第1027話 【無理やりにでもやる日常回・その5】塚地小鳩に愛をこめて花束を ~苦労ばかりさせているのは忍びねぇ。苦労かけてる莉子ちゃんにだけブライダルキメさせるのは申し訳ねぇ。~

 温度の急激な変化は血圧が上下に凄まじく大暴れして、失神、不整脈、脳震盪などを起こす。

 最悪の場合は心筋梗塞や脳梗塞を起こし突然死に至る場合もある。


 特に冬場に発生しがちなこの症状をヒートショックと呼び、注意喚起がなされている。

 高齢者の病気というイメージが先行しているため油断しがちだが、若者だろうと子供だろうと容赦なく襲い掛かって来る疾患であり、入浴時などは入念な注意が必要とされる。


「……あんまりですわよ。どうしてわたくし、いつも変なものを見つけてしまいますの? これ、バルリテロリの方ですわ。角が生えておられますもの。そしてなんだか気持ちの悪い触手みたいなのが巻き付いてますわ。……何なんですの、これぇ。わたくしが見捨てられないって知っててですわよね? ひどいですわよ……」



 ほのぼの魔王城からの急激な温度差で小鳩さんの豊かな胸が痛んでいた。

 芽衣ちゃまの次にチーム莉子に入ってしまった運命を呪ってください。



 小鳩さんは六駆くんに「莉子の話し相手が欲しいんで!」と日本本部の戦いで疲弊しきっていた身体は回復スキルで、枯渇寸前だった煌気オーラは逆神六駆で採れた産地直送最強の煌気オーラを太ももにお注射されて、万全の状態にされた挙句お姫様抱っこで連れ去られて孫六ランドにやって来た。


 しばらくは悲観していたが「こんな事ではいけませんわよ、小鳩!! 探索員としてやっていくと決めたのですから! 理不尽にくらい打ち勝って見せますくぁwせdrftgyふじこlp」と、心を奮い立たせたところで変なものを拾った。

 諸君、覚えているだろうか。


 南極海でサービスさんが芽衣ちゃんに「みっ。穴を塞ぐです」と指示を受けて、とりあえず持っていた者を穴に向かってぶん投げた事を。

 ぶん投げられたのがこちら。


 西野ハットリ。

 八鬼衆最強の男としてミンスティラリアを襲い、割と善戦したもののライアン・ゲイブラム氏とラッキー・サービス氏を勝手に釈放させられるという超法規的パワープレイの前に成すすべなく敗れ去った男。


 バルリテロリの逆神家、通称バル逆神家の初出であり、アトミルカチームを相手に圧倒する展開を見せたため「こいつひょっとしてミンスティラリアを落とすのか」と少しばかり界隈をざわつかせたが、アトミルカチームは餅ついてたというハンデ戦だったため、結果的に弟の西野バジータも召喚した挙句にやられ出番が永久に失われた男でもある。


 既に八鬼衆は時代の敗北者じゃけぇ。

 バル逆神家とはいえ、西野家も分家。

 皇族逆神家がばったばったと斬り伏せられている今、復活を遂げても1行で処理されかねない。


「どうしてわたくしばっかり……! もし、生きておられますか!? ……できれば死んでいて欲しいなんて思ってしまいましたわ! あっくんさん、わたくしお嫁さん失格ですわ! 五十五さん! お姉ちゃん危うく姉の道を踏み外すところでしたわ!! もし!! ……あ。生きてましたわ」


 幸か不幸か、多分幸せ。

 西野ハットリ、小鳩さんに介抱されて息を吹き返す。


 彼はサービスさんの腋から伸びる管で『サービス・ジャック』を4日間も発現されっぱなしだったため、煌気オーラ供給器官はもちろん、生物としての時間が停止していた。

 時間停止については有識者がいないためこちらでは判断できかねるが、瞬間冷却した魚などは仮死状態になり、解凍した際に息を吹き返す事がある。


 西野ハットリは八鬼衆最強の男。

 ちゃんと息を吹き返した。


 なお、時間停止もののAVについては逆神兵伍に。

 時間停止ものの薄い本に関してはすぐそこで莉子ちゃんとカキフライ食ってるどら猫にお問い合わせください。


 多分どっちからも返事はありません。


「……なんや!? ここ、どこや!? 俺はどないなったんや!?」


 死んでました。

 一人称の確認のために記憶の回廊に行かなくてはならないくらいの時間を死んでました。

 この世界の時空では4日ほどですが、観測者時空だと約半年ぶりです。



 君が「せやかて工藤」と言わせたいだけに産み出された事は思い出しました。



「良かったですわ! あの。確認なのですけれど」

「お、おお。なんやろ? 綺麗な姉ちゃんの膝枕とか、俺は死んだんか?」


「勘違いしないでくださいまし!! わたくしの膝枕はあっくんさん専用ですのよ! あ! 違いますわよ、五十五さん! 五十五さんもオッケーですわ! ただ、お年頃なのでお姉ちゃんの膝枕は恥ずかしいかと!! 違いますのよ! 五十五さんを仲間外れにした訳じゃありませんのよ、お姉ちゃん!!」

