第986話 【魔王城からみみみみ・その7】「み゛っ。……よく聞こえなかったです!!」 ~打牌「逆神先輩が現世に戻りました!!」という悲報。芽衣ちゃま、これをスルー。~

 こちらは現世の後方総司令官・木原芽衣ちゃまがおわす異世界ミンスティラリア。

 現世におらんやんけと申されるなかれ。


 リモートで色々できるなら司令官は安全な場所に下がっているのが良い。

 その点、ミンスティラリア魔王城のセキュリティは堅牢。


 環境破壊されても数週間でサツマイモ畑が元に戻るほど。

 六駆くんや莉子ちゃんやみつ子ばあちゃんがガチでスキル使ってもクレーターができる程度で済むほど。



 説得力しかない、逆神六駆直轄領である。

 自治権は現地に与えております。



「みみっ。サービスさん、ご飯どうぞです!!」

「ふんっ。照り焼きはもう飽いた。やはり俺には練乳があれば」


「みっ! 好き嫌いはめっ! です! 照り焼きあと3つ食べたら、莉子さんのお部屋から持って来たミスタードーナツコレクションで好きなの1つ選んでいいです! 練乳もかけていいです!! みみみっ!!」

「……ふんっ。悪くない!!」


 ニィっと表情を歪めるサービスさん。

 既に芽衣ちゃんによって躾されている様相を呈しており、このままでは「ふん。木原芽衣は俺の母親になる女性だ」とか言い出しかねないくらいに子育てされていた。


 ピースの首領として現世に攻め込んだ時には周囲を恐怖させ、六駆くんに「腹が立つなぁ!!」と言わしめた狂喜の表情も、今では不細工なブルドッグが飼い主に褒められて顔をくしゃくしゃにして喜んでいるように見えてくる。



 今、きたねぇブルドッグの話はしていません。



『こちらボクです! 平山ノア隊員です!!』


 照り焼きに練乳ぶっかけて腋から伸ばした管を口に運んでいるサービスさんの横に空いている穴から声がした。


「ふん。ノアちゃんか。指定のものを言え。すぐに取って来よう」

「……そなた。……もう少女たちの道具であるな。……中身は100を超えておるはずであるが。……いや、楽しそうゆえ、妾は無粋な事を言うまい」


 普段はチーム莉子がご飯食べる時に使っているテーブルにいるアリナさんが、申し訳程度のツッコミで仕事をする。

 彼女は早くツッコミ不在の魔王城から出て行きたい。


 あるいはツッコミのできる人員に来てもらいたい。

 それが敵でもツッコミ役になり得るのならば構わないと考えている。


『芽衣先輩! お伝えしておきたい事があります!!』

「み゛っ。ノアさんからお伝えされることで良いお話は聞いた記憶がないです。一昨日も芽衣のインナーをクララ先輩の洗濯籠に入れたとか言われたです。芽衣が全部洗ったです。クララ先輩は好きです。けど、熟成発酵されたクララ先輩のインナーはあんまり好きじゃないです。み゛み゛っ」


 サービスさんが頷いた。

 続けて言う。


「ふんっ。……では、ノアちゃんの穴を塞ぐか」

『うああー!! ボクより芽衣先輩の方がはるかに優先順位が高くなってました!! ボクの穴を塞ぐとか、犯罪臭が漂って興奮します!! でもえちち同意年齢が引き上げられたと言っても16歳未満! 未満は当該の数字を含まないので!! あ! ボク、合法的にえちち要員にされる可能性がワンチャンありますね! 芽衣先輩! 芽衣先輩もイケます!!』



「みー。サービスさん、穴を塞ぐです!!」

『うあああー!! すみませんでした!! ノアちゃん通信士のポジションはく奪はお許しください! もう言いません!!』


 補足しておくと「同意」がなければ即処されます。



 ノアちゃん通信士が悲報を持って来たのだが、もたもたしていたので報じる前に悲しみがこんにちはした。

 ミンスティラリアにも轟く凄まじい煌気オーラ反応。


 この異世界は現在、独立国家・呉と門で地続きになっているミンス呉リア。

 ちょっとの入口からでも伝わる圧倒的なプレッシャーを感知できない者はこの場にいなかった。


「くくくっ。英雄殿のご帰還か。何をどうやったのか興味があるのだよ。さて、ダズが南極とやらで死んでいるのでバッツ殿にお願いした。新しいモニターをご用意したのだよ、芽衣殿。こちらで現況を視認されると良い」

「こっちでよろしいですか!? あ! 逆光で見えづらいですか!? では、こちらに!!」


 芽衣ちゃまが目を逸らしたのは現実が見えづらかったのだが、バッツくんが気を利かせてものすごく良い配置にデカいモニターを置いたので「み゛っ」と小さく鳴いたみみみお客様センター長。


「相も変らぬ凄まじい力であるな。これは日本本部の上空か」

「……みみっ。ノアさんはどうしてこれを芽衣に知らせるです? 芽衣はダメダメだけど、こんな惨劇はさすがに自力で気付くです」



『むふふー。芽衣先輩が実質的な最上級指揮官になっている気がしたからです!! ボクはいつも強い者に平伏する事に定評のある平山ノア!! これからはホットな話題を芽衣先輩のお耳にダイレクトでお届けします!! ふんすっすー!!』

「み゛ー。ものすごく嫌な役回りを持って来られてしまったです。これならバルリテロリに取り寄せバッグされた方が良いです。しかもこれ、芽衣知ってるです。芽衣が指示出すとかそーゆうのじゃなくて、芽衣がリアクション取らされるヤツです。この世界の指揮官ってだいたいリアクション取ってる間に現場が勝手に動くです。そっちも芽衣知ってるです」


