第942話 【時系列の乱れる日常回・その13】玉ねぎの呉通信 ~「反省してますぅ。せやから、こっち来るのは勘弁してもらえへんやろか? あかん? そうか、あかんかぁ……」~

 独立国家・呉。

 そこには植え替えられた玉ねぎがいた。


 彼女は確かに強かった。



 あと倫理観とかなかった。



 異世界・デトモルトの卓越して超越した技術と科学力を片手に「知的好奇心を満たしたくて震える」という本来はデトモルト人が持ちえない感情をゲットした突然変異種。

 ラッキー・サービス氏が来訪者として居を構えてからは積極的に現世征服の片棒を担ぎ、せっせと兵器を量産しては発進させ、主にミンスティラリアと御滝市の2か所で壊滅的な被害を出した、ピースの中で「やっちまった格付け」でも最上位。


 とはいえ、彼女もラッキーちゃんと出会わなければ凶行に至るきっかけを得ず、おとなしく仲間の玉ねぎに囲まれて長い人生を悶々と過ごしていたはずである。

 その点では10割過失があるとまでは言い難い。


 9割9分くらい。


 そして犯した罪に対して受ける罰も特大。

 サービスさんが芽衣ちゃま党員としてニィっと表情を歪めていたり、辻堂さんが結構楽しそうに実質的な復隊をキメていたり、ライアンさんが逆神流の門弟になっていたりする中、こちらの玉ねぎだけは未だに完全なる捕虜というか、鹵獲された後というか、所有権と人権を奪われて多分もう返ってこないというか、割と永遠に続きそうな懲役を喰らっている。


 玉ねぎの名前はペヒペヒエス。

 この世界で結構出て来た科学者、技術者の中でも傑出した頭脳を持ち、愚かにも呉のお嬢様たちに喧嘩を売ってしまったおばちゃん。


 そんな彼女が今回は色々と答えてくれます。

 時系列は現在時空。


 孫六メカ、正式名称・メカサターンが墜落しまくった後の呉からお送りします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「玉ねぎさぁん!! ちょっとぉ!! 玉ねぎさぁん!!」


 呼ばれていますよ、ペヒペヒエスさん。


 呉のお嬢様たちは駆け出しの乙女でも日本本部の基準に当てはめると最低でもAランク、基本はSランク程度の実力を秘めており、そんなお嬢様が数人で徒党を組まれると万全の対策を十重二十重に駆使した在りし日のペヒペヒエスでも危険が危ない。

 そして今のペヒやんは武器もなければ反骨精神もなくなっており、名前を呼ばれれば全力疾走しながら低姿勢で駆けつけるという器用な対応をしている。


「はいぃ! なんですぅ!? ああー! 節子様ぁ! ドモホルンリンクルでしたら少しだけ待ってもらえへんやろか!? もうすぐ! すぐに複製しますよって!! ほんますぐですぅ!!」



 ドモホルンリンクルは買ってください。

 罪を償う過程で別の罪を重ねさせられるのが独立国家の法である。



「違ういね! なんかねぇ、順ちゃんがピンチらしくてね! よし恵さんがまぁまぁ! 怒っちょってからねぇ! 日本本部に乗り込む言うて聞かんのよぉ!」

「ええ……。お気をつけてとしか言われへん……」


「それでねぇ! 玉ねぎさんの発明品じゃったらね、よし恵さんをおとなしゅうさせられるんやないかねぇって話になってね! どねぇじゃろうか?」


 頼まれてますよ、ペヒペヒエスさん。


「あのぉ……。責任取っておばちゃんが死にますさかい、もうそれで堪忍してもらえへんやろか……。おばちゃんキテレツくんとはちゃうんです……」


 よし恵さんをどうにかしようとして死ぬくらいなら、先に死にたい。

 この玉ねぎの色もかなり漂白されているのではないか。燃え尽きた感じで。


 順ちゃんのピンチを知り得たのは当然だが、エヴァンジェリン姫とノア隊員が行った通信を普通に聞き取ったからである。

 呉のお嬢様方を舐めてはいけない。


 推しの演歌歌手のコンサートチケットが手に入らなければ聴力を超強化して呉にいながら中国地方全域くらいなら頑張れば音が拾える。

 そして「タダで聴いたら泥棒じゃあね」と後日、その歌手の事務所に現金書留とお手紙を送る。


 なお、これは最弱お嬢様にできる能力。

 よし恵さんレベルになると、台風が直撃している中でも瀬戸内海を泳ぐイルカの鳴き声を聞き取ることも可能。



 ノア隊員の通信なんか一瞬で傍受していた。



「……そねぇな事になっちょるんかね。……行って来ようね。……不届きな子にゃ、仕置きせんとね。……こりゃあ無駄に長う生きちょるババアの仕事じゃろういね」


 よし恵さんのお言葉である。

 それを聞いたノアちゃんは「ボク! 逆神先輩のところに戻らなくてはです!! これはいけません!! うあー! 記録する暇もないので、エヴァ先輩とのお話はボクの控えめな胸の内に秘めておきましょう!!」と言い残して去って行った。