「……なんやこの姉ちゃん。情緒むっちゃヤバいやんけ」


「メンタルくらいぶち壊れますわよ!! それよりもあなた!! どなたと戦ってお死にになりましたの!? 六駆さんじゃありませんわよね!?」

「六駆……? 誰や、それ」


「セーフでしたわ!!」

「けったいなババアはおったで? 逆神煌気オーラ垂れ流しよるねん。あの化け物、逆神家なんかいな?」



「アウトでしたわ!! 『銀華ぎんか』!! 一輪!! 『お窒息死オダマリナサイ』!!」


 けったいなババアも乗船している孫六ランド。

 小鳩さんが騒動に巻き込まれる事が確定した瞬間であった。



「あらぁ! 小鳩ちゃん! その子どねぇしたんかね!? なんか見覚えある子じゃあね! ……どこで見たんやったかねぇ? お正月のテレビじゃったかねぇ?」


 そしてすぐにけったいなババアがやって来た。


 小鳩さんは考える。

 ハットリを守るべきか。


 喩え敵勢力が確定したとしても、瀕死の状態からどうにか今生へと舞い戻ったのにばあちゃんの姿をした死神に「こちら拾いましたの!!」と差し出して良いものか。

 それは久坂一門の「敵でも敬意をもって、場合によっちゃあ助けんといけん」の教えに反するのではないか。


 スキル使いの師匠で人生の師としても慕っている久坂剣友はその行動理念によって、久坂五十五という得難き息子と巡り会ったのではなかったか。

 ならば、師の教えに従い、ここはチームの義を曲げてでも西野ハットリを助けるべきではないか。


 迷える小鳩さんの背中を小さな手がトンと押した。


「ややっ! 小鳩先輩! 日本本部のやじ馬してたらあっくん先輩に見つかっちゃいました! せっかくなのでお話しますか? ボクは小鳩先輩の可愛い後輩です! ふんすっ!!」

「え゛っ!? …………おばあ様! こちら、バルリテロリの方ですわ! おばあ様の事をご存じの様子ですわよ!! これ、差し上げますわね!!」


 小鳩さん、愛に殉ずる。

 西野ハットリ、ほな、また……。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「もしもし! あっくんさんですの!? あっくんさん! あっくんさん!! 聞こえてまして!?」

『あぁ。聞こえてらぃ。ったく、ノアの野郎が煌気オーラ力場の中に穴空けやがるからよぉ。福田さんにどうにかしろって言われてみりゃ、小鳩と話ができんだからよぉ。くははっ。雑用もしてみるもんだなぁ』


 あっくんはもう許された。

 世界相手に何十年も喧嘩してたアトミルカとか、探索員協会を乗っ取って世界を手中に収めようとしていたピースとか、その辺が許されているのである。



 異世界を1つ傀儡政権にしたことくらい、いつまでも悔いているあっくんの株が上がる装置でしかないまである。

 倫理観とかをこの世界に求めてはいけない。



「うえぇぇん……。あっくんさぁん……。わたくし、頑張りますわ……!! あの、それで……この戦いが終わったら……!! あっくんさん……!!」


 先ほどの逆神(小坂)莉子ちゃんと逆神六駆の激闘をちゃんと見ていた小鳩さん。

 「わたくしも、け、けけ、結婚式!! したいですわ!!」と豊かな胸を昂らせていたが、こちらのお姉さんは大変にピュア。


 「結婚したら妊娠しちゃいますわ!!」と考えており、「急に妊娠したら職場に迷惑をかけてしまいますわよね……」と自制心を働かせている。

 莉子ちゃんにブラジャーの破片を煎じて飲ませたい慎ましさ。


 今、おっぱいのサイズ慎ましさについては話してません。


「あ、ええと。帰ったら、あっくんさんの好きなお料理を作りますわね!」

『あぁ。……ちっ。うるせぇ。和泉さんよぉ。五十五もよぉ。……分かってらぃ』


 何やらあっくんの背中が騒がしい。


「あ! 申し訳ございません! お忙しかったですのよね! お声が聞けただけでもわたくし、とっても嬉しかったですわ!!」

『あぁ。そうかよ。……小鳩よぉ。おめぇの作る味噌汁はうめぇんだよなぁ』


「そ、そうですの!? いつもお出汁を工夫しておりますのよ!」

『……ちっ。そうじゃなくてよぉ。……毎日飲みてぇ味噌汁だって事なんだよなぁ』


「承りましたわ!! お任せくださいまし!!」


 何かが伝わらない。

 そんなじれったさが発生中。



 こちら、この世界では大航海時代の香辛料よりも希少価値の高いものとなってございます。



『……ちっ!! 小鳩ぉ! 逆神の野郎に先越されんのはよぉ! 俺ぁ気に入らねぇんだよなぁ! あの野郎、俺の貸してやる漫画に落書きばっかりしやがってよぉ!! だからよぉ……! 野郎と小坂よりも先に、俺らが結婚キメっからなぁ? 問題あるかぁ!?』

「えっ? あっ。えっ!? あの……えっと……あっくんさん……!?」


『……逆神に言っとけぃ。クソデカ死亡フラグおっ立てたからよぉ。小鳩を守んねぇと、おめぇがトラボルタから貰う予定の金は全部この阿久津浄汰が横取りするってなぁ! 俺ぁ性格が悪ぃもんでよぉ。てめぇの女守るためなら何でもするんだよなぁ! くはははっ!!』


 それから小鳩さんはいくつかの言葉を交わして、穴の前から立ち上がった。

 続いて、四郎じいちゃんの元へと向かう。


「おじい様。槍を一振り頂けます? 先ほどの戦いで失くしてしまいましたので」

「そりゃあええですが。なんぞ良い事でもありましたかの?」


「ええ! 戦う理由ができましたわ!!」

「ほっほっほ! とびきり良い顔をしておられますわい!」


 最後に六駆くんへ向けて、小鳩さんらしからぬ大声で叫んだ。


「六駆さん! わたくしが死んだら、資産がなくなりますわよ!!」

「え゛っ!? ……じゃあ絶対に守ります! あ゛あ゛あ゛! 莉子ぉ!? 違うよ! これは仲間として!! あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 六駆くんがリコられている間、小鳩さんは幸せだった。

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