第1045話 【迫る皇帝・その1】孫六ランドは現在降下中 ~実は落下しているので、みんなで頑張っております~

 こちら、バルリテロリ宙域から大気圏を突破しようとしている孫六ランド。


 バルリテロリの構造がどうなっているのかは分かりません。


 異世界って惑星みたいに並んでいるのか。

 異世界から観測しておられる方がおられましたら、みみみお客様センターへご一報ください。


 サービスさんが応対します。


「……ライアンさん。あの。お任せしてものの数分でこんな事を申し上げるのはいかにも人間の底が浅いような気がして本当に不本意と言いますか、私も言いたくないんですけど。でも私、指揮官なので。本意ではないのに聞かなくちゃいけないんです。すみません。……落ちてませんか!? 降下ではなく!! 墜落してますよね!?」



「南雲殿。人の生涯はまるで紙飛行機のようですな。風に乗ればどこまでも飛べるが、所詮は紙。雨に降られれば濡れて落ちるし、横風に吹かれればよろけて落ちる。今はどうして落ちているのでしょうな」


 孫六ランド。降下シークエンスから墜落シークエンスへと移行済みであった。



 ライアンさんの操舵は間違っていない。

 適切に孫六ランドのコントロール権を奪取し、再構築して今は農家がトラクター走らせるくらい自在に操れている。


 つまり、落ちているのは孫六ランドが原因ではない。


「ややっ! お空が緑っぽい青です! ミンスティラリアと被ってますね! これは……撮らなくて良いかなと思いました! ふんすっ!!」

「ノアさんは落ち着いてますわね。わたくし、最期にあっくんさんとお話がしたいのですけれど。ノアさん、穴をおっぴろげて頂けますこと? 減るものでもないでしょうし、四の五の言わずにおっぴろげなさいまし」


 チーム莉子の乙女たちは「もうあかん」がスタートラインという職場環境に適応済みなので拠点が地表に向かって落ちているくらいでは動じない。

 自分の力が及ばない事はこの世に存在し、それに抗うくらいならば悔いなき行動を取るのがチーム莉子の乙女たちのやり方。


 何年やっていると思っているのか。


 新人のノアちゃんは加入して4カ月程度だが、実は加入して1年以上経っている。

 何を言っているのか分からないと眠たい事を申す者はきっとここにはもういない。


 時空ごとに発生する時の流れの乖離はもう履修済みのはず。


「小鳩。少し良いか?」

「あら。バニングさんがわたくしにお声がけくださるなんて珍しいですわね」


「いやな。日本の歴史について学んでいるのだが、まだまだ知識が浅く。お前の意見を聞きたい。かの織田信長という御仁は死に際して舞ったと聞く。熱盛というのものの作法を教えて欲しい」

「あの。バニングさん。それは熱盛違いですわ。敦盛ですわよ」


「ふんすっ! バニング先輩! こちらをどうぞ!! DA PUMP先輩たちがちょっと前に舞ってました!!」


 ノアちゃんがスマホを差し出した。

 バニングさんが「ほう」と感心して、続けて感想を述べた。



「ハイカラだな。家紋ベイベーと言うのは? 家紋は確か日本の紋章だったか?」


 それ、『U.S.A.』ですね。



 割とみんな死にそうになる事に慣れていた孫六ランドの乗員。

 南雲さんが1人で慌てふためいてダメな人に見えてしまう事案が発生しているが、指揮官くらいは慌ててくれないと元から希薄な緊迫感がいよいよ消失する。


「待ちぃさん!! この子がなんか知っちょるみたいなんよ! ねぇ!」

「……ほんま、現世に手ぇ出そうとか言うたアホは誰や。皇帝か。せやかて、ばあさん。オレも死にたないねん。協力するわ」


 おざなりに孫六ランドに叩き込まれた男、八鬼衆の1人で最強格だった西野ハットリ。

 どうやらみつ子ばあちゃんに再教育されたようで、口調と態度は変わらないものの思想が変わっていた。


 皇帝をアホって言った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「バルリテロリと現世を比べたらな、煌気オーラの質が違うねん。自分ら、なんやけったいなブースター使うとるやろ? それがバルリテロリの煌気オーラと喧嘩して、思いっきり反作用起こしとるねん」

「そねぇかね。対処法はあるんよね? 教えてくれぇさん」


「知らへんけど」

「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



「知らへんねんもん! しゃあないやんけ!! オレ、さっきまで何しとったんか記憶すらないねんで!? むしろこの状況でよう自分の国の事を思い出したって褒めてもろうてもええやんか!!」


