第1098話 【どんな時でも絶対に日常回・その14】バニング・ミンガイル氏にも奥さんから通信が入っております ~「……心当たりがございます。自裁のお許しを頂きたい」~

 瑠香にゃんが穴を持って来た。

 もう「穴を持って来る」という表現の意味が分からないが、そこには確かにぽっかりと空間が歪み、暗く黒い穴が空いて、それを瑠香にゃんが握りしめて運んできたのだから、とりあえず事実として認めて先に進むしかない。


「バニング様。瑠香にゃんもかつての総司令官に対して不敬を働きたくはありません」

「そうか。よし。瑠香にゃん。まだ私を敬愛してくれているというのならば、後生だ。その穴を持って帰ってくれ。何でもしよう。望みを言ってくれ」


「瑠香にゃんの望みは1つだけです。ステータス『諦めてください』を付与します。あと、仲間を呼びます」

「よし。分かった。まず、仲間を呼ぶ理由を教えてくれ。そしてそれ、2つだな」


「簡潔に申し上げます。瑠香にゃんだけだと処理しきれません。こういう時にうちのぽこはとても頼りになります。人間性、失礼しました。齟齬が発生。訂正します。にゃん性に問題はあれど、ぽこは有能です」

「にゃはー!! 呼ばれてきましたぞなー!!」


 猫たちの趣味は安全な場所から対岸の火事を見物する事。

 つまり、これからバニングさんは燃えると示唆している。


 タロットカードの死神よりもずっと不吉な2匹の猫たち。

 不吉がさらに加わるのがバニングさんの日常。


「ふんすっ! ふんすです!!」

「ノア。何について恨んでいるのかは分からん。お前と出会った時点でアトミルカは壊滅していたし、その点から考察すればノアに不利益は与えていないと思うのはエゴだ。我々は世界に補填しきれぬ損失を与えた。生涯を賭けて償っても足りんだろう。その上で聞かせてくれ」


「ふんすっす!!」



「私はお前に何をしたと言うのだ!?」

「ボクはこの世界でボクの役割を果たしているのです! ふんすー!!」


 「お前にはもっと色々な役割がある!! そんな汚いもの捨ててしまえ!!」とミンガイルさんちの旦那さんの声がクイント宮に響いた。



 ノアちゃんも「日常回のメモリーを溜めておくと良い事がありそうです!!」とジャーナリズムに基づいて行動しているので歩みは止まらない。

 「とおー!!」と気合を入れると、穴が増えた。


「ノア。これはどこに繋がっている? 地獄か?」

「とんでもありません!! むしろ天国です!! どうぞー!! 繋がりましたー!!」


 とても可愛い声が聞こえて来た。

 まるで癒し系の声優さんかと聴き紛うような声に、バニングさんはとても心当たりがあった。



『あー! 良かったー!! もぉぉ! どうしてわたしだけ仲間外れなんですかぁ!? わたし、ずーっと放置されてますよね? ひどい!! ところでバニングさん! ご相談があるんです!! モグモグモグモグ……。あの! 黒豆って地面に蒔いたら芽が出て育ちますか?』

「……私を憎むのは構わん。恨まれるのも文句はない。だが! 逆神流のやりようはどうだ!? これは人のする事か!? なにゆえ私がフォーカスされるとみんなが集まって来る!? 62のじじいだぞ、私は!! 構わんでくれ!! 頼む! そして莉子! 食い物を粗末にするな!! 食べられない物はいりませんと答えれば済む!!」


 莉子ちゃんがリモート参戦。

 今回の日常回時空ではずっと独りぼっちだったので、そろそろ終わりそうだしとボクっ子が気を利かせた模様。


 さすがはみんなの後輩である。



 既に地獄の釜の蓋が開いたが、本番はこれから。

 瑠香にゃんが抱えて来た最初の穴からも声が聞こえて来た。


 莉子ちゃんなんかよりもずっと聞き慣れた、生涯で最も聞いた女性の声であった。


『バニングか!? 無事でなによりだった!! 声を聴かせてくれぬか? 妾は随分と心が弱くなってしまった。そなたの声が聴きたいとノアにわがままを申してな……』

「アリナ様!! そういう事情でしたか!! ああ! ならば何の問題もございません!! このバニング・ミンガイル! 無事でございます!! どうか、安寧の時をお過ごしください!!」


 実は嫁さんとのラブラブテレフォンを提供していただけのノアちゃん。

 みんなの後輩は気配り上手。


『時にバニング?』

「はっ」



『おっぱいの余力とは? 妾は初めて聞く言い回しなのだが』

「はっ。……自裁のお許しを頂けますか? これまでの人生。私は満たされておりました」


 バニングさんの日常は修羅の道。

 往けば血が流れ、退けば身を裂かれ、最終的に気付けば四面楚歌。



 戦いが日常だった男は戦いから逃れられない運命なのか。

 今、釈明という名の戦いの幕が上がる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここのところバニングさんが話題の中心になると何故か乙女たちが集まって来る傾向にあり、それはかつてアトミルカという大軍を指揮した将たる器がそうさせるのか。


