第1000話 【魔王城からみみみみ・その8】「みっ。穴を塞ぐです!!」 ~記念すべき1000を飾るのが芽衣ちゃまなのは運命と言う名のディスティニーか~

 こちらはミンスティラリア魔王城。

 記念すべき魔王城である。


「皆さま! カリッカリの照り焼きができました! 唐揚げを照り焼きにしてみたところ、これがなかなかいい具合に仕上がりまして! シミリート様のおかげです!! さあさあ! どうぞ、どうぞ! お熱いうちに!! ですが火傷にはお気をつけください!!」


 バッツくんが予告通り、芽衣ちゃまのご要望にお応えしてカリカリの照り焼きを作って来た。

 それをみんなに配ると「おめでとうございます!!」と声を上げた。


「みみっ。六駆師匠はやっぱりすごかったです。芽衣たち見てるだけだったのに、なんだかすごく疲れたです。……おめでたいです?」

「ははっ! 何やらおめでたいという煌気オーラを私は感じておりますが!!」


 シミリート技師が「くくっ」と笑いながらドリンクバーを運んできた。


「節目と言うものは何にでもあるものなのだよ。戦争にも、汚れた世界にも。さあ芽衣殿。お好きなファンタを申し付けられると良いのだよ。私がお注ぎしようじゃないかね」

「みっ! 戦争中なのにおめでとうって言うの、良くないと思うです!! み゛っ!!」



 お祝いは終わりです。

 人が命をかけて戦っていると言うのに、1000とか1000とか。


 まったく、どうかしている。



 芽衣ちゃまたちミンスティラリア魔王城チームはシミリートモニターで本部の上空から逆神六駆の奮戦を観察していた。


「……一方的な蹂躙ではないのか? 妾には日本語が少しばかり難しいが」


 奮戦です。


 圧倒的な勝利に見えたが、1つ間違えると危ういシーンはいくつもあった。

 じゃあ1つ間違えたら危険が危ないはたくさんできるじゃないか。

 日本語というものは難しい。


「ふん。逆神六駆。高みに立つ者としてはお粗末な戦いだったな。もっとスマートにチュッチュチュッチュチュッチュ」

「サービス。練乳がかかっていないものまでチュッチュするな。それはもうただの食べ方が汚い人であろう。……妾の出陣はまだか!? それが叶わぬのならばせめてツッコミスキルを所持しておる者を早く寄越すのだ!! 耐えられぬ!!」


 アリナさんがちょっとイライラしながら照り焼き唐揚げ、あるいは唐揚げ照り焼きを2つ摘まんでハフハフと口に放り込む。


「バッツ。ビールを飲んでも良いか?」

「私は良くないと思いますが! アリナ様のご命令とあらば! 芽衣様に怒られる用意はできております!! バニング様にアリナ様の事を託されましたので!!」


「みみっ! ちょっぴりくらいなら良いと思うです!! 芽衣もファンタ飲んでるです!!」

「……芽衣から母性を感じる。妾に子がデキたら芽衣。一緒に育ててくれるか?」


「みっ! バニングさんが泣きそうだから遠慮するです!!」

「……時に突き放す。これが母か」


 芽衣ちゃまは戦いに赴かない状態が続いており、各所で強化イベントが発生している事を考えるとこの後で爆心地に召喚されたらば危険が危ない。

 が、母性は強化されている。


「ふん。アトミルカの首領よ。控えていろ。芽衣ちゃまは俺を導いてくれる存在だ。芽衣ちゃまをトップに俺はネオピースを旗揚げする。そして世界をみみみ色に染め上げる」

「みっ! やらないです!!」



「ふん。間違えた。ラブ&ピースを旗揚げする」

「みみっ! それなら芽衣も協力するです!!」


 六駆くんをお金で釣るより芽衣ちゃまに土下座してサービスさんを本部に派遣した方が色々とスムーズだった説は未だに識者の間でも根強い。



「サービス。そなた、厚かましくないか。新参者であろう。言っておくが、妾は存在がほのめかされたタイミングを基点とした場合、もうこの世界に長らく存在しておるのだぞ」

「ふん。アトミルカの首領。俺は出番が多かった。自軍の拠点で意味深に引きこもっていたお前と同列に語るな。俺は最初から最前線で逆神六駆を刃を交チュッチュ、組織のトップとして新しいチュッチュをチュッチュした事を忘れチュッチュ」


「……貴様。芽衣に重用されているからと!」

「ふん。事実だ」


「妾は水着回を芽衣と過ごしている!!」

「ふん。チュッチュチュッチュチュッチュ。チュッチュチュッチュチュッチュ」


「都合が悪くなると練乳に逃げる!! この矮小な男がどうして妾の後で敵の親玉みたいな顔をする!! そうであろう、芽衣!!」

「ふん。高みに立つ天使には言わずとも伝わるチュッチュチュッチュチュ」


 芽衣ちゃまは高まった母性によって、既に最強格の使役を完了させている。

 現在ファニコラ様から借りている玉座でセクシー目指して足を組んで「みっ!」と鳴くだけで現世を滅ぼせるだけの力を得ている事に気付いていないのは、本人だけであった。


「みー。アリナさんとサービスさんが仲良しで芽衣は嬉しいです! 照り焼きが進むです!! ファンタもグレープからメロンソーダにしちゃうです! みーみーみー!!」


 和気あいあいとした空気の中、モニョっと空間が歪んだ。

 芽衣ちゃまがすぐに指示を飛ばす。


「み゛っ! サービスさん! 穴を塞ぐです!!」

「ふん。すまんな、ノアちゃん。この魔王城は芽衣ちゃまのものだ」


 ノアちゃん通信士、締め出される。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ノアちゃんには強化イベントが来なかった。

