの装備ってばー!!」
絶命する瞬間にも無言で逝くのはバトルものだと猛者、カイジだと石田さんくらいのものであり、ショートパンツちゃんはちゃんと断末魔の「ビリッッッ!!」をあげている。
さらにちょっと前に開示された
莉子ちゃんは足元からぶわーってなるタイプ。
おわかりいただけただろうか。
おわかりいただけていないほうが、きっといい。
「ふぇ? ……あ!!」
そんな暴走の時を待つ莉子ちゃんが空を見上げて何かに気付く。
もしかして心清らか乙女な彼女も「この国の空ってなんかキモいよね」とか言うのだろうか。
綺麗なところがなくなってしまう。
「この
芽衣ちゃん隊がどうやら転移して来た模様。
それを察知した莉子ちゃん。
いわゆる「お父さんの気だ!!」「ふん。孫のヤツ、待たせやがって……」的なヤツである。
これまでも喜三太陛下は身内の逆神
莉子ちゃんはコントロールがザコの代わりに感知能力は優秀。
「芽衣ちゃん……。もしかして、お着替え持ってきてないかな? わたしと体型一緒だし、予備の装備借りられるかも!! そうだよ! わたし、冴えてる!! やっぱりご飯食べたからだね!! よーし! 自転車、辛いけど……。あと少し! 頑張るぞー!! おー!!」
ボタンの掛け違いが色々と発生していた乙女たちの発育事情。
掛け違えたボタンは、1つずつ外して留め直せば良い。
ただ、全部のボタンが複雑怪奇に掛け違っていた場合はどうなるのだろうか。
ボタンなんか弾けてすっ飛ぶのではなかろうか。
答え合わせの時はもうすぐそこまで迫っている。
ならば、ここで我々が推理を披露するのは無粋であろう。
莉子ちゃん、加速。
皇宮まであと2リコキロメートル。
今変わって、1リコキロメートルになりました。
リコバイクはペダル1回転で1キロ進むのだ。
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