 今回も例外なく集まっていた。


「はいはいにゃー。あたしがお話するぞなー。なにせあたし、現場に居合わせたからにゃー!! バッチリ真実をお伝えするぞなー!!」

「クララ。気持ちはありがたい。……だが。南雲殿が向こうの方でコーヒーまみれの死体になっていないか? あれをやったのはクララではないか? そこだけ確認させてくれ。その上で真実を語ってくれ」


「うにゃー。アリナさん、アリナさん。バニングさんは命がけだったぞな。敵はおっぱい中毒のおじさんだったもんにゃー。あたしも久しぶりにピンチだったぞな。バニングさんはあたしのタンクトップとか、あたしのおっぱいとかを駆使して戦ったぞな。あとあと、これ大事だにゃー。アリナさんの詳細な情報を敵に披露して、自慢して、敵の心神喪失を狙ってたぞな! まあにゃー。結果としてはアリナさんの妄想で大興奮だったけどにゃー!! 説明完了だぞな!!」


 バニングさんは何も言わない。

 下手に何かを言えば立場が悪化するのは戦巧者として培った感性からか、はたまた最近獲得した直感か。


「アリナ様。瑠香にゃんです。ぽこのぽこぽこ説明では足りていませんので、瑠香にゃんが捕捉します。なんやかんやで瑠香にゃんは初めておっぱいを好き放題されました。バニング様は現場に居合わせました。瑠香にゃんからは以上です」


 何か言っときゃ良かったと後悔したバニングさん。

 戦いのステージが変われば経験値もリセットされるのがこの世界。


 信長の野望で九州の大友家や出羽国の最上家などの絶妙に厳しい大名をチョイスして天下統一を果たした偉業も、マリオカートになれば役に立たない。

 乙女たちは常にレースをしているのである。


 ちゃんとハンドリング捌きやアクセルとブレーキのタイミングを履修しておけばと歴戦の雄が後悔した。


『ふふっ。良い。分かっておるぞ、バニング』

「あ、アリナ様……!? 私は……私は……!! 確かにクララと瑠香にゃんの言う様な真似を……!! 少しばかり悪意を感じる編集はされましたが、事実でして……!!」


『良いと言っている。そなたがいたずらに妾を辱めるばすもなし。きっとやむにやまれぬ事情があったのであろう。妾とて戦いについてはいささか知っておるのだ。妻を舐めるのはよせ。バニングがいかに戦いを有効に進められる男か。それは妾が1番知っておる。一体、どれだけの時を共に過ごして来たと思うておるのだ』

「はっ。ははっ!! バニング・ミンガイル、得難き伴侶を得ましてございます!!」


『よせ。皆がいると言うのに。まったく仕方のない男だ』

「クララ。瑠香にゃん。そしてノア。穿った見方をして悪かった。お前たちはやはり素晴らしい女子だ。日本の未来は明るいな」


 もう1つ穴が空いている事をちょっとだけ失念したバニングさん。

 そのちょっとが戦場では命取りだと、氏は重々承知だったはずなのに。


 妻の優しい言葉に絆され、足元がほんの少しだけお留守になった。

 その隙を見逃さないのが最強のモグモグ乙女。


『あ! そだそだ! アリナさん! バニングさんがアリナさんは結婚式とか別にしなくて良いって思ってるから助かるみたいな事を言ってたんですけど! アリナさんってゼクシィちゃんと読みました? わたしが持って行ったヤツ!! モグモグモグモグ……。あ! ごめんなさい!! デミグラスハンバーグが来ちゃったので、一旦わたし! ちょっとアレします!!』


 莉子ちゃんは日常回だとメインヒロインから陥落する乙女。

 だから現場を荒らして去って行っても怒られない。



『バニング? 妾は結婚式に興味がないと言った覚えはないが? そなた、乳繰り合っておれば女は満足すると考えるような賢しさをどこで得た? 乳繰り合うことすらも未だ躊躇うというのに。結婚式、当然だが妾は大変に興味を抱いておる。バニング。妾はこれから少しばかり戦わねばならん。無事に戻って来い。ゼクシィは昨年発売されたものを全て莉子から譲り受けている』


 バニングさんにも結婚式という名の刃がぶっ刺さった。



「……ふっ。誰か。六駆を呼んでくれ。共同結婚式とやらについて相談する必要が出て来た。あと、右手を治してくれ。解説ポジションに下がっている訳にもいかなくなった。妻が戦うらしい。私だけ安全地帯を確保していては、家の居場所が今よりもっと狭くなる」


 戦士の日常は戦も同じ。

 休息の時はないのである。

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