第1033話 【無理やりにでもやる日常回・その11】南雲修一の「あ。掲載順位が低い。これは安全なヤツかネタ切れかどっちかでしょ」 ~高を括るナグモさん~

 ひとしきりあっちこっちを見て来たところで戻って来たのは孫六ランド。

 勘の鋭い苦労人が気配を察知した。


「これは……。私に回って来るのが随分と遅かった!! もう既に苦しそうなところは軒並み終わってるな!? よし!! ガンダムの話とかして平穏無事に済むパターンだ!!」


 南雲修一監察官。

 監察官一の知恵者の異名は伊達ではなく、どんなシーンでもしっかりきっちりお勘定をこなしてくれる、ある意味この世界の調律人バランサーな1人。


 それは日常回においても変わらず、落とされる人数が足りていなければ安寧が溢れるはずのこの時空でも人身御供が如き被害を受け、アゲられる人数が少ない場合は趣味の話や毒にも薬にもならぬおじさんトークで1話を過ごして尺を埋めながら本人の心も回復する。

 そして勘定奉行な南雲さん。


 「もう今回は絶対にアレだよ。セーフティな方!! 知ってるんだよ、私!!」と高を括る。

 この世界で最もやってはいけない思考の1つではあるが、事が日常回に及べば意外とまかり通る事もある、配られた手札によっては強力無比を誇るカード。


「ややっ! とおおー!! こっちもですね! とおー!! むふふー!! 忙しいったらありません!! とおー!!」


 南雲さんはコーヒーを優雅に淹れてから話し相手は誰だろうと考える。

 最近の流れだと再びバルナルド様か。

 あるいは近くにバニングさんとライアンさんがいるので苦労人三者会談か。


「こちらノアちゃん隊員です! ふむふむ。福田先輩、それは命令でしょうか! 命令だと昇進査定の対象になりますよね! 命令じゃなかったら、ボクは自発的に動ける良い後輩の証明になります! つまりどっちでも良いというヤツです! 承りました! ふんすっすー!!」



 コーヒーの香りを楽しむ背後でボクっ子が暗躍している事に知恵者が気付かない。



「南雲先生!!」

「うん。なんだい? ノアくん? ああ! 君が私の相手してくれるパターンだ! 戦争始まってから私たち距離が縮まったし、立ち位置も少し似通ったものになったもんね! ノアくんはコーヒーにミルク入れるんだったっけ? お砂糖はいくつ? 私はブラック派だけど、人にそれを強いたりしないから! 美味しく楽しんでくれれば何でも良いよ!」


「本部の福田先輩からのご指示です! 伝言ノアちゃんモードです! ふんすっ!! 雨宮上級監察官が正式に処分保留扱いになったので、ナグモ監察官には申し訳ないのですが」

「……待ってくれる? どうして今、私はスカレグラーナ訛りで呼ばれたの?」


「上級監察官が2名とも不在になりましたので! ナグモ監察官に全権を委任する緊急措置が完了しました! とりあえずルベルバックとの調停をお願いします!!」

「……………………」


「敵国の突入部隊の指揮を執りながらで恐縮ですが、戦後処理も並行して作業開始願います! 雨宮上級監察官の処分次第では戦争中の特例としてナグモ上級監察官就任をして頂く可能性もございます! なお、その場合は戦後もお立場は変わらないかと!」

「……………………………」


「あ。伝言ノアちゃんモードは以上です! ナグモ先生!! ついに世界で1番強い日本本部のトップになられる日が来ましたね! 興奮しますか? ボクは興奮します!!」


 南雲さんの肺から「ひゅっ」と縁起の悪そうな音が聞こえた。



「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!」

「おおー! チャージコーヒースプラッシュです!! 動画撮っておきます!!」


 日常回でとんでもねぇ昇進をさせられたナグモさん。

 高を括ったのがフラグになったご様子。



 ノアちゃんは嬉々として働く。

 既に穴は開通済み。


「テステス! こちらノアちゃんDランク! 未来のSランクです! ルベルバックの先輩! どなたか応答お願いします!!」

「ま、待って……ノアくん……。待って……」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん!!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 鳴き声とコーヒー噴射音で意思疎通を取る時がついに訪れたのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『こちら木原久光なんだが!! ナグモぉ!! オレ様、もう出番ねぇのかよぉぉ!! 芽衣ちゃまの反応が捉えられねぇんだがぁぁ!? なぁぁ!! 芽衣ちゃま元気かよぉぉぉぉ!?』


 木原さんが芽衣ちゃんの気配を追跡できない緊急事態が発生中。


 もしや、ルベルバックで何度か行われた戦闘の影響だろうか。

 そうなるとまずその影響の責任の所在を明らかにする必要があり、もう既に明らかになっているから南雲さんのところに穴が空いた、そこまで理解しているから敢えて言及はしない賢いゴリラ、木原監察官。


「芽衣くんは元気ですよ? おかしいですね。木原さん、また雷門さんと合体しました?」


 コーヒー噴いても数秒で再起動して仕事を始める管理職の鑑。

 南雲さんは白衣がコーヒー色に染まって久しいものの、今回の心はまだ白い。


「雷門クソはなんかさっきから具合悪そうだからよぉぉ! オレ様、とりあえず芽衣ちゃまの写真を1枚恵んでやったんだよぉぉ! でもよぉぉぉ! 全然元気にならねぇからよぉぉぉ! 雷門クソはもうダメかもなぁぁぁぁ!!」