 確かにそうかもしれん。

 だが、君は敵である。


 戦時下において捕虜が人権を主張できるケースと、そんなの関係ねぇに到達することで人権なんか知るかボケなすケースがある事はあまり知られていない。



「分かった! オレより詳しいヤツおるやんけ! おい! そこでカメレオンしとるお前!! もう諦めて出てこんかい!! かくれんぼしとっても死ぬで!!」


 ハットリの視線の先には壁がある。

 平らな壁である。何の変哲もない。


 今、おっぱいの話はしていません。


 その壁がズズズと動いたかと思うと、次の瞬間には人型のカクカクしたシルエットが浮かび上がる。


「おー。なんや見た事あるな? 自分。分家の子か?」

「……瀬賀セーガームシキンだ。……あの。ずっと潜んでてすみませんでした。事情、はい。もう全部。うちの大将ってまだ生きてます?」


 逆神孫六と共によりにもよって独立国家・呉に攻め込んだ男、ムシキン。

 約3時間の命を賭けた隠匿生活から解放されて、なんだか清々しい気持ちを得ていた。


 一説によると4か月の隠匿生活とも言われており、そちらの時間軸で考えると驚異的なメンタルである。

 横井庄一軍曹もかくや、さぞかし心細かっただろう。


「君は誰だ!?」

「えっ。あっ。あの……。やべぇ女児、あっ。失礼しました。お子様はおられませんか? あるいは本家の正統後継者のひ孫様は?」


 どっちも宙域で結婚資金稼ぎに行っているので、ムシキンの事を知っている者がここにはいない。

 これでは、はじめまして、よろしくお願いしますをキメている間に、今生よさようならまで終わってしまう。


「ややっ! 敵のカブトムシ先輩!! ボクはちゃんと覚えてます! ふんすっ!!」

「あ゛。女児を扇動してとんでもない事をしていらっしゃった子だ」


 ノア隊員、趣味の物見遊山が生きる。

 孫六戦にも参陣していた、この戦争でもやたらと顔の利くボクっ子はムシキンの事を知っており、動画撮影も済ませていた。


「こちらのカブトムシ先輩はですね、この孫六ランドを創った孫六先輩の部下? お友達? ズッ友先輩です! ……ややっ!!」

「ノアくん!! 君ぃ!! 戦争終わってまだ日本本部が存続してたら可能な限りの昇進を検討するからね!! 偉いなぁ!! 近頃のボクっ子はとても偉い!! カブトムシくんと言ったね?」


「あ。いえ。ムシキンです」

「そうか。ムシキンくん。君、孫六ランドに詳しいね?」


「あ。はい。それなりに。孫六のヤツ、てめぇで動かさなかったので。チームのメンバーはみんなそれなりに。はい」

「ライアンさん!! カブトムシキンくんから情報を!!」


 ライアンさんが脚力強化でほとんど瞬間移動するとムシキンの肩を掴んだ。


「失礼。貴官もさぞかし戸惑っているだろう。私はライアン・ゲイブラム。これから君の分析をする男だ。なに、20秒程度で済む。少し全身が痺れて意識が混濁するだけだ。リラックスしてくれ」

「死なないならもう何でもいいです」


 ムシキンの瞳からは光が消えていた。

 彼は莉子ちゃんのショートパンツ爆死事件を目撃しており、その瞬間にヒップアタックで象が踏んでも壊れないテレホーダイを煌気オーラなしの純然たるただの尻で粉砕したシーンにも立ち会っていた。


 思えばあのタイミングで彼の心も死んでいたのかもしれない。


「お父さん。あたしがやろういね」

「ほっほっほ。みつ子だけに仕事をさせる訳にはいきませんの。今はじじいも家事を手伝う時代ですわい」


 ライアンさんが色々と情報を解析している間に逆神老夫婦も動く。


「みつ子や、ワシの背中に!! ほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「あらぁぁ! お父さん、大胆なんじゃから!! こねぇなイチャコラ、久しぶりじゃねぇ! 年末以来かいね!!」


 結構最近にイチャコラしていたみつ子ばあちゃんが四郎じいちゃんの背中にドッキング。

 ミンスティラリアでの修行で煌気オーラ爆発バーストを完全に習得した四郎じいちゃんが解放、その膜で自分と嫁の体を覆う。


 この戦法には見覚えがあった。



 佳純ランデブーである。

 土門佳純探索員のチョイスは老練な夫婦も緊急時に採択する高度な戦法だったと判明。



「落下の原因は分かったようですからの。つまり、大気の煌気オーラを少しばかり減らせば良い訳ですじゃわい。ほぉぉぉぉぉ! 『閃動せんどう二重ダブル』!!」


 四郎じいちゃんが格納庫から外へ飛び出した。

 大気圏が現世の人間にとってどの程度アレがナニするのかは分かりかねるのでご了承されたし。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ほっほっほ。背中が痛いですの!!」


「お父さん! 女子に向かって重いとか言わんのよ!!」


 バシッと音がして、ゴギッと音もした。

 だが四郎じいちゃんは微動だにせず。


 これが老練。

 「痛みに鈍感になるのが年寄りですじゃわい」と歯を見せる。


 イケじじいに進化しようとしている四郎じいちゃん。


「やろうかねぇ!! 『万物流転の構え』!! 『餓狼吸引ウルスポイル』!! さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! バルリテロリさん! ちぃと大気の煌気オーラ! ばばあが貰うよ! ごめんねぇ!!」


 最強のばあちゃん、とりあえず敵国の煌気オーラを吸い取る。


 孫六ランドの落下が止まった。

 しかし今度は降下できないので、このままでは良い感じのデカい的である。


 みつ子ばあちゃんが艦内に向かって叫んだ。


「ライアンさん! 節子さんに頼んで呉鮮血犬デスイーターと遊べるように言うちょこういね!!」

「閣下。聞いた事のない犬種ですが。見た目をお教え頂けますか」


「チワワみたいな子よ!」

「……充分です。命を賭ける理由として!!」


 ライアンさんも開眼の気配を見せ始めた。

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