 芽衣ちゃまは大変聡明な乙女。

 16歳の高校1年生です。



『つまり! 芽衣先輩にはこれから戦局の動きを逐次知ってもらう必要があります! 南雲先生が真っ白に燃え尽きたので! ふんすっ!!』

「みー。みーみーみーみー。みみー。……ちょっとよく聞こえなかったです!!」


 そして芽衣ちゃま、この悲報をスルー。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 スルーをしてから、ちゃんと悲報とは向き合う。

 一度「聞いてないです」と言葉に残すことで、のちのちの責任問題などから離脱する事ができるのだ。


 彼女の周囲には責任から逃れようとするきたねぇおっさんたちで溢れているので自然と身についてしまった。

 南雲さんはとても綺麗なおっさん種。


「みみみっ。本部に連絡しようにも状況が分からないです」

『はい! 芽衣先輩!! ボクの穴ちゃんが見てます!! 地上では加賀美先輩がギリギリ戦える感じで、屋払先輩は負傷してキッスしてます! 和泉先輩は血を吐いて、佳純先輩がおっぱいレシーブしてるので忙しそうです!! 交戦中なのは北側の小鳩先輩、あっくん先輩、五十五先輩! あとは拠点で筒にハマってる雨宮先輩とエヴァ先輩! 鎌振り回してるよし恵先輩と無表情の福田先輩です!! 皆さん電話に出られる状況じゃなさそうです!!』


「みっ。……ノアさんが『ホール』で通信してあげたら良い気がするです?」

『すみません、芽衣先輩!! ボクの穴ちゃんはホットな場所にしか出せないのです!! どうせ逆神先輩が行ってむちゃくちゃする場所にわざわざ出しても、ちょっとしたら戦場変わっちゃうので煌気オーラリソースの無駄遣いです!! ふんすっす!!』



「み゛っ。サービスさん。穴を塞ぐです」

「ま、待て! 芽衣!! 妾もそなたの気持ちは察するに余りあるが、わざわざ通信網を脆弱にする必要はないと思うが!? ノア! 芽衣の神経を逆撫でするな! 芽衣がやさぐれて喜ぶのは一部の病んだ者だけだ!! サービス!! そなたは嬉しそうな顔をするな!! 一部の病んだ者!! ……どうして妾がこのような役回りを!!」


 アリナさんの戦場に出たい熱が上昇していくばかりであった。

 死を覚悟して出兵して逝ったまだいってねぇバニングさんを思うと言葉にできない。



 シミリート印のモニターをみーっと見ながら、芽衣ちゃんが判断を出す。

 彼女じゃなくてもこの判断にしかたどり着かなかっただろう。


「みみっ。日本本部は六駆師匠にお任せするです。芽衣は南極の久坂さんにお知らせしておくです。さっきバルリテロリに向けて師匠たちが出発したってお電話したのに、数分で六駆師匠の煌気オーラ反応が絶好調な感じで現世に出てきたら意味が分からなくて困るです。……あとはしばらく見守るです!! みっ!!」


 逆神六駆という動く爆心地が降臨する以上、その現場に「今から焦土と化しますよ」と連絡しても意味はない。

 「これからタイキックされますよ」ならば尻に力を込めて衝撃に備える事も叶うが、「これからブラックホールが生まれて吞み込まれますよ」と予告されて、人に何ができるだろう。


 祈る時間すらないかもしれない。

 ならば、いたずらに絶望を与える事をみみみと鳴く天使は良しとしなかった。


 後方司令官としては誤った判断だろう。

 現場との連絡を放棄するなど、あってはならない。


 が、逆神六駆に関する事例は超法規的措置が基本。

 存在が特異点なのだから、杓子定規な対応をしたところでパックンちょされて終わりである。


 逆神六駆の門弟である芽衣ちゃまの判断こそが尊重されるべきではないか。


「皆さん! ダズモンガー殿がお留守なので、私がせっせと食事を作りますよ! リクエストの照り焼きがありましたらお申し付けくださいね!!」

「みっ! 芽衣、カリっとしたヤツが良いです!! 照り焼きなのにカリカリした矛盾を食べたいです!!」


「なんと! 挑戦的なご要望ですね! バッツ・ホワン・ロイ! 承りました!! 照り焼きへの挑戦、私が引き受けましょう!!」

「みみー!! 楽しみです!!」


 芽衣ちゃまは照り焼きに感情を切り替えた。

 これが正しい逆神流使いのやり方。



 真正面から向き合ってもどうしようもない事からはしばし目を逸らす。

 さもなければメンタルがやられてスキル使いとしても役に立たなくなる。


 メンタルの保護こそが肝要なのである。



「くくっ。バッツ殿。ここに私の開発した新しいフライヤーがある。照り焼きと揚げものを融合させてみる気はないかね?」

「ボンバります!!」


「…………南雲殿のツッコミ力は偉大だった。妾なぞ、ただ煌気オーラが噴き出る年齢不詳の女ではないか。今では煌気オーラも有限。噴き出すのは乾いた笑い。ふふっ。……この世界では無価値、か」


 アリナさんがミンスティラリアの緑色の空を見つめた。

 「なんかキモい気がしてくるな。確かに」と旦那と価値観を共有する。


 空の色は分かるが、明日の色は分からない。


 みんなそういう世界で生きている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る