 結果的に「超巨大戦力が小隊規模で日本本部にぶっこむ」可能性が発生。

 何が問題かと言えば、ここまで傑出も過ぎる戦力がいきなり「来たよー」と現れたら、敵は戸惑うが味方も同じだけ戸惑う。


 下手すると最大の油断が発生して、間隙突かれて殲滅すらあり得る。

 その後に敵も壊滅するので、残るのは呉のばあちゃんズだけ。


 呉三女傑の中でも穏健派で知られる節子さんが「こりゃいけんねぇ!」と動いた。

 動いた先に玉ねぎがいた。


「どねぇかならんかねぇ?」

「どうもこうもあらしまへんて……。おばちゃん、少しばっかし工作が得意な玉ねぎですやん……。玉ねぎはどう頑張っても人間様には勝てへんようにできてますぅ」


「あー! 玉ねぎさん! この間の動画があったやろういね!!」


 節子さんが閃いた。

 閃いた瞬間にちょっと煌気オーラをお漏らししたので、玉ねぎが死を覚悟した。


「は、はひぃ! すんません! すんまへん!! 呉のPR動画に皆さんのシーン入れまくったら雨宮のお坊ちゃんに叱られた件ですやろか!? ほんま反省してますぅ!!」


 よし恵さんと久恵さんによって「町おこしでもしよういね!」「……まあ、やりぃさん。……玉ねぎさんがメカに詳しかろう」と、軽い感じでとんでもねぇミッションを拝命して、頑張ってお嬢様たちの必殺スキルをふんだんに盛り込んだ動画を編集したら雨宮さんに怒られたのが年末の出来事。


 ピュグリバーから全然帰ってこねぇと思っていたら、ちゃんと独立国家の秘密を隠匿していた雨宮おじさん。


「あの時の動画、上手いこと利用できんかねぇ? 本部? どこにあるんか知らんけど、ちぃと老人会のハイライトシーン流してさ。あたしらもやる言うとこ見せて。呉に半分くらい来てもらえんかねぇ? それじゃったら、よし恵さんも納得してくれると思うんよ。ここで殺戮すりゃあええんじゃから! ねぇ!!」


 節子さんは穏健派。

 よそ様の土地で殺戮をするのは良しとせず。



 やるなら自分らの土地で殺戮しようというのが呉の良識。



「あ。かしこまりましたぁ。すぐに準備しますよって。ほんま、すぐですぅ。2時間もあれば余裕で」

「えっ。そねぇにかかるんかね!?」


「1時間で……あああ! 30……15分でやりますぅ! やらせてもらいますよって!! ほんま、自分の限界に挑戦させてもらえるとか、節子様の優しさが五臓六腑に染みわたりますわぁ! ああー! 若返りそうですぅ!!」


 ところでペヒペヒエスさん。

 まだ色々と答えてもらってないのですが。


 まず、呉の感想をお願いします。


「そんな暇あらへんやろ、アホか!! ああああああ! 違うんですぅ、節子様ぁ! 呉はほんまね、自然は豊かで! ご飯は美味しゅう食べさせてもろてますし! 何よりね! 住んではる人が! もうどなたもあなたもべっぴんさん!! どこ見ても美人さんしか歩いてへんの!! こんなん桃源郷ですやん!? ねぇ! ほなね、皆さんも呉の射程圏内に足を踏み入れらたら、あああ! アレがナニする時はね! 寄ってってもろうて! ね! ご飯も美味しいんですわ、ほんま! ああ、これもう言うたヤツ!! 違うんですぅ! 言う事がないんやなくて! 何回も言うてまうほどご飯が美味しゅうて困るんですぅ!! ポッサムぅー!! 助けてんかー!! どこ行ったんや、ポッサムぅー!!」


 ありがとうございました。

 あと、ポッサムはパウロくんが今日のお散歩当番なので空を飛んで呉の領空パトロールも兼ねたお出かけ中です。


 呼んでも帰って来ません。


 日常回はとても楽しい日常をお届けする空間。

 ステキなご当地の景色をありがとうございました。


 生きていたら、第2弾を期待しています。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 これで全日常回が消化された。

 消化されたので、日常回は終了する。


 するが、日常回は大掃除が済まなければ本編には戻れないという縛りが1つ前から存在しており、今回も恋愛乙女たちがあっちこっちと元気に駆け回ったため、やはりピリッと辛めに絞めなければシリアスでビターで本格的な社会派な物語に回帰できない。


 彼女たちの出番である。


「ぽこ」

「うにゃー?」


「出番のようです」

「チアリーダーになったぞなー。もう好きにしてにゃー。着てみたら意外と普段の装備に近くて驚いとるぞなー。スカートの感覚とかまんまそれだにゃー。スパッツにミニスカがあたしの装備だったぞなー。ノースリーブの腋からおっぱいがチラってるくらいしか違いがないぞなー」


「ぽこ」

「なんだにゃー?」


「貴女がリーダーを務める第三者機関の出動要請です」

「にゃはー。そんなもん無理無理カタツムリだぞなー。今回の日常回は時系列が取っ散らかっとるにゃー? 誰が何を相談しても、まずこうなるぞなー。それ、いつの話で、どこの話? ってにゃー」


「ぽこ」

「瑠香にゃんが止まらん時はだいたい悪い予感しかないぞなー」



「今回からパラレル時空でやるそうです。世界の意志がそう言っています。超越空間・瑠香にゃんリモートを既に用意しています。端的モード。さっさとしろ。ぽこがいないと成立しない回が始まる」

「中途半端にラブコメの種まくからそうなるんだにゃー。ホント恋愛ってクソだにゃー」


 大掃除を経て、戦争に復帰いたします。



 時代はメタバース。

 メタバースのメタがどのメタなのかは判然としないが、多分こっちの意図するメタも含まれて良いと思われる。


 帳尻を合わせて、色々と補完して、気持ちよく戦争を再開しましょう。

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