 芽衣ちゃまの写真、しかも木原セレクションとなれば大変な上物のはず。

 それでテンションが上がらないのならば、もうあかんかもしれへん。


 だが、南雲さんはその前に確認すべきことがあった。

 ルベルバックは同盟国。

 同僚の安否も心配ではあるが、異世界との渉外の方が重要性は高い。


 でも一応聞いた。



「なんでさっきから雷門さんに小学生の悪口みたいなの付けてるんですか?」


 南雲さんは雷門さんがガリガリクソと合体した事をご存じありません。



 「うにゃー」と気怠く鳴く猫が接近して来た。

 続けてササっと報告を済ませる。


「南雲さん、南雲さん」

「椎名くん? そういえば君、雷門さんたちとルベルバックで一戦やっちまったぞなー。とか言ってたね? 詳細聞いてなかったけど」


「雷門クソさんですがにゃー」

「なんでみんなして悪口言うの!? ヤメなさいよ!! 良くないな! おじさんが若い子にクソ呼ばわりされるの!! 木原さんにまでクソ呼ばわりされるとかよっぽどだよ!!」


「雷門クソさんは犠牲になったのですにゃー」

「ナグモ監察官。ぽこがポコっているので瑠香にゃんが戦闘データを端末に送ります」


「瑠香にゃんくんは頼りになるね。なんでみんなして私の事をスカレグラーナ訛りで呼ぶの?」

「ステータス『ナグモは不吉の象徴』を検出。ナグモ監察官、こちらのステータスをどうぞ。そして戦闘データも送信。うちのぽこがすみません。ですが、あの時のぽこの判断には理があったと瑠香にゃんは判断します。では」


「にゃはー!! 瑠香にゃんが優しいぞなー!! あっちでレモネード飲もうにゃー!!」

「ぽこからステータス『ビバリーヒルズ青春白書のノリ』を検出。これはいらないので捨ててください。レモネードは飲みます」


 去って行ったネコ型探索員コンビ。

 南雲さんは戦闘データを確認して、コーヒーを一口。



「あ。雷門さん、敵幹部と合体したんですか? 困るな。これ、監察官の籍をはく奪しないといけないよ。木原さんと合体したのとは訳が違うもん。えー。また一席空いちゃったよ。困るなー」


 ここは普通に消化した。



「しかし、ルベルバックに電波妨害とか起きてるのかな」

「はい! ナグモ先生! ボクにお任せです!!」


「ノアくんはもう前線に出ないで後方職に就こう。君の『ホール』だけでなんかもう色々と済みそう」

「ボクの穴で色々と済ませる!! ナグモ先生の問題発言を京華先輩に送信しました!! あと、ルベルバックは正常です!!」


「そうなんだ? じゃあなんで木原さんが芽衣くんの気配を察知できないんだろう。あの人、次元どころか時空を超えても察知するのに。……何してるの、ノアくん!! ああ! 私のスマホからラインの通知音がすごい!!」


 『修一。お前の訃報には備えていたが。ノアの穴で済ませるとは? これが噂に聞く嫁が妊娠している間に奔放キメる夫か?』という内容のメッセージが文面を変えた亜種含めて28通送られて来たので、南雲さんはまず夫として、父として釈明に取り掛かった。


 なお、芽衣ちゃまの気配を木原のおじ様がロストしている現状には少しばかり心当たりがあったので、現場の声をお届けして南雲さんの更なる飛躍を願おう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふん。親衛隊長は俺だ」

「黙れ。サービス。そなたは使い走りだったはずだろうに」

「おーっほっほ!! わたくし、皇宮秘書官の経験がございますよ! 殿下!!」

「あ゛あ゛あ゛!! この老いぼれがァ! 御身のお役にィ! あ゛あ゛!!」

「くくっ。この状況は秘匿して研究せねば嘘なのだよ」

「ぐああああああああああああああああ!!」



 多分誰かが、あるいは誰かと誰かと誰かと誰かと誰かが原因です。

 そして誰かは確実に巻き込まれています。



 南雲さんが望まぬ昇進をキメた。

 日常回なのに。


 だが、思い出して欲しい。

 南雲さんの日常は、いつもこんな感じだったのではなかったか。


 日常回の本質を最も捉えていたのは、もしかすると南雲さん回なのかもしれない。


「……卿らに問いたい。ガンダムSEEDのトークテーマを用意して待ち構えておった余はどうすれば良い? 新しいPV出たのに。アスランが案の定変な組織にぽつんといたのに。なにゆえ余にバトンが来ぬ?」

「ははっ。バルナルド様! いくらなんでも我らがこのタイミングでしゃしゃり出るのは厚かましさがオーバーランでございます。この冥竜人がお聞きしましょう。アスランはなんやかんやで終盤キラがピンチになったら飛んでまいります!! ですが、今回はシンのピンチパターンもございますれば!!」


 そうだった。

 これがあるべき日常回の姿なのだ。


 南雲さんはいつも我々に大切な事を教えてくれる。


 そして日常回を読み飛ばしたベテラン探索員がまた何人か退役してしまう。

 まったく、々を過ごすとは無なものですな。


 これが本当の日常回ってね。

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