 だが、彼女は勝手に謎の方向へ進化を続けているので特に強化する必要もなくオンリーワンのトリックスターの道を往く。


 サービスさんの腋から伸びる管で穴を潰されたが、日本本部に出していた穴を引き上げているのでもう1つ発現。

 無事に連絡路を確保した。


『うああー! 酷いですよ、芽衣先輩!! どうしてボクを仲間外れにするんですか!!』

「み゛ー。侵入を許してしまったです。仕方がないので諦めるです。ノアさんの質問に答えると、芽衣にとって面倒な事しか言わないからです。み゛っ!!」


『こちらはバルリテロリ宙域に差し掛かっています! 小鳩先輩が涙目でプルプルしながら逆神先輩に連れて来られました! つまり! 芽衣先輩が来てくれたらチーム莉子が揃うという事!! やっぱり最終決戦はチーム莉子が揃わないといけません! 映え的に!』



「みっ! 穴を塞ぐです!!」

『うあああー!! まだ! まだ芽衣先輩の出番には早かったです! 状況確認と定時連絡だけさせてください! ノアちゃん通信士のポジション剥奪だけはご容赦を!!』


 ふざけながらも仕事をするノアちゃん。

 はっきりと見える逆神流の胎動。


 芽衣ちゃまは「みっ。そろそろ逆神流を破門されたいです」と少しだけ思った。



 六駆くんが孫六ランドに帰還。

 小鳩さんをお土産に持って来たことで、莉子ちゃんの話し相手も獲得。

 万全の構えで敵に罠を仕掛けられているっぽいとほとんど確信している宙域にあと10分そこらで到達する旨を後方司令官にご報告したノア隊員。


『あと、福田先輩からの伝言があります!』

「み゛ー。それもあんまり聞きたくないです。でも聞かなくちゃです。芽衣は皆さんに比べてこの戦争では圧倒的に仕事をしてないです。嫌でも我慢して聞くです」


 芽衣ちゃんがいないと通信網がとっくに壊滅しているので、サービスさんを使役している事を含めて仕事量はトップクラスなのだがそれを自覚しないみみみと鳴く可愛い働き者。


『ミミさんはご無事です! 今、滋養強壮剤を負傷者に配っているそうです! さすが芽衣先輩の妹!! 是非とも月刊探索員の表紙を姉妹の水着グラビアで飾りたいです! ふんすっすー!!』

「みみぃ! とっても良かったです!! ……ノアさんが芽衣の良かったをグラビアに前向きとして捉えるのは分かってたけど、芽衣は良かったと言ってしまうです。もうミミさんがやりたいなら芽衣は付き合うです。み゛ー」


 芽衣ちゃまの水着グラビアが戦勝祝いになるか。


「ふん。それは芽衣ちゃまに対する不敬だ。ただの愚民に与えるにはあまりにも神々しすぎる褒美。……まずは俺を倒してから戯言を吐け」

「ほう。珍しく妾と意見が合うな、サービス。芽衣が水着になる時はミンスティラリアだと決まっておる。日本本部を抹消する事になりかねんが、止むを得まい」


 芽衣ちゃまのあられもねぇ姿を拝むためにはボス格を2人倒す必要があり、どうにかこの2人を倒しても時空を飛び越えて「うぉぉぉぉぉぉん」と鳴くおじ様が出現するのも確実なので、戦勝よりもハードルが高いご褒美になった。



 諦めてください。

 芽衣ちゃま水着争奪編が200話くらい続いたら世界が死んでしまいます。



『何というラスボス感……! 芽衣先輩がラスボス、あるかもです! 興奮して来ました!! あ! 続きです! 南極の支援に手が回らないので芽衣Bランクにお任せしたいと福田先輩が言ってました!』

「み゛……。福田さんの指示に嫌ですとは言えないです。けど、芽衣には荷が重すぎて肩が外れそうです」


「ふん。芽衣ちゃま。俺が」

「下がれ。妾が出よう」


 もう芽衣ちゃまが責任を感じる度にボス格が勝手に出撃しそうになる。


 通信を終えてスマホを手に取るみみみ後方司令官。

 そして久坂さんに電話を掛けた。


 「みみっ。たった10分で戦局は変わってないです。きっと変わってないです。みみみっ」と願いを込めて。


『こちら久坂じゃわい』

「みっ! 木原芽衣Bランク探索員です!!」


『ええタイミングじゃったわ! なんかのぉ。上空の浮島がゆっくり落ちてきよるんよのぉ。ありゃあ、このままじゃと1時間もせんうちに南極に堕ちるで。まずいじゃろのぉ。日本の管轄じゃないとこに日本が現場におって謎の浮島が落下したら。一応、報告しちょくけど。芽衣ちゃんは聞かんかった事にしてええで』


 芽衣ちゃまは少しだけ沈黙した。

 責任感と葛藤したのだろうか。


 数秒の後、彼女は元気よく答えた。



「みっ!! 芽衣、ちょっとよく聞こえなかったです!!!」

『ひょっひょっひょ! それがええ! 川端のが乗り込んじょるから、どうにかするじゃろ!!』



 川端一真男爵。

 爵位を守りフランスへ亡命をキメる事ができるか。


 日本おっぱい征夷大将軍の最後の戦いが始まる。

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