第1030話 【無理やりにでもやる日常回・その8】リャン・リーピンちゃんのどうしたら良いか分からない初めての交際 ~純粋乙女×実直青年を見守る大人たちが色々とアレだがなんか丸く収まった~

 リャン・リーピンBランク探索員。

 台湾からの留学生で大学四年生。

 卒業を控えており、探索員として引き続き日本本部に所属する旨を既に上官の

楠木秀秋監察官に伝えている。


 クララパイセンと同い年ですが、クララパイセンは大学三年生です。


 そんな彼女だが、南極海を漂うストウェアの甲板で少しばかり物憂げな表情をしていた。

 隣にはアトミルカチームのグッドルッキングガイことザール・スプリングくん。


「どうされましたか? ……このような指摘は何か、ハラスメント的なものに引っ掛かりそうなのですが。私のために装備を随分とビリビリにされましたので、ジャケットを羽織られただけではお寒いのでは?」


 リャンちゃんがハッとした表情をしてから笑顔を見せる。


「とんでもありません! 装備は身を守るための消耗品です! ザールさんのお怪我の応急処置ができたのならとても嬉しいです!! 仁香先輩が勧めてくださった装備ですが、まさか救護機能も搭載されていたなんて!! さすが先輩ですね!!」


 この時点で仁香さんはナディアさんと会話をしていたが、「うっ! なんだか罪悪感で胸が痛い……!!」と左でもなく右でもなく、両方のおっぱいを抱きしめたという。

 水戸くんはいません。


「お心遣いは本当に光栄なのですが、私の怪我というのはかすり傷ですから。過剰な介抱を頂くとむしろ恐縮してしまいまして」

「わっ!? すみません!! ご迷惑でしたか!? 私、交際とかよく分からなくて!! とにかく自分にできる事は全部して差し上げようと! 仁香先輩がそうでしたので!! 自分本位な考え方を押し付けてしまいました……」


 ザールくんが「我が師、バニング様。私が片腕失っても戦争の大局に変わりはないかと愚考しますれば、私は左腕を折ろうかと存じます。お許しください」とリャンちゃんの献身に良くないハッスルで応えそうになり、ちょっと離れたビーチチェアーの上では仁香さんが「うっ!! よく分からないけど、私のせいでまたリャンが!? ザールさんも!?」と穢れなき後輩とちょっと穢れてしまった自分を重ね合わせて落ち込んだ。


「リャンさん。私は物心ついた時から犯罪組織に身を寄せていた男です。あなたのような可憐で真っすぐな女性とは釣り合わないかと」

「そうなんですか!? 大変だったんですね……! じゃあ、これからは正義のために犯罪組織で頑張りましょう!!」


「あ、いえ。現時点で私が罪を背負い過ぎているという話をしておりまして」

「そうだったんですか! じゃあそれ、私が8割ほど背負う事って可能ですか!? 私、ちんちくりんですけど体力自慢なので! 鍛えて頂いていますから!! 重たい物も平気です!!」



「……バニング様。私はどうすれば良いのでしょうか!? あなたに頂いたザールの名! これは忌み名でしょうに!! いえ、私にとっては大切な名! しかし、アトミルカを担うべしと付けて頂いた名を! 犯罪組織の未来の名を!! リャンさんに呼ばせて良いものですか!?」


 ザールは湖畔に建っていたラブホテルの名前らしいので、ある意味では忌み名ですが気にしなくて良いと思います。

 あなたの師は結構適当にあなたの名前を付けました。



「でも困りました……」


 再び憂いがリャンちゃんの顔に宿る。

 初対面からさほど時間は経っていないが、ずっと元気で明るく戦場に咲いた花のようだった彼女の顔が曇るとザールくんも心が陰る思いであった。


「私でお役に立てるのではあれば、何なりと仰ってください」

「そうですか? あの! 私、ミンスティラリアに嫁ぐ事になると思うのですが! この場合、国籍ってどうなるんでしょうか? 故郷の家族に仕送りを続けられるのかなって、それだけが気掛かりでして……。今は楠木さんが手配してくださっているのですが、退役したらどうしようと。専業主婦の方がやっぱり犯罪組織勤務の旦那様を支えるのは良いですもんね?」


 リャンちゃんはマジメで素直な子です。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……私の出番のようですね」


 甲板の反対側で楠木秀秋監察官が立ち上がった。

 久坂さんがすぐに対応する。


「楠木の。ちぃと待たんか。リャンちゃんがええ感じになっちょるんじゃから邪魔する事ぁなかろう」

「いえ、久坂さん。私はリャンさんの後見人ですので。ちょっと行って来ます。あの青年。……確かスプリングくん。では、まず自己紹介と信頼関係の構築を済ませてから、現状ついて聴取し、未来志向な対応を取って来ます」


 普段は後方司令官職を務める事の多い楠木さん。

 大変有能な文官なのだが、事ここに及べばその采配がアレする。



 端的に申し上げるとクソ邪魔である。



「ハゲ」

「おうよ。秀秋! ここにな、ストウェアにあったワインが転がってんだ! 俺がこれから釣った魚で一杯やろうかと思ってたが! こいつぁ、頑張ったおめぇさんにやろう! 飲みねえ!! もう我慢する事ぁねえや! なぁ、剣友!!」


「ほうじゃのぉ。家に帰りゃあガムのがおるけぇ。しばらく酩酊しちょれ」


 キシリトールの能力は吸い取った物質を別の対象に付与しなければ自分が喰らう。

 この能力が誕生した際に「ワンピースのニキュニキュの実ってこんな能力かしら?」とか思っていたらそのまんまだったので、もう活躍の機会はないかと思われる。


 熱狂的な考察もほどほどにしようと誓った。


 楠木さんがワインをラッパ飲みし始めた。

 おやすみなさい。戦後処理の時まで。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再び初々しい夫婦以上カップル未満な2人。


「素晴らしいお考えです。私でよろしければ、お手伝いをさせてください。私は日本本部から要請を受けた際、過分な賃金を頂いております。ですが、使い道もなく貯まるばかり。そもそもミンスティラリアでは現世の貨幣は使えませんから」

「えっ? でも、ザールさんのご家族のために貯金をしておくと言うのは?」


「申し上げていませんでしたか? 私は孤児ですので、家族はおりません。たまに絞められた鶏のような声を上げる方を師と仰ぎ、父と慕っておりますが。あの方は私の援助など必要としませんので」


 もう10年くらいすると介護が必要になる可能性はあります。


「ご、ごめんなさい!! 私! 知らなかったとはいえ、なんてひどい事を!! ごめんなさい!! ザールさん!! 辛かったんですね!!」

「は? あ、いえ。そのような事は」


「どうしましょう……!! こんな時、私はどうすれば良いのか習っていません!! ええと、失礼のないように!! うう……! 私、まだまだひよっこなので! ちょっと失礼します!!」


 リャンちゃんが脚力を煌気オーラで増幅させて飛び跳ねるように駆けて行った。

 「元気な人だ。……ふっ」と、無意識に師と同じ笑い方をしたザールくんである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして水着になった、いや、ならされた、いやさ流された仁香さんがビーチチェアーに腰かけて「わぁ。ペンギンさんって自由でいいなー」と目の保養をしているところにリャンちゃんがやって来た。


「仁香先輩!!」


 家族のいないザールくんと一気に親密になりたいけど方法が分からないので、とりあえず尊敬する先輩に倣って水着になりますから指導しておくんなましと申し出て、仁香さんの心が曇った。


「あのね、リャン? 水着を全ての男の人が喜ぶとか、そういうのはないんだよ?」

「ですが! 水戸さんは大変お喜びでした!! 水戸さんから仁香先輩がトレーニングを一緒にしておられる事をお聞きしました! 津軽ダンジョンの戦闘中に!! 競泳水着を見ているだけで戦争の無意味さを思い知らされるんだ、ふふふふふふふふっ。と!! 申されていました!!」


「あんの……宿六ぅ……!! リャンに何吹き込んでるんですか!! ……事実だけど! でもあれはトレーニングで! それ以上でもそれ以下でも……ある!! おっぱい見せろって言われて、ダイレクトに見せると屈したみたいになるのが嫌で! トレーニングでカムフラージュしてた!! じゃあリャン! 水着の用意してもらうね!! 安心して! やってる事は変態だけど、心は紳士な人がこのストウェアにはいるから!!」


 隣で「青春ですねー」と頷いていたナディアさんが気を利かせて「わー。おっぱいにジュースこぼしちゃいましたー」と呟くと、次の瞬間には川端さんが立っていた。

 男爵は飯作ってたはずなのに。


「なるほど。話は分かった。リャンさんに水着を差し上げれば良いのだな? 好みのデザインや色はあるか? 指定してくれた方が想像しやすい」

「……セリフだけ聞いていると完全に水戸さんの亜種なんですよね。リャンは黄色が好きなので。デザインは清楚で上品にしてあげてください」



「しかし、リャンさんは控えめだからな。ここはどすけべなデザインの方が良いのではないか? 決して邪な考えではなく、おっぱいは視認面積から得られる成分というものがあってだな。この場合はどすけべなものを。ああ、どすけべというのは一種の形容表現で悪い意味ではない」

「了!! 川端さんのご指示に従います!!」


 仁香さんの拳が唸った。



 数分後。

 黄色いビキニを身に付けたリャンちゃんがシュタタタと駆けてザールくんの元へ戻って来た。


「お待たせしました!!」

「はっ。お気になさら……そのお姿は、どうされましたか!?」


「はい? あ! やっぱりどすけべというタイプの方がお好みでしたか!?」

「は? …………。………………よくお似合いです!!」


 ザールくんはミンスティラリアで定期的に行われるアリナさん参加型の水着回の監視員としてひっそりと仕事をしているので、現世の女子の水着事情には少し詳しい。

 特に「どすけべ」とか言う穢れなき乙女に言わせたくない言葉も、莉子〇ゃんとかクララパ〇センとかが平然と口にするので履修済み。


「リャンさん」

「はい!!」


「私でよろしければ、お傍で支えさせてください」

「わぁ! よろしくお願いします!!」


 ザールくんは癖の強すぎる最終形態アトミルカで10番としてシングルナンバーたちのはっちゃけを一身に受け止めて来た男。

 彼も気付かないうちにだが「放っておけない系男子」としての素養を十二分にゲットしていた。


 リャンちゃんは放っておいたら危ない。

 ザールくんの心に灯った愛の炎は見守り系であった。

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